BSよしもと 地方創生を経営戦略に

稲垣 豊
BSよしもと 地方創生を経営戦略に

吉本興業グループは、今まで全社で地方創生事業を進めてきました。2011年には「あなたの街に住みますプロジェクト」を発足させ、47都道府県すべてに"住みます"芸人を置き、自治体や地域企業等とのネットワークを築き上げています。

その地方創生事業をさらに発展させるツールとして、吉本興業会長である大﨑洋はテレビ局をつくることにしました。「各地の住みます芸人にスポットライトを当てて、全国の市区町村を盛り上げる局をつくりたい。一つくらい地方創生のみに特化したテレビ局があってもいいではないか」と考えたのです。

BSよしもとの基本的なビジネスモデル

そうしたコンセプトのもと2022年に開局したBSよしもとは、既存の局とはビジネスモデルから異なるものになりました。

まず、この局では視聴率を追求してはいません。数字が見込めるタレントを出して視聴率を稼ぐという従来の番組作りも、意識しすぎないようにしています。視聴率を追いかけるがあまり、最初に掲げた地方創生のテーマから外れていくことを避けたかったからです。また、他局と数字の競い合いをすることも望みませんでした。

では、視聴率にとらわれずにどのように収益を上げるのか。私たちは「一番組一起業」を基本方針に据えました。

この「一番組一起業」では、住みます芸人たちが自分たちの街でビジネスの種を探し、それを各番組で取り上げて一つの会社をつくっていきます。そしてその企業を育て、ゆくゆくはスポンサーとして番組に出稿してもらったり、その企業の上場によって上場益を得たりするビジョンを描いたのです。

もちろん、言うのは簡単ですが、番組から上場企業を生み出すことが短期にできるとはわれわれも思っていません。西川きよしさんではないですが、「小さなことからコツコツと」。まずは地域密着型の商品開発や起業支援を一つ一つ丁寧に行いながら、地方を活性化していこうと考えています。その中からは、もう起業につながりそうな案件もいくつか出てきていますし、10年後に大きな企業が育ってきてくれれば、収益の柱になるだろうと考えています。

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タレントを抱える会社だからこその強み

また、「一番組一起業」以外にも、タレントのマネジメント会社である吉本興業の強みを存分に活かしていこうと思っています。

その強みの一つが、番組の二次使用許可にあります。従来のテレビ局では、出演者まわりの権利があるので、スポンサーが番組映像を二次使用することは難しいという事情があります。ところが、BSよしもとは自社タレントを起用することで、比較的容易にクリアすることができます。すでに番組の自由な二次使用を魅力に感じた企業様から、1社提供していただく番組も増えてきました。

さらに、マネジメント会社の強みを生かして、次世代のタレント発掘も考えています。テレビ埼玉の『いろはに千鳥』や、山陰中央テレビの『かまいたちの掟』は、売れる前の千鳥やかまいたちを使って冠番組をつくられました。彼らはそれを恩義に感じていて、売れた後も番組に出続けている。その形をわれわれも目指していきたいと思っています。

BSよしもとと三重テレビで共同制作している『ビスケットブラザーズの行けばわかるさ!』も、その目指す形に近い番組となりました。番組開始後にビスケットブラザーズがキングオブコントで優勝し、指折りの人気番組となっていきました。このように、これから伸びるだろう若手を真っ先に見つけ、彼らが売れた後に「最初に世話になったのはBSよしもとだった」と、大切に思われるテレビ局を目指したいと考えています。

BSよしもとがつくる新しいテレビ局の可能性

私は1978年に新卒で入社してから42年間、電通にいました。そのうちの最初の半分以上はテレビ局と向き合う部署で働いていたので、業界と長く接しながら過ごしてきました。そして、2019年に電通を定年退職した後に吉本興業の副社長に就任し、その翌年にBSよしもとの社長を拝命しました。

長く放送局と接してきましたが、実際にテレビ局に勤めていたわけではないので、社長に任命された時は、正直驚きました。しかし、大﨑から「既存のテレビ局とは異なる局をつくるために、放送局出身ではない人を選んだ」と聞いて、それならとお受けしました。

今はBSよしもとの目指す思想に大きな魅力を感じていますし、地域を盛り上げる喜びと、視聴率という通信簿を追いかけない番組作りに、経験したことのない楽しさを感じています。

BSよしもとは走り始めたばかりで、従来のテレビ局とは違う路線を行くからこそ、まだまだ手探りで課題が山積しています。しかし、地方創生というテーマは明確で、局の特色や強みもはっきりしているからこそ、われわれらしいテレビ局をつくっていけると明るく考えています。

まだまだ先行局と比べて視聴者数は少ないですが、辛抱強く丁寧な番組作りを行い、既存のビジネスモデルに捉われないやり方で、早期の単年黒字化を目指していきたいと考えています。

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