【2025参院選報道】日本テレビ放送網 報道局の総力結集し新たに「選挙報道プロジェクト」立ち上げ

井上 幸昌
【2025参院選報道】日本テレビ放送網 報道局の総力結集し新たに「選挙報道プロジェクト」立ち上げ

選挙報道改革「組織は戦略に従う」

日本テレビの選挙報道改革は年明け早々にスタートした。都議選と参院選を一連の流れでとらえ一体的に報道すること、事前報道を「量」と「質」の両面で飛躍的に増やし高めて有権者の信頼を獲得すること。これらの実現を目指し、まずは古文書化していた選挙報道ガイドラインの全面改定を行った。報道指針としてだけでなく、私たちに課せられた選挙報道のミッションを明確化したもので、大原則として「公平性を『量』以上に『質』に重きを置いて判断する」こと、「民主主義の根幹である選挙を機能させるべく、有権者の投票行動に資する事実に立脚した『多く』の情報を『広く』届ける」ことを掲げた。

次は、このミッションを実現するためのチーム作り。実は一度、「会議体」自体はスタートさせていたが、従来の選挙報道向けの組織だったため推進力が足りず、目指すべき選挙報道を実現できないジレンマに陥っていた。そこで新たに立ち上げたのが「選挙報道プロジェクト(PJ)」。リーダー3人のもとに「民主主義の危機チーム」「政策報道チーム」「選挙本部」を配置し、各番組やデジタル(ネット)にコンテンツを展開することにした。

報道局のあらゆる部署が一同に集まることで意思決定を一元化しスピードアップ、調整コストの大幅削減を目指した。何より部の垣根を越えてメンバーが集い、「知」の結集を図れた意義は大きかった。新たなミッションに即した組織に作り直す。まさに、米・経営学者チャンドラーが唱えた命題「組織は戦略に従う」を実行したものだった。

キャンペーン「投票前に考える それって本当?」

偽・誤情報や極端な主張が選挙を攪乱する時代、私たちにできることは何なのか? 議論の末、導き出した答えはキャンペーン展開「投票前に考える それって本当?」(=冒頭写真)だった。担うのは「民主主義の危機チーム」。調査報道を得意とするメンバーらが集結した。「選挙とSNS」に詳しい大学教授らの専門家解説に始まり、「政治系YouTuberの実態」「フェイクサムネ」などの問題、さらにファクトチェックにも本格的に取り組んだ。当社の党首討論時の映像を使った「石破首相がアナウンサーを恫喝」や「外国人優遇」など、広くSNS上に拡散した言説を取り上げて丁寧に事実の積み上げを行った。

投票行動に役立つ報道

『news every.』では昨年の衆院選から始めた「ひと目でわかる政策解説」をこの参院選でも継続、各党の政策をマトリックス表示し差別化した。選挙戦後半になって争点化した外国人政策は国際部も巻き込んで積極的に展開した。政党企画は「政党フカボリ」と題して、各党の「現状と課題」を伝えた。この手の政党企画は各党の「選挙戦略」になりがちだが、有権者の投票の参考になるよう質的転換を図った。

番組/デジタルで新展開

『news zero』では藤井貴彦キャスターが8党首への個別インタビューを行い、地上波では5分程度のVTRにまとめ、デジタルでは全編公開、190万近くの再生数に達する回もあった。藤井キャスターが『zero選挙』で見せた「合気道」のように各党首と向き合う「型」は、ここから生まれた。

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<日テレNEWS NNN「投票誰にする会議 参院選2025」>

デジタルでは「投票誰にする会議」と題して、東京選挙区の候補者を3人×5回に分けてライブ配信した。地上波のような時間的制約がない特性をいかし、投票の参考になるよう「じっくり話を聞く場」を作った。参政党のさや候補の「核武装が最も安上がり」発言はこの番組で聞き出したもの。40万再生の回もあり、一定の役割を果たしたと考える。

『zero選挙』の再生

7月30日の開票特番『zero選挙』は全時間帯で個人視聴率・民放トップに返り咲くことができた。目新しいことをしたわけではない。報道局が総力で取り組んだ事前報道の集大成と位置づけ、視聴者が「この夜に知りたいコト」に徹底的にこだわる番組作りを行った。石破政権の行方や躍進が想定された参政党の解説と中継を複数回、丁寧に時間をかけて行った。また、通常のニュース番組のように新鮮な映像と情報を速報で入れ続けたことが視聴者のニーズにフィットしたと考える。

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<開票特番『zero選挙』>

選挙報道は災害報道と並び、私たち報道機関に課せられた最重要テーマである。選挙報道のPDCAサイクルを高速回転させ、有権者の信頼を最大限まで高めるイノベーションをさらに追求していきたい。


日本テレビ放送網 報道局政治部長
井上 幸昌(いのうえ・ゆきまさ)

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