よしもとブロードエンタテインメント・木村友厚さん BSよしもと『ジモトノチカラ!』万博中継 "とにかく楽しむ" そして"つなげる" 【制作ノートから】⑯

木村 友厚
よしもとブロードエンタテインメント・木村友厚さん BSよしもと『ジモトノチカラ!』万博中継 "とにかく楽しむ" そして"つなげる" 【制作ノートから】⑯

民放onlineは、シリーズ企画「制作ノートから」を2024年2月から掲載しています。第16回はBSよしもとの生ワイド『発信Liveジモトノチカラ!』で2025年4月から連日、大阪・関西万博の会場から生中継している企画を担当する木村友厚さんに、同企画の概要やご苦労などのエピソードを紹介いただきます。作り手の思いに触れ、番組の魅力を違った角度から楽しむ一助にしていただければ何よりです。(編集広報部)


BSよしもと『ジモトノチカラ!』とは

大阪・関西万博からの生中継エピソードをお伝えする前に、まず番組全体の紹介をさせていただきます。BSよしもとの『発信Liveジモトノチカラ!』(月~木、13時~16時、生放送)は日本各地の「ジモト」のいいところ、おすすめのモノやヒト、文化・風習などを紹介しています。いろいろな魅力を「ジモト」を愛する吉本興業に所属する「住みます芸人」がアツく発信する生放送の情報番組です。

月曜・火曜は東京・墨田区にある真新しいBSよしもとスタジオ「すみだメディアラボ」から、水曜・木曜は笑いの殿堂よしもとグランド花月がある大阪本社のスタジオ(実はアナブースで、おそらく日本一狭いスタジオと自負しています)から発信しています。

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出演:月曜MC  福田充徳(チュートリアル)  サブMC CRAZY COCO
   火曜MC  佐久間一行          サブMC CRAZY COCO
   水曜MC  ナヤギブソン(ザ・プラン9) サブMC やました
   木曜MC  西川かの子          サブMC もりやすバンバンビガロ

   全国住みます芸人・アジア住みます芸人
   リポーター:はじめましてはじめ

"地方創生"を掲げるBSよしもとのステーションカラーを基に、北海道から沖縄、さらにはタイやベトナムなどアジアに至るまで、時宜を得た最も輝いている人や場所を生放送で伝えています。私も立ち上げから番組プロデューサーとして携わってきました。

そんな折、関西万博行きの話を告げられたのは、2024年11月。定年後の再雇用契約を結ぶタイミングでした。「いいですね」――正直、何のためらいもなく、引き受けました。こうして新年を迎え、『ジモトノチカラ!』内で行う万博中継の会議がスタート。まずは、リポーターのブッキングに関してミーティングを重ねました。

私は「とにかく、学習することが好きな若手芸人」という、お笑い能力を差しおいた、へんてこなリクエストを出しました。「万博」というとてつもない国家的事業を取り扱うには相当量の予習が必要と感じたからです。候補に挙がったのは、NSC(吉本総合芸能学院)大阪42期、芸歴6年目、テレビ出演は経験ゼロのピン芸人「はじめましてはじめ」でした。

吉本のグループ会社社員としてはお恥ずかしい話ですが、ネタも見たことのない芸人さんでした。ただし、私のリクエストにはぴったり。彼は、国立大阪教育大学を卒業、小学校の教員免許も取得していました。つまり、「学習することが好きな芸人」と勝手に決めつけて採用してもらいました。ここから、万博中継への道がスタートするのです。

とにかく歩いた4月 スマホの万歩計は6万歩

3月20日、西川きよし師匠にもお越しいただき、『ジモトノチカラ大阪・関西万博 開催直前SP』という3時間生中継の特番を制作。その準備と並行し、4月からスタートさせる万博生中継のために各パビリオンに中継申請を始めました。

まず、問題が生じたのは言語の壁です。残念ながら、日本語もつたない私にとって外国語なんてトホホの世界。さっぱりです。30ほどのパビリオンにメールを送信するも、返信をいただいたのは2割弱......先方にすりゃ得体のしれない者からの取材申請、しかも「生中継とはいかがなものか」という感じだったのではないでしょうか。もちろん、博覧会協会(公益社団法人2025年日本国際博覧会協会)の方々には日々、尽力いただいています。そんなサポートもあり、中継候補が徐々に整ってきました。

そうです、いわゆる営業です。直接交渉しかありません。ペラ1の番組概要書と名刺を持ってパビリオンに出向きました。開幕前のパビリオンに突入するには覚悟が必要でした。交渉が決裂するとお先真っ暗......この先、途方に暮れてしまいます。もちろん、言葉も通じませんが、こちらの思いとほんの少しのジョークを交えて伝えると、パビリオン関係者のみなさんも「面白そう!」「じゃ、こんなことも出来るよ」など、「キムラサン、イッショニタノシモウ!!」と歓迎を受けるようになるまで、なんとかたどりつけたのです。ちなみにこの間、名刺は150枚以上使用しました。

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<大阪ヘルスケアパビリオン㊧とブラジルパビリオン㊨をリポート>

