「開かれたデジタル・ジャーナリズム」学ぶ場を デジタル・ジャーナリスト育成機構発足

編集広報部
「開かれたデジタル・ジャーナリズム」学ぶ場を デジタル・ジャーナリスト育成機構発足

一般社団法人デジタル・ジャーナリスト育成機構(Digital Journalist EDucation Institute=D-JEDI)が7月に発足し、9月4日、設立会見とシンポジウムが都内のnote株式会社で開かれた。

D-JEDIは、ジャーナリストの浜田敬子氏が代表理事を務め、Yahoo! JAPAN CREATORS Program ドキュメンタリーチーフプロデューサーの金川雄策氏、SlowNewsシニアコンテンツプロデューサーの熊田安伸氏、スクーCCOの滝川麻衣子氏、そしてジャーナリストでメディアコラボ代表の古田大輔氏が理事を務める。いずれも朝日新聞やNHKといった"レガシーメディア"の出身で、その後デジタルメディアに転身した経歴を持つ面々だ。伝統的なマスメディアを取り巻く環境が厳しくなる一方で、テクノロジーは新興メディアや個人などによる情報発信を可能にした。D-JEDIは、レガシーメディアがデジタルやテクノロジーを活用した取材・表現手法を学ぶだけでなく、新興メディアやフリーランスがジャーナリズムの理念・規範を学べる場を提供することで、豊かな情報生態系の実現を目指す。

会見で浜田氏は、「コンテンツが良くても若年層に届いていないという危機感がレガシーメディアの現場にはある。一方で、デジタルメディアやオウンドメディアでは、報道の基礎や理念を学ぶ機会が少ない。媒体の垣根を越えて学び合い、シェアする場としたい」と設立の狙いを説明。理事らも、「5年前からドキュメンタリー制作者の支援に携わっている。知識を互いに教え合うことでレベルを上げ、ドキュメンタリーのファンづくりにもつなげたい」(金川氏)、「ローカルメディアの報道はOJTが中心で、スキルが途切れてしまう実態がある。ノウハウを共有し、全体のレベルアップになれば」(熊田氏)、「"オワコン"などと言われてジャーナリズムが終わってはいけない。業界自らがアップデートしていく必要がある」(滝川氏)、「日本には報道実務家フォーラムがあるが、D-JEDIはよりデジタルに焦点を当て、個人で発信する人も学べる場にしたい」(古田氏)などと発言した。今後、イベントの開催や大学との連携のほか、理事らによる研修業務の受託といった事業を展開していく。

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<シンポジウムの模様

会見に続き、2つのシンポジウムが行われた。1つ目は「ジャーナリズムの再構築とメディアのDX」がテーマ。古田氏のほか、社会調査支援機構チキラボ所長の荻上チキ氏、NO YOUTH NO JAPAN代表の能條桃子氏、JX通信社代表取締役の米重克洋氏がそれぞれのジャーナリズム観に基づき、マスメディアの構造的な課題を語り合った。

荻上氏は、「個別のエピソードや事例を伝えるだけでなく、データに基づいて全体的な状況や背景を示すことも報道の役割だ」と述べ、「人々の関心を引き寄せるエピソードと、データによる裏付けのある専門家の解説をミックスした報道に取り組むべきだ」と提起した。テクノロジーを活用した報道業務のDX化支援を推し進めてきた米重氏は、収益機会の逸失や競合相手の増加などにより報道をめぐる環境が悪化している現状に触れ、「ウェブやテクノロジーの知見を報道機関の中核に取り入れ、構造的な議論を深める必要がある」と訴えた。若年層の政治参加を促す活動に取り組む能條氏は、「報道が定型的な"若者枠"を設定するあまり、問題が深掘りされない傾向にある」と指摘。そのうえで、「メディア業界に入った友人は多いが、学生時代の関心や課題を忘れてしまった人もいる。若手が持っている熱意や着眼点を活かし、後押しできる教育機会を組織には作ってほしい」と求めた。また、古田氏は「ネットメディアがどんどん消えていく中で、100年後に情報をどう残すべきか。法的な整備も含めた検討が必要だ」と述べた。

シンポジウム第2部のテーマは「紛争地取材を誰がどう担うのか」。熊田氏のほか、ジャーナリストの小西遊馬氏と村山祐介氏、TBS中東支局長の須賀川拓氏が、実体験に基づきながら現場取材の意義を議論した。

難民キャンプなどを題材にドキュメンタリーを制作してきた小西氏は、リアルタイムで発信できるSNSの意義を強調。「取材の過程を随時発信することで、取材者自身の変化を見せられる。それにより、現場に行けない人が疑似体験し、世界の理解につながる」と述べた。近年、中東やウクライナを取材している須賀川氏は「放送や新聞は尺と紙面の制約があるため、伝わりやすい部分を切り取りがちになる。例えば、ガザにはがれきだらけといったイメージがあるかもしれないが、現地には高級スーパーもある。こうした日常も伝えられるのがデジタルの報じ方だ」と語った。朝日新聞出身の村山氏は、「遺体のにおい、寒さ、現地の声などは、現場を取材しないと記録できない。同時に、デジタル空間にもさまざまな情報が蓄積されている。信憑性を見定めながらこれらを照合することに、これからの報道の可能性を感じている」と実感を明かした。熊田氏は、「大規模災害時に現地情報をマッピングすると、情報のない"異常な空白地帯"が見つかることがある。そこが最大の被災地である場合が多い」と述べ、データを鳥の目で俯瞰すること、そのような統合をさまざまなメディアが連携して行うことの重要さを説いた。


D-JEDIは10月29日、セミナー「YouTube時代の選挙報道を考える」をオンラインで開催する。テレビ東京報道局デジタル副編集長の豊島晋作氏が新しい選挙報道のあり方について講演するとともに、メディア関係者向けのグループワークも行う。

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