米大手3社合弁の「Venu Sports」に反発続く

編集広報部
米大手3社合弁の「Venu Sports」に反発続く

FOX、ESPN(ディズニー)、ワーナーブラザーズ・ディスカバリー(WBD)が2月に発表した、3社合弁による新たなスポーツ配信サービス の計画に各方面から「スポーツ・カルテルだ」との疑問や反発の声が鳴りやまない。

今回の計画は、3社が所有するリニアスポーツチャンネルで放送される全試合を1つの配信サービスに統合するというもの。5月16日にはその正式名称が「Venu Sports」に決まった(タイトル下のロゴはESPNのプレスリリースから)。3月半ばには、元Apple社幹部でApple TVを立ち上げた実績を持つピート・ディスタッド氏のCEO就任がすでに決まっている。サービス開始日は今秋を予定しているが、価格は未定だ。「Venu Sports」と名称が決まるまで、米テレビ・メディア業界は「(ディズニーのHulufor Sports」を由来に「Spulu」という俗称で呼んでいたことからも、事業の主導権を実質的にディズニーが握っていることがうかがえる。

3社による2月の発表後、真っ先に反旗を掲げ、3社を提訴したのが、スポーツに特化したvMVPD(配信によるテレビチャンネルのバンドルサービス)のFuboTVだった。5月に入り、このFuboが率いるメディア連合が連邦議会に公聴会を開くよう要請する書面を提出。Fuboに賛同してこの書面に署名したのは、衛星放送のDishネットワークとDirecTVをはじめ、スポーツファンや消費者の権利擁護を掲げる複数のNPOやメディア監視団体など。中道左派から右派まで、政治的にもさまざまな立場から反対が表明されている。

これに先立ち、DirecTVとDishネットワークは4月、それぞれFuboを支持する宣誓供述書をニューヨーク市マンハッタン米連邦地裁に提出している。これを追い風にFuboは4月8日、新事業の中止を裁判所に求めていた。ケーブル大手のコムキャストやチャーター・コミュニケーションズも3社の合弁事業がコードカットに拍車をかけるとして、2月の発表直後に3社に抗議したと伝えられており、NFLやNBAなどプロスポーツリーグも反対を表明している。

さらに4月16日、米連邦下院議会のジェリー・ナドラー議員(民主・ニューヨーク州選出)とホアキン・カストロ議員(民主・テキサス州選出)が、FOXのラクラン・マードック、ディズニーのボブ・アイガー、WBDのデービッド・ザスラフの各CEOに質問状を送っている。新たなサービスに懸念を示す内容で、ストリーミング市場へのアクセスや競争に及ぼす影響、選択肢などを質している。4月30日までの返答と、そのコピーを司法省に送付するよう求めていたが、5月半ば現在、3社からの正式な返答があったとの報道はない。

一連の批判や反発に沈黙を守り続けていた渦中の3社だが、今回の正式名称発表に先立ち、今後はディズニーのベテラン広報担当者が新サービスの広報窓口になることが報じられたほか、FOXからも、同サービスは「消費者保護の立場に立ったもの。現在サービスが提供されていない視聴者層が好きなスポーツを見るための、独占的でない選択肢を増やすものである」との声明が出されたと伝えられている。

米調査会社Aluma Insightsは5月半ば、この合弁事業計画が実現すれば、急激にコードカットが進み、米国の有料テレビ業界を崩壊する可能性があるとする調査分析結果を発表している。正式名称も「Venu Sports」と決まった今、さらなる反論と波乱が予想される。

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