BPO検証委、「取材源の秘匿を貫けず」 TBSテレビ『news23』の調査報道企画に意見

編集広報部

BPO(放送倫理・番組向上機構)の放送倫理検証委員会は1月11日、TBSテレビの『news23』が2023年1月12日に放送した調査報道企画に「放送倫理違反があった」とする意見を公表した。

番組は各地の農業協同組合(JA)と全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)が一体で保障を提供している「JA共済」の契約で、過大なノルマを達成するためJA職員が家族などを加入者に不必要な契約を結び、掛け金も自分で負担する"自爆営業"を行っている実態を、内部告発に基づき複数の職員が匿名で登場して伝えた。顔にぼかしを入れ、声も変換されていたものの、放送後、BPOに「(告発者が)誰なのか、すぐに特定できた」との指摘があった。

TBSは21年3月に一般市民から不正や不祥事などの情報提供を募る「TBS インサイダーズ」をウェブ上に開設。同年7月には報道局内に「調査報道ユニット」を発足させた。今回の企画はTBS インサイダーズへの情報提供が発端だった。しかし、担当となった番組制作会社所属のディレクターは本格的な内部告発企画を手がけるのは初めて。当事者へのインタビューは顔や声は加工したものの、取材場所や装身具など本人が特定されるような情報の処理への配慮を著しく欠いていた。また、告発者との約束を反故にして一部のシーンを放送で使っていたことも検証委の調べで明らかになった。原稿の作成や番組編集もディレクターがほぼ単独で作業し、スタッフのプレビューでも証言者の身元判明リスクを見抜くことができなかったという。

検証委は「取材源の秘匿はジャーナリストが絶対に遵守すべき最高位の、かつ、基本的な倫理」と述べ、それを貫くために確実な対策を講じることが取材者や放送局に課せられた責務であり、その責任は放送人と放送局にあると明言。一方、報道は真実性を担保するため実名と顔出しを原則とすることにも触れ、さまざまな事情から素性を明かさず報道機関に情報を提供する場合には、内部告発者が所属する組織や社会から不利益や報復を受けることのないよう、放送局が具体策を講じるべきとの原則をあらためて強調した。しかし、今回は、①内部告発者との信頼関係が不十分で、情報源秘匿のために負うべき責任を軽んじていた、②第三者の視点を遠ざけた制作体制とプレビューの不全、③担当ディレクターが置かれた立場と、組織内の"見えない壁"が意思疎通を阻んだ――とし、この問題でTBSがまとめた内部調査報告書の結論である「情報提供者の身元が特定される危機を招き、報道機関としての信頼を揺るがした」も引用しながら、放送倫理違反にあたると判断した。

なお、意見書は結びに「失敗から学び、前へ!」の章を設け、調査報道の意義と重要性を説きながら、各放送局がここ数年で「調査報道」を冠する組織や番組を相次いで立ち上げていることを高く評価。「その意志を絶やすことなく挑戦を続けてほしい」とエールを送った。ただし、「社会を揺るがすような報道を手がけたとしても、内部告発者の保護を貫徹できなければ、取材者は捨て石のように扱われていると視聴者は嫌悪する」とも述べ、TBSのケースを大きな教訓とし、他局の制作者には足元を見つめ直す契機とするよう望んでいる。

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