岐路に立つ米衛星テレビ ローカル局抜きの安価プラン提供へ コードカット対策で

編集広報部

有料テレビサービスの解約(コードカット)が進む米国で衛星テレビが岐路に立たされている。2023年、ケーブルや衛星放送の有料テレビサービス(MVPD)をコードカットした人の合計は503万5,000人と、前年の459万人を上回った(調査会社ライトマン・リサーチグループ=LRG調べ)。このうち、DirecTVとDishネットワークの衛星2社の合計は275万人と半数以上を占めた。DirecTVが180万人(LRG推定)、Dishネットワークは94万5,000人(同社発表)だった。

こうした厳しい状況のなか、DirecTVは3月に加入者の視聴プランからローカルチャンネルをオプトアウト(拒否・解除)できる「No Localsプラン」を導入すると発表した。このプランを選択すると契約者は月12㌦の割引になる。ローカルチャンネルの視聴選択肢が増えていることが導入理由の一つ。テレビ局のウェブサイトや配信サービスに加え、デジタルアンテナを使えば無料視聴できる。プランに柔軟性を持たせることで視聴者をつなぎとめようという狙いだ。二つ目は、ローカル局に必要不可欠な全米ネットワークの人気ドラマが近年目に見えて手薄になっていること。これらの番組はいまやネットワーク各局の自社配信サービスに主戦場を移している。

Dishネットワークもコードカットに歯止めをかける目的で7年前から同様のプランを提供している。コードカットそのものは有料テレビ業界全体が直面する大きな課題だが、チャーター・コミュニケーションズやコムキャストといったケーブルサービスと、ベライゾンのような通信大手はブロードバンド+テレビのパッケージ戦略を展開することでコードカットの防波堤としている。しかし、それができない衛星テレビのDirecTVとDishが大きな打撃を受けていると言っていい。

加えてDirecTV、Dishともに近年、Coxやネクスターといった大手ローカル局グループと再送信同意料の交渉でもめ、合意に至るまでそれらのチャンネル群がブラックアウトされる事態が相次いでいる。このことも契約者の反感を買い、コードカットをさらに進めてしまっている。

とはいえ、テレビの中核とも言えるローカルチャンネルをサービスから外すことが衛星テレビにとって本当にコードカット対策になるのか米各メディアも疑問視している。地元のプロスポーツチームの試合中継を見たい視聴者にとってローカルチャンネルはまだ貴重な存在で、新たなプランはあまり意味を持たない。さらに、アンテナ経由で無料視聴できるという理由でプランから外してしまっては、逆にコードカットを勧めることにならないかとの見方もある。

LRGの調べによると、同じ有料テレビサービスでも、配信経由のYouTube TVなどのvMVPD群は契約者数を伸ばしている。23年はvMVPD全体で189万人増となり、2022年の167万人増を上回った。

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