そして、4月13日(日)大阪・関西万博開催の前週、4月7日から「もうすぐ万博」という企画で生中継をスタートさせました。

『発信Liveジモトノチカラ!』は13時から16時の生放送番組ですが、万博からの生中継は14時30分から15時までの30分間です。中継冒頭、はじめましてはじめとスタジオMCとのやり取りがあり、その日の会場の天気・気温・お客さんの状況などを伝えたのちに、パビリオンのご紹介へと進めていきます。案内いただく館長やスタッフの方々のリードのもと、視聴者のみなさんにも丁寧でわかりやすい、そして楽しいを伝えられるよう汗をかきます。

生中継に向けた連日のスケジュールはこんな感じです。
11時30分、まず中継に不可欠な電波の回線チェックとリハーサルを行います。もちろん、いきなりリハーサルに入るわけではありません。はじめと私は事前に現場をチェックし、ローカルのリハーサルを行います、いわゆる自主トレです。生中継に必要な表現方法、動きなどリハーサルまでに何回も繰り返し、鬼軍曹ばりに彼へ注入しました。

実を言うとはじめはテレビ出演経験が全くなく、とにかく、何から身につけていいものかも分からない状態で相当戸惑ったと思います。しかし、おかまいなしに私は伝え続け、千本ノックのように自主トレを繰り返す日々が続きます。というのも、私が現役のディレクター時代、朝のテレビを象徴する番組で中継を担当し、総合演出から中継のイロハを叩き込まれたからです。

桜や紅葉の京都3時間中継から、大阪で起きた小学校の児童殺傷事件など日々起こるニュース現場まで、人の喜怒哀楽を映像で表現してきました。中継に必要なのは、流れを止めない、切らない。そして、自分の気持ちではなく、現場の方々の思いを画面にのせる。当時を回顧しながら、夢中になって2人で駆け抜けた4月。万歩計を見ると時には1日6万歩に達していました。

15時の生中継を終えると翌日以降に中継する各パビリオンの下見や打ち合わせが続き、落ち着いたころ、明日の中継台本を仕上げることがルーティンとなりました。中継スタッフは、はじめを含め3人です。非常にミニマムな体制ですので、躊躇なくはじめには中継先の情報をリサーチしてもらうこともお願いしました。ここで、「学習することが好き」という彼のスキルが見事に開花し、私が書いた中継台本に肉付けしてくれるようになりました。それと、中継スタート当初から、カンペを見せなかったこともあわせて、書かれたものを「読む」のではなく「伝える」ということを少しずつ身につけてもらえるようになったような気がします。

中継前、各パビリオンの出演者をつかむため、必ず渡すのが1本のお水。業界でいうケータリングです。養生テープにお名前を書き、ラベルとしてペットボトルに貼り付けてお渡しします。もちろん、普通のお水ですが、これが好評で写メまで撮ってもらえます。われわれの世界では当たり前のことが、一般の方だとそうではないんだ! こちらの世界に引き付ける小道具になっています。

活力は"カラオケ盆踊り"と"花火"そして"笑顔"

日々、現場は動いています。各パビリオンの方々の思い、視聴者のみなさんへの発信の仕方など、背負う緊張感は絶えません。そんななか、リセットしてくれるのが、わが「よしもとwaraii myraii館」のステージで開催されるコンテンツ「盆踊りのアシタ」。伝統的な盆踊りにカラオケやダンスを融合させた、クールジャパンを体現する新しいエンターテインメントです。

子どもたちがステージで一生懸命に歌い、会場にいる全員も踊り、歌う、そして、芸人さんたちが花を添える、この光景は未来を担う子どもたちと大人たちがつながる理想的な世界です。さらに、日が沈むと打ち上がる万博の花火。そして、万博会場内にあふれる笑顔。

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<スイス㊧とアンゴラ㊨の各パビリオン>

会期を終える10月13日まで半月余り。各パビリオンは日々、アップデートし続けています。『ジモトノチカラ!』万博中継班もその瞬間を逃さず、来場できない視聴者の方にもその魅力が伝わる、そして伝えていただくためにも会場中を歩き回りたいと思います。

日々、リポートを行うはじめや出演してもらう芸人さんの「笑い」や「笑顔」を海外の方々にも吸収していただき、それぞれの国で「笑い」という花が咲くよう務めることもわれわれができることではないでしょうか。生中継のシメは、各パビリオンの方々にメッセージをいただくとこにしているのですが、みなさん必ず「万博は楽しい場所」「一緒に楽しみましょう」と話してくれます。

今回、毎週4日間連続の万博生中継ができたのは、博覧会協会の関係者、各パビリオンに携わるスタッフの方々など多くのご協力があってこそ成立したと実感しています。

全国各地・アジアの「住みます芸人」たちも至るところでタネをまいています。それを町の方々と一緒に育てています。例えば、大阪・関西万博の次は2030年にサウジアラビア王国で開催されます。お世話になったサウジの方々に少しでも恩返しができるよう日本のお笑いを活用してもらえれば......。日本人観光客を誘致するためにわれわれができることもアプローチできれば、この万博に携わっている本来の意味につながると思います。そのためには、この大阪・関西万博で精いっぱい楽しみたいと思います。

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