8月22日中央審査【参加/99社=99本】
審査委員長=遠藤 薫(学習院大学名誉教授)
審査員=坂井 眞(弁護士)、澤 康臣(ジャーナリスト、早稲田大学教育・総合科学学術院教授)、森 まどか(医療ジャーナリスト)
※下線はグランプリ候補番組
「分断の時代」と言われる。意見の違いによって、人びとが激しく対立し、厳しい言葉を投げかけ合う。そのような状況をいたるところで目にする。だが対立からは何も生まれない。冷静に話し合い、相手の心を理解し、共有できる未来に向かって進むこと。その基盤となるのは、多様な視点からの情緒に流されない調査報道であり、テレビ報道番組である。いずれの応募作品からも、真摯に、勇気を持って、意見対立の多い問題に向き合う、高い熱量を感じた。
最優秀=信越放送/SBCスペシャル 78年目の和解~サンダカン死の行進・遺族の軌跡~(=写真)
偶然見つかったサンダカンの記録。トラウマに苦しんだサンダカン英豪軍生存兵士の息子の活動との対話を通じて、約1万人が亡くなったサンダカンの行進の実相を探り、「和解は可能なのか」と問う。最も素晴らしい点は、日本軍vs英豪軍という構図だけでなく、地元民の犠牲者の視点も考慮していることである。本作はようやく到達した「和解」を描く。しかし、「和解」とは、和解しようという永遠に終わらない心の闘いなのだろう。今後も問題を追い続けていってほしいと願う。
優秀=北海道放送/アイヌとヘイト~文化振興の陰で~
困難な問題に対して真摯に取り組む態度に感銘を受けた。たしかに近年、『ゴールデンカムイ』のヒットやウポポイ(民族共生象徴空間)開業などによって、アイヌへの関心が高まっているとはいえ、一種のエキゾチシズムやロマンチシズムに留まっているようにも思える。むしろアイヌに対する差別的な発言や無意識の差別、逆差別論なども目立つ。そして、このような反応が起こりやすい問題に、最近、ジャーナリズムは及び腰にも見える。その意味で本作は、ジャーナリズムのあるべき姿を示す、勇気ある問題提起といえよう。
優秀=フジテレビジョン/最期を選ぶ ~安楽死のない国で 私たちは~
難病に苦しむ人々が、安楽死を求めてスイスへ渡る姿を描いて、安楽死問題に一石を投じる。たしかに、生きることがあまりにも過酷なとき、本人が望むなら「安楽死」を認めることも一つの選択肢かもしれない。本作は、安楽死を望む二人の行動と思いに寄り添いながら問題提起する、勇気ある作品である。ただし、その他の選択肢との比較検討や、安楽死の問題点、反対意見などについても、より詳しく示していただきたかった。
優秀=東海テレビ放送/ひまわりと登山靴
父親の息子に対する愛情がじわじわと心にしみてくる。愛知県の所清和さんは、2014年の御嶽山噴火で息子とその恋人を失った。突然の喪失感の中で、所さんは息子の遺品に残っていたSDカードに写っていた息子の最後の登山行を追体験することを決意する。父親としての悔恨、もどかしさ、言いようもない悲しみ。本作は、9年間にわたって所さんの御嶽山行きに同行し、そっと寄り添い続ける。メディア・スクラムなど、メディア自身の問題にも光を当てている点も評価できる。
優秀=関西テレビ放送/ザ・ドキュメント 引き裂かれる家族 検証・揺さぶられっ子症候群
虐待冤罪をかけられた父親とその家族の闘いを、揺さぶられっ子症候群(SBS)の根拠を問うという形で側面支援しながら、5年にわたって追い続けた。引き裂かれた家族の辛さと悲しみ、医療者や児童相談所の冷酷とも言える態度、それでも相互の信頼と愛情を失わない家族が、ついに「無罪」を勝ち取る物語は、感動的である。結果として国は虐待対応マニュアルからSBSの診断基準を削除した。社会的成果においても、本作は重要である。
優秀=広島ホームテレビ/原爆資料館 閉ざされた40分 ~検証G7広島サミット~
2023年史上初めて広島でG7サミットが開かれ、首脳たちが原爆資料館を視察した。「何かが伝わる」ことへの期待が高まった。しかし、視察は完全非公開であった。全館の窓に張られた白い目隠しの布は、首脳たちの見ている世界への危惧を暗示する。作品は「結局日本は何を守ったのか」と疑問を投げかける。それでも、すでに90歳を超えた被爆者の方々は語り続ける。被爆地だけでなく、世界で無意味に命を奪われた、あるいは今まさに奪われつつある人々の視点からの作品である。
優秀=琉球朝日放送/誰のために島を守る ~自衛隊配備 その先に~
沖縄は、戦争によって多くの民間の人びとが理不尽にも甚大な被害を受け、戦後も日本という国のなかで、ある種脆弱な位置づけを強いられてきた。本作は、与那国島の状況を中心に、国境地帯としての沖縄全域に広がりつつある自衛隊配備の問題に正面から取り組んでいる。沖縄問題がまさに日本問題、世界問題であることを理解し、自分ごととして認識・議論するために、多くの日本人に見てほしい作品である。