BS日本・沢渡凜璃子さん 「BS放送の可能性~同世代に見てもらうために」<U30~新しい風>⑰

沢渡 凜璃子
BS日本・沢渡凜璃子さん 「BS放送の可能性~同世代に見てもらうために」<U30~新しい風>⑰

30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。17回は、BS日本(以下、BS日テレ)の沢渡凜璃子さんです(冒頭写真:BS日テレ公式キャラクターのバブちゅ~とともに)。BS4K放送が始まった2019年に入社し、5年間の営業職を経て現在は編成部で2Kと4Kの2つのタイムテーブルを担当されています。BS放送の可能性と実現したい自身の目標について語っていただきました。(編集広報部)


BSの番組って見たことある?」
「見たことない」という答えが怖くて、最近では同世代に投げかけさえしなくなりました。SNSなどでよく目にする、「○○(タレント)がBS日テレの番組に出るらしいけど、うちはBS見られないし!」「BS日テレは見られないから地上波で放送してください!」というコメント。「BSは全国どこでも見られるのにな」「BS日テレは無料で見られるのにな」と悲しくなります。これまで、無意識に自分でも「BSの可能性」を狭めてしまっていたのかもしれません。

私がBS日テレに入社したのは2019年。その年の9月から当社でも「4K放送」が始まり、10月からは深夜帯をアニメ大幅増枠編成に。204月からはBSでも「新視聴率調査」を導入。コロナの流行やテレビを取り巻く環境も大きく変わり、今思うとBS日テレの過渡期に入社したのかもしれません。

今年の6月に営業部から編成部に異動になり、「トラフィック」という番組のタイムテーブルを作る業務を担当する中で、「BS放送に求められていること」「BSだからできることは何なのか」を考える機会が特に増えました。今回は、BS日テレの編成担当として私が思う「BS放送の可能性」を書いてみます。

 思っていたテレビ局とのギャップ

私は、テレビ局員だった父の影響で「番組制作」がしたくてテレビ局に入社しました。当社には「制作部」はありますが、いわゆる「ディレクター」は1人もいません。制作部員は、プロデューサーとして制作会社との連携や予算管理、番組責任者として放送までのコントロールをします。ロケに行ったり、取材に行ったり、「ザ・テレビの仕事」をしている地上波局の友人をうらやましく思う時期もありました。

また、当社を含むBS局はメインの視聴者層が50歳以上です。地上波のバラエティ番組のスピード感を早いと感じる視聴者に向けて、画替わりの少ないゆったりとした構成にしたり、50代以上に根強い人気を誇る歌番組・時代劇や、コア層に向けたゴルフ・野球・旅を多く編成しています。
BSっぽい番組をありがとうございます!」「こういうBSっぽい番組の放送を期待しています!」
毎日当社に届く、メインで見てくださる視聴者層からのご意見は大事にしないといけないと感じます。

入社時は、視聴者の年齢層が高い自局の番組と自分が普段見る番組のギャップを感じることも多かったですが、当初からずっと目標に掲げていることがあります。それは、「自分と同世代にBS日テレの番組を見てもらう」こと。同世代が見ていないなら、同世代が見るテレビ局に自分たちでしていけばいいじゃないか。次世代のBS日テレのファンは自分たちの世代が築いていかなければいけないのではないか。

「深化と探索」

入社当時の社長(現顧問)が社員によく言っている言葉に「深化と探索」というものがあります。「深化」とは、既存事業の収益アップや事業拡大、既存番組をより見ていただくためにアップデートすること、既存の視聴者層を獲得し続けること。「探索」は、これまでのBS日テレになかった事業分野の模索や、新規コンテンツの開拓、今後のBS日テレ視聴者を育てること。 

これまで編成としては、「深化」として既存の視聴者層を獲得し続けるべく、20時台には歌謡番組や時代劇などメイン視聴層に刺さるコンテンツを、21時台にはもう少し若い層に向けたゴルフ・旅などコアな番組を配置し、リニューアルを続けてきました。一方で「探索」としては、BS民放5局でどこよりも早く深夜編成の開拓に取り組み、それまで通販を多く編成していた23時以降の深夜帯に毎クール20枠以上のアニメを配置することで、新規ビジネスの拡大と新規視聴者の取り込みを目指しました。また、自社制作番組が少ないからこそ、番組購入先として新規コンテンツホルダーの開拓に努めてきました。 

