英BBCの商業部門の制作子会社「BBCスタジオ」は3月13日、24時間生放送のニュースサービス「BBCニュース」を北米で無料配信すると発表した。すでにスタートしており、ネット環境があればアクセスできるFAST(Free Ad-Supported StreamingTV=広告付きストリーミング配信サービス)のプラットフォーム(Pluto TV、Xumo Play、Plex、Sling Freestream)や、コネクテッドTVメーカーのFASTプラットフォーム(Samsung TV Plus、VIZIO WatchFree+)で視聴できる。
これまで「BBCニュース」のライブ放送は有料で、「BBCアメリカ」の協業パートナーであるAMCネットワーク が衛星放送のDirecTVやDishネットワーク、ケーブルテレビのコムキャスト、チャーター、vMVPD (配信によるテレビチャンネルのバンドルサービス)のYouTube TVやPhiloなどとライセンス契約を結んで提供していたが、米国でのFASTビジネスの成長に着目し、広告付きの無料配信プラットフォームに拡大することにした。
BBCスタジオは、「これまでの有料サービスチャンネルを補完するもので、今回の事業拡大でBBCニュースのリーチが2倍以上に増える」と説明。BBCは大幅なコスト削減の一環として、海外と国内に分かれていた24時間ニュース放送を昨年4月に一本化した一方で、北米における事業拡大の一環として、ワシントンD.C.支局のニュース業務を拡大し、米国発ゴールデンタイムの夜間放送枠を増やしてきた。また、シンガポールにも生放送拠点を置き、24時間放送体制を構築している。
<新装されたワシントンD.C.支局スタジオからの北米向けニュース>
BBCのティム・デイビー会長は2024年度の年間計画を3月28日に発表。そのなかで優先課題の1つに「真実の追求」を挙げ、「偽情報に対抗し、英国の総選挙や米大統領選挙を他に類をみない形で報道する」ことをBBCの重要な役割と位置づけている。その意味でBBCスタジオの幹部は「独立したニュースや情報へのアクセスがこれまで以上に重要となっており、米国でBBCニュースのリーチが広がる重要な節目」としている。
米国のFASTサービスで最も多く利用されているジャンルはニュースとされ、3大ネットワークもそれぞれニュースのFASTチャンネルを持っている。しかし、その中心はリニア放送の再放送だ。米大手の報道機関ではCNN Max (有料)以外でBBCニュースのような24時間ライブストリーミングをしておらず、大統領選を控えるこの時期のBBCの参入は大きなインパクトを与えそうだ。
BBCニュースのFAST参入の契約をまとめたAMCネットワークは「無料配信プラットフォームに24時間ニュースチャンネルとして加わることは、グローバルニュース、パートナープラットフォーム、そしてFASTの配信エコシステム全体にとって画期的」とコメントしている。
今回のFAST進出にはビジネスメリットも期待される。BBCは24年度の赤字を4億9,200万㍀と見込んでいる。折しも、BBCスタジオは3月1日に民放最大手ITVと共同で立ち上げた黒字経営のSVOD事業「BritBox International」の買収(完全子会社化)を発表したばかり。海外ビジネスの収益で公共放送事業の赤字を埋めなければならないプレッシャーは年々強まっており、BBCスタジオ発のオリジナルコンテンツ開発やニュースサービスの刷新に巨額の資金を投じてグローバルな視聴者を引きつけ赤字を減らす狙いだ。BBCスタジオは順調に売り上げを伸ばしているが、今回のBritBox Internationalの買収は、ITVの50%株式を2億5,500万㍀の現金対価で取得するとのこと。公共放送による多額のビジネス投資が今後、英国内でどのように評価されるか注目される。