9月28日、民放連研究所は、本年1月28日に発表した「2022年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」を改訂し、新たに現時点での23年度の予測値も加えた「2022~2023年度のテレビ、ラジオ営業収入見通し」を発表した。22年度については、テレビ、ラジオともに年初の予測をかなり下方修正しており、特にテレビの下方修正幅が大きい。23年度もマイナス傾向は継続し、特にスポットのマイナス幅が拡大するとの予測である。本稿ではその概要について報告する。
なお、同改訂見通しを掲載した「民放経営四季報 秋・2022.09」は、民放連会員サイトに掲載しているが(ユーザー名、パスワードが必要)、そちらにはテレビ、ラジオの地区別の予測値も含まれている。
予測の手法について
予測の内容を紹介する前に、予測手法について若干説明しておく。1月に行う予測は、テレビ、ラジオとも全体の予測値については、予測モデル(民放連研究所が構築)が算出した予測値をベースにしている。この予測モデルでは景気と企業収益の予測値を用いてテレビ、ラジオ営業収入の予測を行う。他方、個々の地区別の予測については、会員社へのアンケート調査で得られた情報に依拠するところが大きい。全体の予測値をいくつかの予測モデルをもとに決めたのち、全体としてその水準になるように、地区別の予測値をアンケート調査の回答をもとに決めているイメージである。
一方で9月の改訂予測は、当該年度については8月に実施した会員社へのアンケート調査に(完全にではないが)概ね依拠している。上期の実績がほぼ判明し、下期もタイムについては数字が見えて来つつある段階なので、アンケートで得られた各社の見方がかなりの確度で年度の実績に繋がるためである。なお、今回のアンケート調査は、テレビ、ラジオとも全社に回答していただいている。
2022年度のテレビ営業収入改訂予測:
下期よりスポットのマイナス幅拡大
図表1にテレビ全体の1月予測と9月予測の対比を、図表2に2022-23年度予測の東阪名15社、ローカル別の内訳を示した。22年度のテレビ営業収入は、年初予測の2.3%増から2.8%減へ下方修正。タイム、スポットともに下方修正だが、特にスポットの下方修正幅が大きい。スポットは年初3.7%増から改訂3.4%減へ大幅な下方修正である。22年度のテレビスポットは、20年度のコロナ禍の反動もあり記録的な増収となった21年度上期(テレビ全体のスポットで33.8%増)の反動で、上期からマイナス見込みではあるが、下期に入ってマイナス幅が拡大する。この傾向は東阪名、ローカルに共通している。22年度のタイムについては、21年度の東京五輪の反動で上期のマイナス幅が大きく、下期に入ってマイナス幅がやや縮小する。こちらは東阪名とローカルで傾向が異なり、ローカルのタイムは上期は微減で下期に入ってマイナス幅が拡大する。タイム・スポット以外の収入については、22年度は東阪名、ローカルとも、ほぼ横ばい程度の水準を見込んでいる。22年度は各地でイベントが再開しているが、特にローカルでその他事業収入のかなりの部分を占めるイベント関連の収入が本格的に回復するのは、23年度以降になるとの見方である。
<図表1. 2022年度のテレビ営業収入予測>
<図表2. 2022~2023年度のテレビ営業収入予測総括表>
22年度のテレビ営業収入全体とスポットについては、東阪名とローカル別の予測値に水準の大きな違いはない。通常、スポットはマイナス局面では東阪名のマイナス幅がローカルよりも大きくなる傾向があり(逆にプラス局面では東阪名のプラス幅はローカルよりも大きくなる)、今回もその傾向だが、両者のマイナス幅の違いは0.4ポイントとわずかである。タイムで東阪名のマイナスが大きいのは、21年度の2つの五輪の反動要因が大きいと考えられるが、タイムも東阪名、ローカルともに基調としてはかなり弱いと言える。
なお、全国で13局ある独立局については、テレビ営業収入全体で、22年度1月予測4.0%増に対し、9月予測0.1%増とほぼ横ばいの水準に下方修正。タイム1.4%増(1月予測4.6%増)、スポット5.2%減(同3.2%増)とタイム、スポットとも下方修正。独立局の収入の7割を占めるタイムで通販番組の不調が続いている模様。コロナ禍にあって好調だった昨年度までの反動と見られる。特番やイベント等での底上げが行われている。
2022年度のラジオ営業収入改訂予測:
FMは増収維持も中短波はマイナスへ
図表3、4に中短波とFM別に1月予測と9月予測の対比を、図表5に22年度の上・下期別予測と23年度の予測を示した。22年度のラジオ営業収入は、ラジオ全体で年初予測の2.6%増から0.5%増へ下方修正。スポットは年初1.7%増から改訂0.7%減へ、タイムは年初1.6%増から改訂0.2%減に下方修正した。中短波は、営業収入全体、タイム、スポットともプラス予測からマイナス予測に修正したのに対し、FMでは、スポットはわずかなマイナスを予測するものの、営業収入全体とタイムについては、プラス幅はかなり小さくなるが、プラスの維持を予測した。
<図表3. 2022年度の中短波営業収入予測>
<図表4. 2022年度のFM営業収入予測>
下期のスポットは中短波、FMともマイナスに転じることを予測するが、タイムは中短波、FMとも下期はプラスを見込んでいる。これは特に中短波で、21年度下期タイムの水準が低かった(中短波5.7%減、FM0.7%増)ことが影響していると考えられる。タイム・スポット以外の収入については、中短波は全体として微増程度、FMは全体として10%増に迫る水準になると予測される。これはイベントの復活によるところが大きいと考えられる。イベントによる増収効果は中短波よりもFMでより大きい。
<図表5. 2022~2023年度のラジオ営業収入予測総括表>
ラジオでは、デジタル系コンテンツ展開などの増収策に注力する一方で、テレビ以上に個々の広告主のニーズに合わせたきめ細かい営業促進策が取られており、純粋な広告収入の苦戦が続くなか、イベント等事業の動向がカギを握っている状況に大きな変化はないものと見られる。
2023年度のテレビ、ラジオ営業収入予測:
テレビ、ラジオともマイナスへ
2023年度の日本経済は、海外経済の減速による外需のマイナス寄与が継続する一方で、内需主導型での‟薄氷の回復"が続くと予測されている。その場合でも、資源・食糧価格の高騰による海外への所得流出は、家計の購買力や企業収益にマイナスの影響を及ぼし、消費や設備投資を抑制する。23年度の実質GDP成長率は1.3%増(22年度は1.7%増)と予測されている。企業収益は、法人企業売上高0.1%減(22年度6.1%増)、経常利益10.5%減(同2.3%減)との予測である(日本経済研究センター「四半期経済予測」、2022年8月26日、9月8日より)。ただし、欧州、米国などの海外景気が後退局面に入れば、日本経済もほぼ確実に後退局面に入ると考えられている。その場合の23年度の日本経済・企業収益の状況は、上記の水準をかなり下回ることになる。
こうした景気、企業収益をベースに予測した現時点での23年度のテレビ、ラジオの予測を図表2、5に示した。テレビで3.6%減、ラジオで0.4%減とテレビは2年連続の減収を予測。特にテレビスポットは東阪名、系列ローカルともに7%程度の比較的大きなマイナスを予測した。スポットの減収対策が、23年度テレビ営業の最大の課題になる可能性が高い。