担当者に聞くFIFAワールドカップ中継(テレビ朝日編) ABEMAと一枚岩の体制を構築

河本 祐典
担当者に聞くFIFAワールドカップ中継(テレビ朝日編) ABEMAと一枚岩の体制を構築

FIFAワールドカップ・カタール大会が2022年11月20日―12月18日に開かれた。テレビ朝日とフジテレビ、NHKが中継、ABEMAが生配信を行った。日韓大会からロシア大会まではオリンピックと同様に民放とNHKで組織するJC(ジャパン・コンソーシアム)が放送権を獲得していたが、カタール大会は個別の契約となった。このほど、テレビ朝日とフジテレビの担当者に中継番組の制作について振り返ってもらった。(編集広報部)


FIFAワールドカップ・カタール大会、テレビ朝日では注目の日本対コスタリカ戦を含む全10試合の放送対応に加えて、ABEMA全64試合の中継も一緒に制作するかつてない挑戦となりました。テレビ朝日としても過去最大のワールドカップ中継試合数となったので(前回のロシア大会は地上波8試合の対応)、普段サッカーを担当していないスタッフも含めて、スポーツ局総動員での体制を構築。ABEMAの制作体制の中心スタッフにはサッカー中継の経験があるプロデューサーとディレクターを配置し、両社で一枚岩の体制を築いていきました。

解説・実況者数は過去最大規模に

具体的な準備がスタートしたのは昨年4月の組み合わせ抽選会を受けた放送枠の決定後からで、これまでのワールドカップとは準備期間も比較にならない短さでした。テレビ朝日・ABEMAの中継プログラムに向けてそれぞれが準備を進めていくのが中心ではありましたが、コアメンバーでミーティングを繰り返し、演出プラン、盛り上げ番組、テーマソング、出演者(解説、アナウンサー)、宣伝プランなど、ABEMAとの共通の取り組みを数多く実施していきました。現地カタールでの中継準備も同様で、ブッキング、IBC(国際放送センター)の設営準備、中継車や回線の手配、各局との調整業務など、全ての準備を一緒に進めました。

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<テレビ朝日・ABEMA共有のサブ

テレビ朝日・ABEMA共同の取り組みの中でも出演者はかつてないほど多く、過去最大規模の体制だったと思います。テレビ朝日は松木安太郎さん、内田篤人さん、中田浩二さんなど、元日本代表選手を中心に解説者を編成、ABEMAでは日本戦を担当した本田圭佑さんをはじめ、総勢40人の解説者を揃えました。

実況に関しても、普段サッカーを担当しないアナウンサーやテレビ朝日系列各局のアナウンサーにも協力いただき、総勢18人のチームでテレビ朝日とABEMAの全試合に対応。例えば、ABEMAで日本戦全試合の実況を担当した寺川俊平アナウンサーは、歴史的勝利をあげたドイツ戦の翌日にテレビ朝日でポルトガル対ガーナ戦の実況を担当。それ以外も日本代表取材や報道・情報番組のリポート出演など、注目された日本戦以外も多岐にわたる分野で貢献してもらいました。

また出演者だけでなく、ほぼ全ての現地スタッフがテレビ朝日・ABEMA両方の制作に携わりました。カタール・ドーハを中心とする集中開催だったため、全てのスタジアムへの移動時間が比較的少なく、出演者・スタッフの配置を柔軟に組むことができたのも今大会ならではのことでした。

各スタジオと現地をつないだ三元中継

テレビ朝日・ABEMAで日本戦合計4試合を対応する事になりましたが、印象的なことが2つありました。1つは11月27日のコスタリカ戦です。テレビ朝日としてユニ(各局個別の活動)の中継車を配置して独自のプログラムを制作する一方で、ABEMAもIBCから独自に制作。お互いがそれぞれ別のプログラムをつくるので制作的負担が一番大きかった試合でしたが、試合後にテレビ朝日のスタジオ、ABEMAのスタジオ、現地の解説者による三元中継を行い、試合を大々的に振り返りました。コスタリカに敗れた直後にもかかわらず、熱量のある豪華出演者が届けた反省・提言を交えたスタジオ討論は次戦スペイン戦にもつながる内容になったと思っています。

2つ目は日本戦試合直後のインタビューです。テレビ朝日ではかねてから試合直後のインタビューを、より選手に近い目線で質問できる元日本代表の解説者で実施してきました。ABEMAで配信された日本戦でもその系譜は引き継がれ、今大会のハイライトシーンの一つにもなった長友佑都選手の「ブラボー」は槙野智章さんが聞き手となり、引き出したものでした。さらに決勝トーナメント1回戦のクロアチア戦では中山雅史さんが聞き手となり、涙する選手にリスペクトを込めながら質問をしていました。今回ABEMAで配信した日本戦は前述の寺川アナだけでなく、ディレクター、技術担当者など一部のテレビ朝日スタッフが計4試合、制作に携わりました。日本代表同様、ワールドカップを初めて経験するスタッフが多い中でしたが、これまでテレビ朝日が積み重ねてきた伝統を新しい体制の中で、出演者の皆さまと魂を込めて制作した中継映像を日本中に届けられたことはこれ以上ない財産になりました。

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<現地での取材風景

今大会はテレビ朝日、フジテレビ、NHK、ABEMAの4社での対応となりましたが、前回のロシア大会のJBA(民放共通業務を行うチーム)体制とは異なり、課題を共有しながらルールを決めて各局独自の体制を構築したワールドカップだったと思っております。小さな課題は数多くありましたが、FIFA(国際サッカー連盟)、HBS(国際映像の制作機関)との調整業務も大きな問題なく閉幕を迎えることができました。あらためてこの場を借りてJFA(日本サッカー協会)、電通、各社のサッカー担当者、ABEMAの皆さまに感謝したいと思っております。

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