【海外メディア最新事情】英国 BBC受信許可料廃止で論議 視聴者への価値提供の視点が重要に

入江 晃史
【海外メディア最新事情】英国 BBC受信許可料廃止で論議 視聴者への価値提供の視点が重要に

現在、BBCの受信許可料モデルの将来が英国で論議を呼んでいる。これまでも似たような話は時々報道されていたが、今回は現職閣僚の発言が発端となっており、しばらく論議は続きそうである。

大臣のツイートが契機

同発言は、1月16日にツイッターに投稿された。このツイートは、1月15日付のデイリーメール紙の記事に関連したもの。そこで、まずはこの記事の内容に簡単に触れたい。昨年11月から政府とBBCが交渉していた2022年4月以降の受信許可料の合意内容に関して、受信許可料は今後2年間凍結(=値上げなし)とし、24年から現在の特許状(BBCは、法律とは別の「特許状」という特別な枠組みに基づいて運営されている)の期間が終了する27年12月末までについてもインフレ率以下に抑えることを検討している、と伝えたものだ。英国ではよくある正式発表前のスクープ記事だが、メディア行政を所管するデジタル・文化・メディア・スポーツ省のナディーヌ・ドリーズ大臣自身が1月16日朝、この記事をツイートで引用しつつ、「受信許可料の料額の発表は今回で最後となる」「偉大な英国コンテンツを支援し販売するために、新しい資金調達モデルについて議論するときである」と書き込んだのである。同氏のツイートの前半部分は、政府の方針として受信許可料モデルは今回が最後であり、政府は新しいモデルを考えているのではないかと各方面の憶測を呼んだ。

その翌日、ドリーズ氏は下院で、受信許可料を24年4月1日までは159ポンド(約2万5,000円)に据え置き、その後4年間はインフレ率に合わせて上昇させることを正式発表した。この中では、BBCの将来の資金調達モデルについては議論が必要と言及するにとどめ、ツイートにあるように、今回で受信許可料の料額の発表は最後といった、踏み込んだ発言はなされなかった。

政府の代替案示されず

英国の受信許可料は日本のNHK受信料とほぼ同じ性格のもので、各世帯から毎年徴収されており、その金額は現在、年間159ポンドである。19年の保守党の公約(マニフェスト)には「BBCは一部の高齢者の受信許可料の無料化施策を継続すべきである」と書き込まれていたが、資金調達モデル改革までの言及はなかった。また、受信許可料モデルは今回で最後という趣旨のことをジョンソン政権の現職閣僚が公に言及したのは今回が初めてであった(ただし、選挙戦中、受信許可料は廃止しないのかという問いを受け、ジョンソン氏は現時点で受信許可料システムを廃止することは検討していないが、いつまでこの資金調達システムが正当化できるのか考えるべきといった趣旨の発言はしていた)。

BBCは受信許可料で経費の多くを賄っているため、受信許可料は財政の安定化に欠かせない。BBCのティム・デイビー会長は1月17日、リチャード・シャープBBC理事会議長と連名で「次期特許状については国民的な議論が必要」という声明を発出した。また、デイビー会長は1月26日、下院の公会計委員会に出席し、BBCの資金調達モデルは一人の人間が決めることができるものではないとして政府をけん制している。ドリーズ氏の勇み足のツイッターは、不祥事で支持率が低迷するジョンソン政権への批判を回避するためではないかといった野党からの批判も受けた。
 
今後、次期特許状の議論の中で、政府とBBCの間でさまざまな駆け引きが行われるであろう。放送をめぐる環境が激変する中、政策当局者もBBC自身も、政治的な観点よりも、BBCが英国の視聴者が受信許可料を毎年支払うことに見合う価値を提供できているかという視点を忘れないでほしい。受信許可料以外のシステムの採用を検討するとしても、今後のBBCの役割は何か、BBCが英国民の求める価値を提供するためにどのような制度が望ましいか、という地に足が付いた議論を期待したい。

現在のところ、政府からは資金徴収のための代替モデルの案は出てきていないし、昨年3月に公表された下院の調査結果でも、受信許可料システムの適当な代替案はないのではないかという指摘がなされている。新しいモデルはそう簡単には見つからないと思われるが、政府はBBC改革として、さまざまな議論を提起していくと推測される。
 
今年はBBC創立100年に当たる。次の100年もBBCが素晴らしいコンテンツを提供し続けるため、政府やBBC自身がどのように改革を進めていくのか、その動向から目が離せない。

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