(①はこちらから)
米バイデン政権による行政機関幹部人事の遅れが目立つ。政権交代が生じるたびに、約4,000のポストが大統領による政治任用の指名対象となり、このうち、1,200程度は上院の承認を得なければならない。ワシントンポスト紙と公益団体パートナーシップ・フォー・パブリックサービスが共同で、上院の承認が必須な1,200ポストのうち801の承認状況について調査している。それによると、バイデン政権は526人の政治任用者を指名済みで、このうち上院が承認したのは387人。5人目のFCC(連邦通信委員会)委員を含む137人が審議中で、公式指名待ちが2名である。このほか、101のポストはいまだに政治任用者が指名されていない。
バイデン政権が看板政策に掲げた総額1兆ドル規模のインフラ投資法案は、2021年11月にようやく成立した。難産となったのは、共和党のみならず民主党左派とも対立したためだが、行政管理予算局長の不在も関係があると言われている。最初に指名されたのはニーラ・タンデン氏。2020年11月に指名されたが、上院の承認が得られる見込みがたたず、21年3月に指名撤回に追い込まれた。その次に指名されたのは、局長代行職を務めていたシャランダ・ヤング氏で21年11月に指名され、今年3月に承認された。つまり、大統領に代わって議会に政府予算を勧告する行政機関のトップはバイデン政権発足後、約1年2カ月間不在だったわけである。
政治任用者の指名ペースは、トランプ前政権とそれほど変わらないが、政策遂行に及ぼす悪影響は少なからず出始めており、バイデン大統領のリーダーシップが問われている。FCCと同様にデッドロックに陥っていたFTC(連邦取引委員会)は、ようやく始動することができた。21年3月、FTC委員長に指名されたのは独禁法規制強化論者として知られるコロンビア・ロー・スクール准教授のリナ・カーン氏。同年6月に上院の承認を得て委員長に就任したが、5人目の委員が決まらず、FTCは巨大IT企業に対する規制強化策を進めることができずにいた。デジタル分野のプライバシー保護専門家であるアルバロ・ベドヤ氏が5人目の委員として今年5月にようやく承認され、FTCの体制が整ったわけだが、上院での評決は賛成50票対反対50票の同数。ハリス副大統領の決裁票によりかろうじて承認されたという状況であった。
では、FCCはどうかと言うと、委員長代行を務めていたローゼンウォーセル氏が、21年12月7日に上院の承認を得て3期目となる委員就任を決め、正委員長に指名されたが、2期目の任期切れの約3週間前という危ういタイミングであった。ローゼンウォーセル氏は、2012年にFCC委員に就任したベテランで、共和党議員からも一定の支持があった。そのため、上院の承認手続きはスムーズに進むと予想されており、さらに、実績からみても新委員長にはローゼンウォーセル氏が最適任と言われていたにもかかわらず、3期目の委員として指名されたのが21年10月26日と極めて異例の遅さである。
FCC委員は2名分が空席となっており、残り1名が決まるまでは、民主党、共和党それぞれ委員が同数(2名)のため、多数決による評決ができない。そのため、5人目の委員として指名されたギジ・ソーン氏の承認手続きが待たれるが、暗礁に乗り上げている。同氏は、オバマ政権(民主党)でFCC委員長を務めたウィーラー前委員長の側近で、ネット中立性規則の策定、成立の実務を取り仕切った経歴の持ち主だが、共和党全議員と民主党の一部から猛烈な反対を受けている。
共和党議員からは、規制強化的思考が激しすぎる人物を認めるわけにはいかないと猛反発の声が挙がるなど一枚岩で結束し反対している。ハイトキャンプ前上院議員が代表を務める民主党系の政治団体は、アリゾナ州、ネバタ州、ウエスト・バージニア州など6つの州で、ソーン氏のFCC委員指名は間違いである、とのキャンペーンを行っている。そのため、指名されてから8カ月弱経っても承認が得られていない。
ソーン氏は21年10月26日に指名され、12月1日に上院商業・科学・交通委員会のヒアリングを受けたが、上院本会議への勧告には進めずバイデン大統領に差し戻しとなった。年が明け、連邦議会の第2セッションの開始とともに再指名を受け、今年2月9日に2回目のヒアリングを受けた。ここで同氏のFCC委員就任を認める評決を行い、上院本会議に勧告する予定であったが、直前に約1カ月間延長された。民主党側の委員が一人、健康上の理由で委員会に出席できなくなり、過半数を得られなくなったからである。
ヒアリングに先立つ1月27日には、同氏が後述するLocastの経営に関与していたことなどが問題視されていることへの対応として、FCC委員就任後3年間は再送信同意やテレビ放送に関して、著作権が重要問題となる案件の決議には自主的に加わらない考えを発表した。それにもかかわらず3月3日に行われた評決でも過半数は得られず、賛成、反対ともに同数の14票となったため、上院本会議には賛成も反対もない勧告を行わざるを得なかった。
同氏は過去の「フォックス・ニュースは民主主義を破壊している。国策のプロパガンダだ」等のツイッターへの投稿や、Locastの経営幹部に就任していたことが問題となっている。Locastは、大都市圏で地元ローカルテレビ局の放送をネット配信する事業を行っていた。4大ネットワーク等の許可を得ず番組をネット配信していたが、ユーザーから利用料を徴収しない非営利での活動であったため、黙認されていた。しかし、サービスエリアの拡大等に伴い、ユーザーから月額5ドルの寄付を募り始めた途端に、4大ネットワークから著作権違法で訴えられた。訴訟において、Locastは「ユーザーからの寄付は、収益ではなく、サービス事業を維持するためのコストにのみ充当するものであり、著作権法の除外規定により認められている」と主張したが、認められず敗訴。21年9月に事業を停止した。
また、同氏は著作権保護の強化などに反対の立場をとる、非営利の政策提言団体パブリック・ノレッジの共同創設者の一人である。現在、同氏の就任は上院本会議で審議中だが、猛烈な反対を受けているのは、同氏の著作権保護に関する考え方や、フェアユースの解釈の仕方にあるようだ。FTC委員の承認手続きが決着したことから、反対議員への説得活動が本格化していると言われているが、現在、上院議員数は民主党、共和党ともに50人。ハリス副大統領の決裁票で過半数を取れるが、反対者が一人でも出れば否決されてしまう。反対議員を一人残らず説き伏せねば評決に進むことができない。
11月8日には中間選挙が実施され、1/3の上院議員が改選となる。タイムリミットは近づきつつある。中間選挙は与党側の議員数が減る傾向にあり、バイデン大統領の支持率低迷により民主党の劣勢が伝えられている。残された期間からみても、今さらソーン氏の指名を撤回し、2人目の指名候補者を出すこともできない。
上院の開催日は、7月末まで残り24日間程度。民主党はこの間になんとしてでも承認を勝ち取らねばならない。8月は休会となるため、9月まで持ち越してしまうと5人目の委員が決まらないまま中間選挙を迎える可能性が出てきてしまう。いずれかのタイミングで上院本会議での評決が行われるだろうが、予断は許されない。いましばらくの間は、FCC委員は民主党2名対共和党2名のままで、ネット中立性規則やメディア所有規則など重要案件の審議ができない状況がもう少し続くだろう。