米アップフロント さらに強まる配信重視 広告費分散の有効性前面に

編集広報部

米テレビ業界恒例のアップフロントが5―6月に行われた。アップフロントとは9月に始まるレギュラーシーズンの広告枠をこの時期に交渉し、事前に一括セールスする手法だ。6月末現在、広告会社とテレビ局間で交渉が続くなか、「アド・エージ」誌が各局のプレゼンテーションの総括と、今後の広告費動向を予測している。

今年のアップフロントは、いまだ継続中のWGA(全米脚本家協会)のストライキの影響でセレブの登壇もなく、また、NBCUの広告担当トップとして長年腕を振るったリンダ・ヤッカリーノ氏の不在(Twitterを運営するX社のCEOに電撃就任/5月12日発表)など、周囲の話題はにぎやかながら、総じて例年に比べて地味だった。ただし、各局のプレゼンテーションがリニアより配信を重視したこと、テレビ視聴多様化への対応、ダイバーシティ(多様化)が重視されたところに変化も感じさせた。

▷リニアよりも配信を重視
WGAのストライキで秋以降の番組制作が不透明こともあり、安全策を取るテレビ各局は今年のプレゼンテーションの目玉を、これまで以上に配信にシフト。ディズニーは「Disney+」でのマーベル作品や『スターウォーズ』シリーズに力を入れ、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリー(WBD)は新配信サービス「Max」(Discovery+とHBO Maxの統合サービス)のPRに終始。NBCUは配信部門「ピーコック」の人気シリーズを、FOXは傘下の広告入り配信サービス(AVOD)「Tubi」をいずれも前面に押し出した。

半面、スペイン語放送局のユニビジョン(TelevisaUnivision)は、リニア番組を配信に回すこれまでの流れを"逆流"させると発表。今後は配信サービス「Vix」のオリジナル番組をリニア放送に回していくという。番組のほとんどがメキシコで撮影されるためWGAストライキの影響を受けないことに加え、リニアと配信それぞれに特徴的なコンテンツを訴求する戦略のようだ。

▷リニアの主力はスポーツ
台本ありの番組がWGAストライキで姿を消した今年のアップフロントで、リニアの中心になったのはスポーツ実況をはじめ、ニュースやメジャーイベントを伝えるライブ中継分野だ。ディズニーは約2時間のプレゼンテーションの半分をスポーツ専門チャンネルのESPNに費やしている。ただし、頼みの綱であるスポーツ中継も近年はリニアから配信に移行しており、ライブ中継分野でのリニアの重要度は今後下がっていくとの声も広告会社にはあるという。

▷インクリメンタルの重要性
テレビ視聴の多様化が進むなか、テレビ各局にとってはマルチメディア広告戦略が必須。広告主も消費者層にリーチするために広告の投下をリニア、配信、デジタルと分散しなければならない。このため、アップフロントで各局が広告主にアピールしたのは「インクリメンタルリーチ」。テレビCMとインターネット広告を組み合わせて出稿することで、テレビではリーチできなかった人にリーチした上乗せ分のことだ(詳しくはこちら)。FOX、ユニビジョン、NBCU、CWは配信とリニアの視聴データを示し、異なるプラットフォームで異なる年齢層にリーチできることを力説した。

加えて、ディズニーとWBDはいずれもダイバーシティの重要性をアピール。多文化で公平なビジネス機会を推進するDEI( Diversity、Equity、Inclusion)枠を設定したり専属チームを立ち上げるなど、広告投資を分散させることの有効性を広告主にアピールした。

▷テレビ広告費の転機か
「アド・エージ」誌が広告会社の声をまとめ、6月21日付で報じたところによると、広告主によって異なるものの、今年のアップフロント広告予算は総じて大幅減。前年比で60%減の広告主もいるという。広告のカテゴリー別にみても、前年比平均減少率は20%との見積もりだ。結果として、今年のアップフロントはリニアからデジタルへの広告費シフトが一気に加速し、リニア広告費が下降する転機となるかもしれないという広告業界の声が聞かれる。ただし、24年パリ五輪(NBCU)や、NFLスーパーボウル(CBS)と高視聴率を上げるメジャースポーツイベントは相変わらずリニアの独壇場で、広告費も売り手市場を維持している。

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