当社は1982年2月、全国で5番目のFM局として開局しました。これまで地域や人の魅力を、番組やイベントを通じて発信してきましたが、違った形で愛媛県を応援したい、特にさまざまな"日本一"を誇る愛媛県の第一次産業の魅力を、よりたくさんの方に届けたいと考えるようになりました。また、将来を見据え、放送事業だけではない別の収入源を模索していました。通信販売による地域の魅力発信や収入増を見込んで、2018年6月に公式通販サイト「FMマルシェ」を立ち上げました。
まず苦労したのは商品数の確保。通販サイトを開設するにあたり、県内の生産者に声をかけ商品掲載をお願いしましたが、初めての試みなので苦労しました。次に実感したのは、売り上げにつなげることの難しさ。生産者も自社サイトを持っていたり、県内流通をしたりしている中でFMマルシェを選んでもらうこと、その運営にも経費がかかることなど、次々と課題が見えてきました。何か付加価値を付けないといけないと考え、次に始めたのが地域の課題解決型のオリジナル商品の開発です。
高校生の思いがこもった「ハヤシソース」
四国の軽井沢とも呼ばれる上浮穴(かみうけな)郡久万高原(くまこうげん)町では林業や農業が盛んで、特にトマトやピーマンは県内有数の生産量を誇っています。それらを活かした商品開発に取り組みました。
最初に開発した商品は「上浮穴高校 桃太郎とまと ハヤシソース」。地元の上浮穴高校の生徒たちとは、間伐材を活用した「カホン」という打楽器づくりのイベントなどで長く関わりがありました。その中で当時の校長先生などから、生徒たちが規格外トマトを使い、地域の林業まつりや文化祭、地元のカフェなどで不定期にふるまう「ハヤシライス」がある、しかも先輩から引き継いだ秘伝のレシピだ、という話を聞きました。
日頃自分たちを支えてくれている地域のみなさんへの恩返しを込めたハヤシライスは、山間部にある小さな高校と高齢化が進む町をつなぐ絆の一皿。特産品である桃太郎トマトを活用したハヤシソースを町外の方々にも味わってもらいたいと思いました。賞味期限が十分に確保できるレトルトなら、長く流通できるのではないかというところからプロジェクトがスタート。愛媛の10代徹底応援番組『カモ☆れでぃ★Night!』(水・木、20・00―22・00)のパーソナリティも駆けつけ、何度も試食会を重ねました。先輩から受け継いだ生徒こだわりの味をなるべく活かしつつ、製造業者と価格をすり合わせていったのです。
<上浮穴高校 桃太郎とまと ハヤシソース>
ようやく2019年の年末に完成したハヤシソースは、2020年から本格的に販売をスタートし、試食販売会も毎回大好評。FMマルシェ以外にも置いてもらえる県内スーパーや道の駅が増えていき、累計2万食を売り上げています。さらに2021年には久万高原町の規格外ピーマンにも着目した「上浮穴高校まろやか高原カレー」も開発・販売。パウダー化した規格外ピーマンをふんだんに使った、緑色の中甘口カレーとなりました。
この頃には取扱店が増え、自分たちだけで販路開拓や商品管理をすることが難しくなっていたのですが、6次産業(一次産業、二次産業、三次産業の事業の一体的な推進を図り、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取り組み)を強化していた旭食品との出会いにより、県内スーパーへ販路を拡大することができるようになりました。
<高校生がカレーを開発>
流通や販売をサポート
当初はなかなか売上が伸びなかったFMマルシェですが、商品のラインアップの増加により、少しずつユーザーが増え、売上も大きくなっていきました。地元出身のギャグ漫画家の和田ラヂヲさんや、お笑い芸人のティモンディさんなど、当社で番組を持つタレントさんたちのグッズ販売も手がけることで、県外のリスナーたちにも認識してもらえるようになりました。このあたりから、サイト内でオリジナル商品の"ついで買い"をしてくれる人が増えました。
さらに2020年からの新型コロナウイルス流行に直面し、生産者の皆さんの流通や販売に関する課題が増えたことや、家で食事をする機会が増えたことも、FMマルシェを加速させるきっかけになりました。現在、地域課題解決型の商品は15品ほどになります。これらの商品は、FMマルシェはもちろん、普段番組スポンサーとしてお世話になっているスーパーや産直市場、サービスエリア、道の駅などで販売いただいています。また、四国4県の特色を活かした「お四国鍋つゆ」、「お四国巡り万能つゆ」に関しては、関東・関西・中四国の流通にも成功しています。今後、地域課題解決型の商品を全国に流通させることも目標のひとつです。
<お四国巡り万能つゆ>
放送収入につながる
現在取り扱う商品の利益率は10~15%を想定しています。当初、年間150万円程度だった売上も、販路拡大した今ではトータルで4,000万円程度になりました。今後も臆せず、商品を増やして売上を伸ばしていきたいと考えています。また、売上が大きくなるにつれ、放送局の業務とは異なる、販売の専門的な知識を持つ人材の採用も大きな課題となります。
われわれラジオ局が商品開発・販売をすることで、地域生産者の売上寄与、ふるさと納税の返礼品など、地域活性化事業としての話題づくりにもなります。最初は、自分たちからFMマルシェへ掲載をお願いしていましたが、今では生産者から「掲載したい」と言ってもらえることが増えてきました。また、ラジオでは食品のシズル感(食欲や購買意欲が刺激される感覚)が伝わりづらいと言われ、食品関連会社からのCM出稿が得にくかったですが、FMマルシェ事業をきっかけに出稿が増えてきました。少しずつですが放送収入にもつながり始めています。
四国から全国へ
現在、当社は「LOVE IT MARKET 四国」というプロジェクトにも参画しています。四国4県の生産事業者とつながり、四国に眠っているよい商品を全国に発信する事業です。「LOVE IT!」は「気に入った!いいね!」という意味。参画事業者の商品は、FMマルシェ内でも買えるほか、松山の道後温泉の商店街内のお土産物店、スーパーやサービスエリア、道の駅での移動販売でも四国の「LOVE IT!」な商品を手に取ってもらえるようになりました。さらに今後の目玉として制作したのが、ラジオブース付きのキッチンカー。中継先にこのキッチンカーで赴き、生放送をしながらFMマルシェやLOVE IT MARKET 四国の商品を活用した料理を味わっていただくことが、近々の目標です。
<LOVE IT MARKET 四国>
四国4県の商品を取り扱うまでは実現したので、今後はJFN38局のネットワークとも連携し、全国の商品もFMマルシェで取り扱いたいと考えています。それによって、ユーザーの増加や、愛媛の商品のさらなる販路拡大につながることを目指しています。新しいラジオ局を目指してこれからも頑張ります。