関西テレビ放送報道センターでは、参院選を見据えて、2024年12月から「新たな選挙報道の指針作成」に着手した。関係者や専門家への聞き取り、センター内での複数回にわたる協議を経て、2025年5月に次のような方針を取りまとめた。
(一部抜粋、要約)
・投票日前に行う「事前報道」の充実。
・各候補者の露出時間を同じにすると言った「量的公平」から脱却し「質的公平」を目指す。「質的公平」に数量的・客観的な基準はなく、メディアの編集責任において確立すべきもの。
・「不公平」は有権者のためにならない。公平が重要であることに変わりはない。
・候補者や政策についての批判や評価を廃する必要はない。ただし、それが公正であること。
記者それぞれが熟考 議論・判断を繰り返し放送
当社が平日夕方帯で放送している報道番組『newsランナー』において、これまで、各選挙区の候補者を紹介するなどの際は、可能な限り秒数をそろえてきた。しかし今回は新たな指針にのっとり、候補者の背景・情勢分析・取材等から、真に視聴者の判断材料となるよう編集を行った。量的な基準がないことでむしろ「質的公平とは何か?」という点を、各記者とデスクがよく議論をすることができた。より緻密な取材が求められ、「なぜこのように編集をしたのか」という問いに対し、根拠と判断理由を説明できることが必要だと痛感した。
より多くの視聴者に届くように 「事前特番」を放送
平日帯の放送だけでは視聴層に偏りがあると考え、投開票日1週間前の7月13日(日)午前の枠で事前特番を放送した。まだ投票先が決まっていない視聴者の"判断材料"となるよう、各党の公約・政策が一目でわかる特大パネルを作成し、財源や課題などをできるだけ丁寧に説明した。この趣旨においては、一定の量的公平も必要だと考え、政党要件を満たした党はすべて紹介する形をとった。ゲストたちの議論においては秒数を均等割りするような制限をしなかった。
<事前特番『newsランナー 参院選「投票前に」大激論SP』を放送>
SNS選挙戦 「選挙ドットコム」とのコラボで
"実態"を感じられる放送に
SNSから選挙情報を得る人が少なくない昨今、ローカル放送局の力だけでは、SNS上のリアルな状況を伝えることに限界があると考え、専門性が高い「選挙ドットコム」(イチニ株式会社)と連携して放送した。主な情報源となっているYouTubeの分析を依頼し、各党の戦略や情勢を示した。SNS上で参政党の勢いが著しいことや、第三者による切り抜き動画・フィルターバブルの危険性など、多角的かつより実態に近いSNS選挙を伝えることができた。
<「選挙ドットコム」と協力し、メディアの垣根を越え情報を提供>
質的公平とは......を考え続ける
今回行ったことは、選挙報道改革の第一歩に過ぎない。「質的公平とは何か?」という問いが、選挙後もずっと心に刺さったままでいる。政治や選挙、その時々に何が起こるのか予測が難しい時代。空気を感じ取り、思考を巡らせて、柔軟に。放送局の責任を果たすために取り組み続けなければならないと思っている。
関西テレビ放送 報道情報局報道センター
押川 真理(おしかわ・まり)