米DisneyとGoogle傘下のYouTubeTVによる再送信同意料の更新交渉が難航していたが、11月14日に決着。2週間に及んだ再送信の停止(ブラックアウト)が解消した。10月末に契約期限を迎えながら合意に至らず、加入者1,000万人を超えるとされるYouTubeTV上でESPN、ABC、FX、ナショナルジオグラフィックなどDisney傘下のチャンネル群が10月30日からブラックアウト。11月に入っても視聴できない状態が続いていた。
今回の合意で注目されるのが、YouTubeTVの基本プラン(月額82.99㌦=約13,000円)にESPNのスポーツラインナップ全てが、2026年末まで追加料金なしで組み込まれたこと。昨年始まった有料サービスESPN Unlimited¹ のライブ番組やオンデマンド番組の一部もYouTubeTV内からアクセス可能になる。さらにYouTubeTVが将来的に展開する分野別パッケージにDisney+とHuluのバンドルを加えることもできるという。
今回の交渉は再送信同意料の大幅値上げをめぐって両社が激しく対立。YouTubeTVは10月にNBCUとの間でも交渉が難航(既報)。スペイン語放送局のTelevisaUnivisionとは妥結に至らなかった。対Disneyの交渉でも、GoogleとYouTubeTVは「Disneyがかつてない水準の引き上げを要求している」と主張し、Disneyは「YouTubeTVが業界標準の料率を拒んでいる」と反論。両者譲らず、解決の見通しが立たなかった。
このため交渉は2週間に及び、ともに相応の損害を被った。Disney側はYouTubeTV加入者が視聴できないため広告収入と配信料で打撃を受けた。その損失は14日間で約6,000万ドル(約94億円)に達したと報じられている(モルガンスタンレー試算)。また、チャンネル群のブラックアウトによってESPNのNFL「Monday Night Football」や大学フットボールの主な試合が視聴されず、視聴者数も大幅に減った。
YouTubeTVも契約者の不満が高まって解約ラッシュが懸念された。市場調査会社Drive Researchが11月上旬に公表した調査によると、YouTubeTV利用者の24%が「すでに解約した」または「解約を予定している」と回答。その理由に「主要コンテンツが見られなくなった」ことを挙げている。YouTube側は「当社調べの実際の解約率とは一致していない」と異論を唱えたが、この間、加入契約者に20㌦(約3,100円)の返金措置を講じている。
ローカル放送局にも影響が及んだと米メディアは伝えている。YouTubeTVでは全国のABC系列局の配信が同時に停止し、各ローカル局は報道をはじめ気象、緊急情報などの発信の場を失い、広告枠や視聴データにも波及。NAB(全米放送事業者連盟)は11月初旬、公式ブログで大手プラットフォームが交渉で強硬姿勢を取ればローカル局が「ニュースや緊急情報を届ける権利を奪われる」とし、かねて主張しているメディア所有規制の近代化をあらためて訴えた。FCC(米連邦通信委員会)のブレンダン・カー委員長も11月11日、「契約料を支払っている視聴者は、そのチャンネルにアクセスする権利がある早急に両社が合意し、このブラックアウトを終わらせなければならない」とSNSで発信した。
業界の構造的問題が顕在化したとの指摘もある。オンラインメディア「TVNewsCheck」によると、従来のケーブルや衛星放送(MVPD)では再送信同意契約を各ローカル局が個別に締結していたが、vMVPDではネットワーク本体が全国一括契約を行うため、さまざまな弊害が生じているという。一方、ネットワーク側は全国一括交渉によって価格やチャンネル配置の整合性を保ち、交渉を効率化できると主張。全国レートを維持しつつ地域局に選択的交渉権を与える「ハイブリッド型」の枠組みを導入するべきだとの意見も浮上している。
DisneyとYouTubeTVの対立は企業間の交渉を超え、放送の公共的使命とデジタル時代の市場支配力をめぐる象徴的な事例ともいえる。配信の普及によって視聴の主導権が変化するなかで「放送アクセスの扉」を誰が握るのか――あらためて問われたといえそうだ。
¹ 2025年8月に始まったサブスクリプションサービス。月額29.99㌦(約4,700円)でESPNの主要なケーブルテレビチャンネルとESPN+のコンテンツに加え、オリジナル番組やライブイベントを全て視聴できる。関連記事はこちらを参照。
