主要各国で、巨大IT企業への規制が強化されている。IT企業の成長とその影響力の拡大があまりに早かったため法整備が追い付いておらず、各国はそれぞれ巨大IT企業の何が問題なのかを見定めることから始まり、対応策を編み出そうと苦慮している。法案には副作用もあり、思わぬ悪影響が出かねない。それぞれの法体系のあり方や国家状況、歴史的・文化的背景を踏まえ、それぞれの解を出そうと模索している。その動きをみてみよう。
市場を解放させようとする欧州連合
欧州連合(EU)議会は7月5日、「Digital Services Act(DSA:デジタルサービス法)」と「Digital Markets Act(DMA:デジタル市場法)」を賛成多数で可決した。理事会での承認を経て、今秋にも発効する。DSAは、プラットフォーム企業に対し、違法コンテンツやフェイクニュースなどへの対応強化、宗教や性的指向など個人のセンシティブ情報に基づくターゲティング広告の排除等を義務づけ、ユーザーの権利を守るもの。DMAは、デジタル市場のゲートキーパーの役割を果たすプラットフォームが、企業やユーザーに不公正な条件を課すことを防ぎ、公正かつオープンな競争環境を確保することが目的だ。自社製品の優遇なども禁じられる。
DMAに違反した場合は世界での売上高の最大10%(違反を繰り返すと20%)、DSAに違反した場合は6%の制裁金が課され、特にDMAに違反すると、最悪、事業の売却を命じられることもある。
マルグレーテ・ベステアー欧州委員会上級副委員長は、「大手プラットフォームは、自らの利益追求を控え、データを他の企業と共有し、より多くのアプリストアを利用可能にしなければならない」と「大きさに伴う責任」を強調した。
委員の一人は、EU委員会の通信ネットワーク・コンテンツ・技術総局(DG Connect)内に専門チームを設置し、「社会的側面」「技術的側面」「経済的側面」といったテーマ別にチームを編成すると意欲を述べている。ただ、専門知識を持った人材や予算が確保できるかという問題、機動力への疑問などもあり、実効性への懸念も示されている。Apple、Googleは反発しているが、両法案で消費者を保護し、市場を解放させようとするEUの取り組みがどこまで有効か注目される。
米国では反トラスト法で対応図る
米国では主に反トラスト法改正による規制が試みられている。昨年6月には、下院司法委員会で反トラスト6法案が可決され、上院司法委員会でもコンパニオン(同僚)法案を提出、一部は可決されている。その後も、上下両院でIT企業による問題点について、さまざまな切り口から多角的な規制法案が次々提出される事態となっている。
主な法案は以下のとおりである。
- ●合併申請手数料近代化法案(H.R.3843/S.228):司法省およびFTC(連邦取引委員会)による合併前の申請手数料を調整し、反トラスト法執行の財源を増やす
- ●州の独占禁止法執行の場所に関する法案(H.R.3460/S.1787):独占的IT企業に対して州司法長官が連邦反トラスト法訴訟を提起する際に、彼らが選択した法廷で、その訴訟を審理することができるようにする
- ●サービスの切り替えを可能にすることによる互換性と競争の拡大に関する法案(H.R.3849):ユーザーのデータポータビリティ権を認める
- ●プラットフォームの競争・機会法案(H.R.3826/S.3197):キラー買収の禁止
- ●自社製品の優遇禁止法案(H.R.3816/S.2992):プラットフォーム上の他社のデータを活用して事業を行うことを禁止
- ●プラットフォームの独占を終わらせる法案(H.R.3825):利益相反に当たるビジネスラインの所有を禁止
- ●アプリ市場開放法案(H.R.5017/S.2710):アプリストアを開放させ、競争を促進する
- ●デジタル広告における競争と透明性に関する法案(S.4258):大手デジタル広告企業が、デジタル広告エコシステムの一部を複数所有することを禁じる
IT企業は莫大な広告費を投じてネガティブキャンペーンを行っているが、中間選挙を前に、投票に至るかどうかが焦点となっている。ただ、法案はどれも狭い範囲をカバーするパッチワークであり、例えばやフェイクニュース対策や"ニュース砂漠"など、既存の規制機関や法律では対処できないさまざまな問題が残る。これに対応するため今年5月に上下両院で、連邦デジタルプラットフォーム委員会法案(H.R.7858/S.4201)が提出された。多方面にわたるプラットフォームの問題を包括的に扱う新たな機関を設置するもの。連邦通信委員会(FCC)や証券取引委員会(SEC)、食品医薬品局(FDA)のような、専門家による監督機関を企図しているが、これですべてが解決するわけではない。「あまりに厳しい解決策であり、経済分野のイノベーションを阻害する」「言論の自由への配慮に欠ける」などの批判も出ている。こちらも決定的な手札がない状況だ。
(②に続く)