ニッポン放送・松崎優太さん 「技術の進歩を活用する」<U30~新しい風>⑱

松崎 優太
ニッポン放送・松崎優太さん 「技術の進歩を活用する」<U30~新しい風>⑱

30歳以下の放送局員に「これから」を考えてもらう企画「U30~新しい風」(まとめページはこちら)。18回は、ニッポン放送の松崎優太さんです。多言語音声翻訳ツール「リングイイネ!」の開発を担当している松崎さんに、ラジオの魅力と可能性を語ってもらいました。(編集広報部)


ニッポン放送に入社して1年半。毎日が新しい体験の連続で、充実した時間を過ごしています。多くの人と出会い、さまざまな考え方に触れる中で変化を感じる一方、入社前にリスナーとして抱いていた気持ちは、今でも忘れずに持ち続けているような気がしています。私が入社前、入社後で変わらず感じている「ラジオの魅力と可能性」について書いてみます。

仲間意識と番組愛

ラジオの魅力――。それは「仲間意識」なのではないかと思っています。

現に、パーソナリティがリスナーのことを仲間だと思ってくれているケースは非常に多いと感じます。「ラジオだから話せる話」が存在するのは、聴いている人を仲間だと思っているからなのではないでしょうか。リスナーの呼称を決める番組があるのも仲間意識の表れで、パーソナリティがリスナーを仲間だと思ってくれるからこそ、リスナーもパーソナリティを仲間として応援する構図ができあがっている気がします。

同時にリスナー同士にも仲間意識があるように思えます。リスナーが一丸となって番組にメールを送り、パーソナリティを盛り上げる場面がよく見られます。このとき、リスナー間にもある種の仲間意識が芽生えているような気がしています。一人でラジオを聴いていても、一人ではないような気がするのは、「この瞬間にパーソナリティがスタジオでしゃべっていて、全国に同じ声を聴いているリスナーがいる」と他者の存在を感じられるからです。

大抵の人は一人でラジオを聴いていて、それゆえリスナーはおのおの「ラジオを知っているのは自分だけ」といった感覚を持っている気がします。この感覚があるからこそ、リスナー同士が話すと自然と仲間意識が生まれ、距離が一気に縮まっていくように感じます。

私はラジオを聴き始めた当初、この"仲間"に入れた感覚に魅了されました。また、リスナーとパーソナリティが形成する"大人の集団"の一員になれたという感覚も魅力に感じていました。

このような仲間意識があるからこそ、パーソナリティもリスナーも番組に愛を持ってくれることが多いのだと思います。

コンテンツの選択肢が急増する中で

一方でラジオの課題は......。メディアが多様化する中で、相対的に影響力を持ちにくい状況に置かれていることでしょうか。

インターネットを使えば誰もが簡単に情報を発信できるようになった今、コンテンツの選択肢は急増しています。影響力が分散するのは当然の結果であり、悲観する必要はないのだろうと思います。また、メディアが増えたからといって、リスナー、パーソナリティがラジオに対して持つ愛情や熱量が下がっているわけではないと感じます。むしろ、世の中のコンテンツが凄まじい勢いで増えている状況で、ラジオが持つ力はそれほど下がっていないとポジティブに捉えることもできるのではないでしょうか。

とはいえ、かつて4大マスメディアのひとつに数えられていた頃と比べると、ラジオのみで戦える時代ではなくなっているのも事実だと思います。

ニッポン放送は昔から「ラジオ"も"やってるニッポン放送」をモットーに、ラジオ以外への挑戦を続けてきたといいます。ラジオを補うような事業を創出するのは、決して簡単なことではないですが、それだけにやりがいも大きいだろうと感じます。また、常に新しいことに挑戦し「時代の1番バッター」であり続けようとする姿勢は諸先輩方が築いてきた社風でもあります。

