山形テレビ『提言の広場』 放送50年の意義振り返る

工藤 良一
山形テレビ『提言の広場』 放送50年の意義振り返る

山形テレビ(YTS)は開局の翌年197110月から、山形経済同友会と協力して毎週『提言の広場』(土、7・30―8・00)という30分の討論番組を制作し続けています。当社の社史を紐解くと、この年の6月に山形経済同友会が設立、「政策提言集団として、利害をはなれた立場で県勢発展のために発言し行動する」という基本理念を掲げ、その発信の場として番組が誕生したと記載されています。第1回のテーマは県庁舎の移転問題で、以来、社会問題はもちろん、経済、文化、スポーツなどさまざまな分野の地域課題を取り上げています。県選出の国会議員や県知事、文化面では直木賞作家の井上ひさしさん、スポーツ面では冬季オリンピックメダリストの加藤条治さんなどをゲストに迎えたこともあります。昭和の時代には、ホスト役として出演する山形経済同友会会員の辛辣な発言が評判で、県庁内で『提言の広場』を視聴するよう通達が出されたという逸話も残っています。

年末年始の特別編成の中でも休まず放送し、東日本大震災の際には、延期となったものの翌週に2回放送し年間52回(年によっては53回)の制作ノルマを維持してきました。ことし10月末現在で放送回数は2644回を数えます。『NHKのど自慢』や『笑点』、『新婚さんいらっしゃい!』など50年以上続いている長寿番組の中で、地方局が制作しているものは数少なく、あのウィキペディアにも掲載されています。しかし、土曜午前7時30分という時間帯や座談形式という地味な内容のために視聴率は芳しくなく、番組担当者の一人として「日の目を浴びるようにしたい」と思い、この度、第48回放送文化基金賞に申請、光栄なことに個人・グループ部門で顕彰していただきました。今回の受賞は、これまで携わってきた先輩ディレクター、技術スタッフ、アナウンサー、さらに言えば、視聴率にとらわれず番組を維持してきた編成スタッフなど、山形テレビの総力で獲得したものであると思います。

第1回提言写真.png

<第1回の収録の模様

この番組を担当するようになって感じているのは"難易度の高さ"です。「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがありますが、基本的に出演者を3人選定することにしていて、そのスケジュールを調整する作業はいつも難航しています。大型連休やお盆、年末年始の時期は特に苦労します。家庭の都合で急遽収録日当日に欠席となり、代役を依頼したり、後日あらためてコメントを撮影しVTRで出演していただいたこともあります。また、自治体の担当者に出演を依頼していたところ、話が大きくなりすぎて最終的に県知事と国会議員、経済同友会側も代表幹事が出演することになり、台本を何度も手直ししたこともありました。番組のテーマについては、経済同友会の番組担当会員と当社の制作ディレクターが企画を持ち寄り検討する委員会が3カ月に1回開かれています。が、「山形の魅力を再発見」、「若者の県内定着」といったざっくりとした形で預けられることが多く、例えるならば、「山形の食材を使って料理を作る」とオーダーされているようなものです。肉なのか魚なのか? 肉や魚の種類は? どこの産地の食材を調達するのか? 和風なのか洋食なのか中華なのか? 料理の腕前、話を戻せば、番組の切り口や構成は制作ディレクターに委ねられていて、毎回苦心しています。

中堅ディレクターを起点に新たな演出も

『提言の広場』を担当するディレクターは長らく50代、60代のベテランが中心となっていましたが、ここ数年の制作部の人事異動に伴い、40代前半の中堅も担当するようになり、番組内容に変化が出始めました。「山形弁を商機に」というテーマでは、山形弁を使うローカルタレントがスタジオでギターを弾いて歌を披露する演出を取り入れ、関係者の間では話題になったようです。中堅ディレクターの手法に刺激されたのかどうか、ベテランディレクターも「コパルが拓く未来」というテーマで、スタジオ収録ではなく新設された児童遊戯施設コパルでロケを敢行、大の大人たちが遊具ではしゃぎながら子育てについて考える趣向は反響を呼び、通常よりも高い視聴率をマークしました。

また、新型コロナウイルス感染拡大の影響で出演者が一堂に会するのが難しくなった時期には、急速に普及したリモートシステムを活用して首都圏の関係団体代表にも出演していただきました。リモート出演に関しては、「ジョージ・ヤマガタがつなぐ 山形イノベーションの未来」というテーマで、ヴァーチャルYouTuberのジョージ・ヤマガタ氏に出演いただいた回(=写真トップ)もあり、コロナ禍で逆に出演者の幅が広がっています。

地域課題について県民に理解を深めてもらう『提言の広場』は、地域活性化の一翼を担う地方局の存在意義を示す番組だと思います。放送文化基金賞の受賞を機に、当社の看板番組であると自負できるようになりました。番組ではこれまで「後継者育成」という地域課題を何度か取り上げてきましたが、この番組も例外ではありません。若いディレクターを育てながら、老若男女多くの県民に見てもらえるような番組づくりを目指していきます。

最新記事