テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星13社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。
30歳以下の若手テレビ局員に「テレビのこれから」を考えてもらう企画を展開します。第6回に登場するのは、RKB毎日放送メディアイノベーションセンターの金城らんなさん。『エンタテ!区~テレビが知らないe世界~』で総集編ナビゲーターとして活躍するバーチャルアナウンサー百道桃の開発・運用とモーションキャプチャーシステム開発で民放連賞技術部門技術奨励賞(2020年)などを受賞。金城さんには、テレビ局、特にローカル局がメタバースに取り組むメリットなどを考えていただきました。 ※冒頭写真=メタバース上での自撮り
私は採用面接で、周りの学生たちが報道や制作を希望している中、「ITに関わることがしたい」という思いをもって、RKB毎日放送へ入社しました。この時点で「メディアではなくてIT系の会社にいけばいいだろ」というお話はもっともなのですが、ラジオもテレビもオールドメディアとささやかれる現代で、テクノロジーの力を使うことでメディアというものがどう進化していくのかが見てみたかったのです。
そんな私が今注目しているテクノロジーの一つがメタバースです。
「オタクがなにかやっている場所」ではない
一言で「メタバース」と言っても、人によって定義があいまいなところがあると思うので、ここでのメタバースは「インターネットを通じて、人々がアバターを介しリアルタイムにコミュニケーションをとれる空間」とさせてください。
最近では仮想空間内でのアート展示やコンサートといったエンタメコンテンツはもちろん、ブランディングやリモートオフィスなどさまざまな企業がメタバースを活用しています。
また、企業だけでなく、フリーランスのクリエーターが多く活躍しており、そのクリエーターの存在がメタバースを支えていると言っても過言ではありません。
経済活動があり、人がいて、カルチャーがある。メタバースはもう「オタクがなにかやっている場所」ではなく、新しい一つの都市のような成長を遂げています。
新たな仕事の創出に
当社ではメタバースという単語がバズる前から、メタバースに取り組んできました。その一つがテクノロジー×バラエティをテーマにした『エンタテ!区~テレビが知らないe世界~』(水、24・55―25・28)です。この番組はAIやVTuber、メタバースにロボティクスなど、私たちの生活がテクノロジーでどう変わっていくのか、面白おかしく紹介していくバラエティ番組ですが、番組の裏テーマとしては、新しいテクノロジーを使うことで、今後放送業界にどのように活用できるかを試していく実験場でもあります。幸運にも私はこの番組の制作に関わらせていただくことができ、テクノロジーで進化するメディアの未来が見たいという思いのスタート地点に立つことができました。
早い時期から『エンタテ!区』という実験場を使って、メタバースでの取材や撮影を行った結果、撮影ノウハウとメタバース界隈での認知や信頼を得ることにつながりました。
そのおかげで、メタバースでのイベントなどを開催する際には優先的にお声がけいただいたり、関係者から「メタバースの映像制作ならRKB」と紹介いただけるまでになり、メタバース取材・撮影という新しい仕事を創出するに至りました。また、取材を通じてメタバースのカルチャーやそこにいる人の特性を知ることで「メタバースで何かしたい」企業さまへのコンサルティング業務や、メタバース事業を通じてできたコネクションを活用してのメタバース空間制作など、たくさんの新しい仕事が生まれています。
地方局が取り組む意義
私は首都圏の放送局よりも、遠く離れた地方局こそメタバースに取り組む意義があると考えています。その理由は主に①立地にとらわれない、②スペースの問題の解決、③人材の活用――の3つです。
①立地にとらわれない
当社の所在地は福岡です。首都圏からは遠く離れています。有名タレントはどこにいるかというと、多くが東京・大阪です。となると、有名タレントを呼んで番組やイベントを制作しようとすると、首都圏よりも追加で交通費・宿泊費がかかってしまいます。しかしメタバースであれば、交通費や宿泊費もかかりません。さらに、まだまだ人気の衰えるところを知らないVTuberのようなバーチャルタレントをゲストに呼んだ収録なども可能です。さらに、イベントでは全世界から来場者を呼ぶことが可能です。
②スペース問題の解決
ロケで会議室をスタジオ代わりに使いたいのに、たくさんの会議が入っているせいで、まとまった時間を確保できない問題に直面したことがある制作者もいるのではないでしょうか? メタバースであればネット回線とPCさえあればどこからでもロケが可能です。それぞれのデスクをスタジオとして利用できます。
③人材の活用
私はこれが一番重要だと思っています。今、メタバースで活動している人たちはITリテラシーの高い人たちが多いです。そんな人材を狙い撃ちしての採用もメタバースは可能にします。また、皆さんの周りには「この人めちゃくちゃ話うまいし面白いのに......」という人いませんか? アバターとして好きな姿で活動できるメタバースでは、匿名かつ顔出しせずにタレント活動をすることも可能です。
ほかにも「新たな取材場所が生まれる」「どんな規模のスタジオでもPCだけで作れちゃう」など、地方でメタバースをする意義はたくさんあります。
気持ちは昔から変わらない
現代では、YouTubeにTikTok、X、Instagramとコンテンツは飽和状態で、人々の視聴スタイルもただ流れているから見る「受動的視聴スタイル」から、自分からコンテンツを探す「能動的視聴スタイル」に変わってきています。世間では「テレビ離れ」とささやかれますが、視聴スタイルが変わってきただけで、映像コンテンツ離れが起きているわけではありません。多くの人気配信者たちが、テレビのコンテンツパロディを作っていることは、テレビのコンテンツ力が落ちていない、その証明であると思います。
一方、家にテレビがない人も多いのが事実です。しかし、サッカーワールドカップではたくさんの人たちがスポーツバーなどに集まって観戦したり、映画『天空の城ラピュタ』が放送される日には、SNSで一斉に「バルス」とつぶやかれます。視聴スタイルは変わりつつありますが、見ているものについて話したい、共有したいという気持ちは昔から変わっていないのだと考えます。
放送局が作ったコンテンツをメタバースで放送し、視聴者の住んでいる地域に関係なく、子どもの頃に家族でテレビを囲んだ時のように、メタバース上でテレビを囲む時代が来れば、また新しい価値を持つメディアとして進化していくのではないかと期待しています。
おまけ
今回の記事を書くにあたって、プロット作成にChatGPTを活用しました。さまざまな情報を扱う放送だからこそ、新しいことに挑戦できる業界であってほしいと切に願います。