この「深化と探索」は、編成以外でも言えます。当社の売上の多くは、通販企業に支えていただいています。それは、ネットショッピングが主流になりつつもテレビショッピングを利用する層が一定数いて、その方々をメインの視聴層として持つ当社のタイムテーブルとの親和性が高いからです。多角的な提案によって通販企業との関係値を「深化」しつつも、新しいセールスメニューを「探索」することで、通販に依存するのではなく一般スポンサーやニューマネーの獲得を目指してきました。また、会社としては、「探索」に向けて自社通販への注力や、新規ビジネス開発部署を発足して売上を拡大してきました。

表裏一体の「営業」と「編成」

私は、入社してから5年間は営業局に所属し内勤や渉外を経験しました。営業として枠をセールスするには、自社の強みや番組の良いところをお客さんに伝えられないと売れません。初めは、自信をもって売れない時期もありました。どこか「BSだから......」というネガティブな想いもあったのかもしれません。ですが、そんな私に「BS放送の強み」や「BS日テレの強み」を社外のお客さんが教えてくださいました。
「全国に自社の事業を広めたい」から、「今回は50代以上をターゲットにしている」から、地上波ではなくて御社にCMを出すよ。
また、スポンサーからの要望に応えるべく社内と調整をしていくうちに、自局のできること・できないこと、良さ・悪さが見えてきました。

営業がスポンサーの希望をかなえるべく向き合っている一方で、編成は視聴者の希望をかなえるべくタイムテーブルを作っています。向き合う先が違うからこそ相反することもありますが、営業と編成は「表裏一体」であって、それが見えやすいこともBSの特徴だと思います。編成は視聴者に支持されるタイムテーブルの設計を目指しながらも、会社の売上アップにつながる営業や事業に寄与するタイムテーブルや制作体制を構築しようとしています。

DSC_3027.JPG<オフィス内の座席はフリーアドレス>

営業時代、特に求められたのは地上波以上に「柔軟な対応をすること」でした。さまざまな問い合わせに対して、柔軟かつ迅速に回答するには編成や制作を含む社内との連携が必要になります。そんなとき、部署の仕切りがないワンフロアのオフィスであることが活きてきます。現在はフリーアドレスなので、隣の席が他部署の社員であることも多いです。見渡せばすぐに他部署の社員が見つかるので、迅速に部署を超えて相談することができます。

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<「モニターウォール」を備えたオフィス中央>

そんなオフィスの真ん中には「モニターウォール」と呼ばれる画面を分割された大型テレビがあり(写真㊤)、地上波・BS各局のテレビがすべて見られるようになっています。地震などの災害があった際はすぐにみんながそこに集まり、編成はテレビ局としての判断を下し、営業はスポンサーへの連絡に動きます。これも「柔軟な対応」につながると思います。

開局25周年とその先に向けて

小さい会社だからこそわれわれ若手社員の裁量も大きいと感じます。約10年前に始まった新卒社員の定期採用で入社したメンバーに加えて、中途入社した同年代の社員を含めて若手プロジェクトを結成し、会社の目標である「深化と探索」を実現すべく動いています。

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<筆者含む若手プロジェクトで企画した番組『今日も私は幸せです。』>

今年は会社として29歳以下の社員を対象とした企画募集があり、私の企画を採択してもらいました。これまでスポンサーの一社提供番組や編成担当として番組に関わることはありましたが、自分で一から書いた企画が通ったのは初めてです。現在は、上記の若手プロジェクトも交えて、来年3月の放送予定に向けて動き出しています。タイムパフォーマンスを重視する若者の琴線に触れるにはどうしたらいいのか。OA時にテレビの前に視聴者を連れてくるにはどうしたらいいのか。その仕掛けを一生懸命考えている最中です。 

今回この原稿を書くにあたり、他の方の「U30~新しい風」の記事を全て読みました。そこには、同じ業界にいてもまだまだ知らない「テレビの可能性」があって、とてもワクワクしました。他局とは視聴率を争う競合関係ではありつつも、"斜陽産業"と言われているテレビを一緒に盛り上げていく仲間だと思います。そんな同世代たちと、テレビを盛り上げていきたいとあらためて感じました。 

来年はBS日テレが開局して25周年の年になります。これまで築いてきたものを「深化」しつつ、新しいことを積極的に「探索」し続けられる局でありたいです。そして、自分の好きなことをBS日テレで実現するには、私の目標である「同世代の人にBS日テレを見てもらう」には、どのような掛け合わせでテレビの今後を切り開いていくのか、その過程を楽しみたいです。来年3月の番組を実施するにあたり、日々テレビを取り巻く環境が変わっていく中でBS日テレがコンテンツホルダーとして生き残るための可能性を示せたらと思います。

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