2023年度 BPO年次報告会 「放送と人権」をテーマにシンポジウムも開催

編集広報部

BPO(放送倫理・番組向上機構)は3月22日、2023年度の年次報告会を都内で開催、オンラインで配信も行った。特別シンポジウム「放送と人権 いま放送局に何が求められているのか」に続き、放送倫理検証委員会、放送人権委員会、青少年委員会の3委員長が23年度の活動を報告した。

冒頭、大日向雅美理事長があいさつし、芸能事務所の性加害問題では視聴者から「厳しく取り締まれ」という声も寄せられたが、「何らかの瑕疵(かし)があれば、放送界自らが律するべきであり、BPOはその後押しをする機関」と説明。また、この問題で23年12月4日に理事長名で出した見解は「第三者機関として務めてきた足跡を守り抜く思いでつづった」と振り返った。そのうえで、放送の公共的使命が問われているとして、今日がその議論の「第一歩となることを願う」と語った。

特別シンポジウム「放送と人権 いま放送局に何が求められているのか」は、小西美穂・関西学院大学特別客員教授がモデレーターを務め、田中東子・東京大学大学院教授、西山守・桜美林大学准教授、ジャーナリストの鎌田靖氏が登壇した。

田中氏は、メディアを通じて見るイメージや表現によって思考が制限されると説明。メディアが性加害問題について沈黙し、故・ジャニー喜多川氏はいい人であると伝えてきた影響は大きく、ファンによるこの問題の否定が生じたと指摘した。こうした構造を変えて社会問題化するためには、人権やジェンダー、ダイバーシティに関する知識の更新、ジャーナリストの"脱サラリーマン化"などが必要であると提言。「放送局には人権を語る資格はないかもしれないが、語る責任はある」と述べた。

旧ジャニーズ事務所が「週刊文春」を提訴し、一審判決が出た際にNHKの社会部で司法キャップを務めていた鎌田氏。当時はよくあるメディアによる名誉棄損の事案だと思い、「性加害の切り口で考える発想はなかった。忸怩(じくじ)たる思いだ」と吐露した。そして、世の中の反応を踏まえて報じるのではなく、社会の流れにあらがっても注意喚起を行うことが、「放送局を含めたジャーナリズムの役割だ」と語った。

西山氏は、メディアは当初、旧ジャニーズ事務所の問題を芸能スキャンダルとして認識していたが、「深刻な人権侵害で、企業のトップが起こした不祥事」と指摘。この問題以降の企業対応は、疑わしきは静観ではなく、説明責任を果たさない企業とは取引できないようになったと変化を説明した。放送局に対しては、自助努力だけでは不十分で、外圧によって変わることもあるとして、社内人材の流動性を高めることや社外との人材交流などで世の中の声を把握することなどを求めた。

さらに、BPOが事前に加盟各社に対して人権意識の変化、今後取り組むべき点などを尋ねたアンケート結果をもとに議論を行い、小西氏が「人権について、各社の職場でも議論してもらえるとよい」と、締めくくった。

続いて、3委員長が23年度の活動を報告。放送倫理検証委の小町谷育子委員長は、12月と1月にそれぞれ委員会決定を行ったNHK『ニュースウオッチ9』新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族をめぐる放送と、TBSテレビ『news23』「JA自爆営業」調査報道の事例のほか討議を行った番組について解説した。また、1月26日大阪市で開催した関西のラジオ局との意見交換会では、討議事案を取り上げ「活発な議論で非常に有意義だった」と振り返った。そして、今年は選挙が見込まれるとして、「民放連の放送基準、NHKガイドラインに従って、豊かな放送がなされることを願っている」と語った。

放送人権委の曽我部真裕委員長は、7月に発表した委員会決定「ローカル深夜番組女性出演者からの申立て」の内容を解説するとともに現在審理中の事案について説明。また、"審理入りしない"または"対象外"とした5事案の概要も紹介した。1月31日に福岡市で開催した意見交換会は、「あまり議論が進んでいなかった災害報道で求められる人権配慮について取り上げられた」と述べた。

青少年委の榊原洋一委員長は、討論入りした「子どもの出演者に対するドッキリ企画を行ったバラエティ番組」の概要を説明。また、視聴者意見の傾向や中高生モニターの意見や11月22日に金沢市で実施した意見交換会の内容を紹介した。また、人権に関連して「ダイバーシティは、性別や人種など"横方向"で語られるが、子どもはそれを貫いた"縦方向"になるので、それを意識する必要がある」と語った。

最後に4月1日付で、放送人権委に東洋大学教授の大谷奈緒子氏、弁護士の松尾剛行氏、青少年委に弁護士の池田雅子氏が就任すると発表した。

放送人権委の二関辰郎委員長代行と水野剛也委員、青少年委の緑川由香副委員長は3月31日付で退任した。

大谷奈緒子氏(おおたに・なおこ)
1969年生まれ。東洋大学社会学部教授。専門はメディア・コミュニケーション論、地域メディア論。共著に『新版 概説マス・コミュニケーション』(学文社)、『新 放送論』(学文社)など。

松尾剛行氏(まつお・たかゆき)
弁護士・NY州弁護士・法学博士。学習院大学特別客員教授、慶應義塾大学特任准教授。
著書に『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』『最新判例にみるインターネット上のプライバシー・個人情報保護の理論と実務』(ともに勁草書房)など。

池田雅子氏(いけだ・まさこ)
1977年生まれ。弁護士。トロント大学人文科学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。日弁連人権擁護委員会人権と報道に関する特別部会特別委嘱委員。共著に『高校生からわかる政治のしくみと議員のしごと』、『メディア用語基本事典』(第2版、執筆分担)。

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