私が所属するデジタルビジネス部は、主にデジタルオーディオコンテンツにおけるビジネス開発を行っています。今後、市場拡大が期待されるポッドキャストに関しては、「オールナイトニッポンPODCAST」などのオリジナル番組をプロデュースしています。加えて、営業の部署とともにポッドキャスト広告の商品開発なども行っています。また、『オールナイトニッポン』などの番組アーカイブが聴き放題のサブスクリプションサービス「オールナイトニッポンJAM」の開発、運営を行っているほか、海外のオーディオコンテンツ市場にも参入するべく、AIによる多言語音声翻訳ツール「リングイイネ!」の開発も行っています。

bnr_annjam1200x628.jpg

さまざまな業務を経験しながらビジネス開発に携われる環境はとてもありがたく、大きなやりがいも感じています。

話者の声色を活かしたまま他の言語に音声変換

私が担当している「リングイイネ!」はニッポン放送が開発中のウェブアプリで、元の話者の声をそのまま使って、オーディオコンテンツを別の言語に変換できるツールです。

私が配属された当初、デジタルビジネス部では海外で人気の英語のポッドキャスト『Business Wars』を日本語にローカライズした『ビジネスウォーズ』の制作を行っていました。

img340.jpg

制作チームで議論されていたのが、AIを使って外国語のポッドキャストを日本語に、日本語のポッドキャストを外国語に変換するというアイデアでした。

当時は世にAIブームがくる直前で、うまくいくかは正直なところ半信半疑でしたが、学生時代の友人の助けを借りながら、アイデアの実現性について実証実験を行いました。短い実験期間でしたが試行錯誤を重ねた結果、予想以上に高いクオリティで言語を変換できることがわかりました。最初からうまくいかないと決めつけずにやってみることの重要性を、身をもって実感する出来事になりました。

それからすぐ、私はウェブアプリのプロトタイプ制作を始めました。アプリ制作を本業としている方から見れば、とても簡単なものだとは思いますが、エラーが出るたびに解決方法を調べながら進めていき、動くものが完成したときには大きな喜びがあったのを覚えています。

「リングイイネ!」の正式版は、多くの方々に協力してもらいながら現在も開発中ですが、プロトタイプを使うことで、日本語のポッドキャストを外国語に変換する取り組みはすでに始まっています。

第一弾としてスタートした『TOKYO MUSIC LAB ~今日から話せる音楽雑学~』は、英語版を制作したところ、世界各国で日本語版と同程度再生されています。また、『ニッポン放送 防災ポッドキャスト 南海トラフ地震に備える(Preparing for the Nankai Trough Earthquake)』では、正しい情報を国内の外国人にも届けるために英語版を制作しています。番組のパート①「南海トラフ地震とは何か(What is the Nankai Trough Earthquake?)」はすでに配信され、残りのパートも順次英語版を配信します。

さらに、日本のアニメ情報を世界に発信する『吉田尚記のジャパンアニメニュース powered by Newtype』は日本語版だけでなく、英語版、中国語版でスタートするなど、「リングイイネ!」を使った番組が徐々に増えてきました。

番組サムネ.jpg

今後は「リングイイネ!」の正式版を早期にリリースし、多くの方に使ってもらいたいと考えています。また、より多くのポッドキャスト番組で「リングイイネ!」を使った外国語版を制作したいです。将来的には「リングイイネ!」が言語の壁を取り払う象徴になってくれたらうれしいです。

ラジオの未来

未来のラジオはどうなっているか――。ラジオ局員であれば誰しも1度は聞かれたことのある問いで、何十年間にもわたって問われ続けてきていると思います。

テレビ放送が始まる前の街頭インタビュー音声で「未来のラジオはどうなっていると思いますか?」という質問に対して、多くの人は「ラジオには映像がつくだろう」と答えていたそうです。

これはあるパーソナリティが話していて、強く印象に残っている内容です。

しかし、その後、映像がついたメディアはテレビという形で普及し、ラジオはなくなるかと思いきや、いまだにしぶとく生き残っている

この先どれだけ技術が進歩しても音声メディアがなくなることはないと思います。むしろ音声メディアが技術の進歩を活用する未来を期待してしまうくらいです。この未来に「リングイイネ!」が少しでも貢献できているとするならば、これほどうれしいことはありません。

最近、テレビや動画配信では「ラジオ」と銘打った映像が増えてきています。海外では、ポッドキャストに映像をつけた「ビデオポッドキャスト」が大きく普及し始めているそうです。AM、FMの電波を介して聴く「ラジオ」は姿を変えながら、音声メディアの代名詞「ラジオ」として、これからも生き続けていくのだと思います。

最新記事