JNN全28局が"SDGメディア・コンパクト"加盟~全国規模で社会課題の解決を目指す

井上 波
JNN全28局が"SDGメディア・コンパクト"加盟~全国規模で社会課題の解決を目指す

「SDGメディア・コンパクト」は、SDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)の達成を後押しするうえで「メディアとエンターテインメント業界の果たす役割が不可欠」という認識のもと、国連のグテーレス事務総長が2018年に発足させたイニシアチブ。加盟したメディアは自社の資源やクリエイティビティを活用して、国連とも協力しながら、貧困・社会的格差・気候変動などSDGsの17の目標が掲げるさまざまな社会課題について、事実や解決策の発信などを通して、世界が少しでも良い方向に向かうよう力を尽くすことが求められている。21年12月20日現在、世界45カ国から242のメディア企業が加盟、日本では国連広報センターの積極的な働きかけもあって昨年からSDGsに取り組むメディアが急増し、現在世界で最も多い136社が加盟している。

TBSは19年8月に、日本のメディアとして7社目にSDGメディア・コンパクトに参加。その全国ネットワークであるJNN系列でも加盟が進み、21年11月12日に日本のテレビネットワークとして初めて全28社の加盟が完了した。今後全国で連携してSDGsの達成に貢献していくことを表明している。

記者一筋だった私とSDGsの出会い

「TBSってSDGsではどんな取り組みをしているの?」――18年12月、4年ぶりに再会した国連広報センターの根本かおる所長は開口一番、私に問いかけた。根本さんは、彼女がWFP(世界食糧計画)の広報官だった頃にネパールの学校給食支援について取材して以来、 折に触れて"国際貢献のあり方"について教えていただく存在。4年間の中国勤務から戻ったばかりだった私にとってSDGsは「新聞で見たことのある言葉」程度というのが正直なところで、この時は「よくわからないので調べておきます......」と答えるのが精いっぱいだった。

会社に戻って調べてみると、報道局で「海のプラスチックゴミ」に焦点を当てたシリーズを展開したり、投資部門では再生可能エネルギー関連の会社に出資するなど、"SDGs的"な取り組みは行われていたが、それらをSDGsという言葉でくくって全社的な動きにするような流れにはなっていなかった。

その当時の私は入社以来心血を注いできた記者の仕事を離れ、次の目標を模索しているところだった。ビジネスを通じて社会課題を解決することを是とするSDGsは、「やらなくてはならない」と受け身に考えるより、むしろビジネスチャンスでもあると捉えて積極的に取り組むべき分野。これなら記者としての経験を活かしつつ社会貢献もできて、さらには会社のためにもなる......ようやく自分がやるべき仕事が見つかった気がした。

SDGsキャンペーン
「地球を笑顔にするWEEK」がスタート

さっそく同じような意識を持つ仲間を見つけて社内で働きかけを始めたものの、当時はまだ"SDGs"と聞いてピンと来る人は少なく、「会社にとって何が得なのか?」「CSRと何が違うのか?」など、理解してもらうのに大変苦労した。そこで、私が取った"作戦"が、とりあえず「SDGメディア・コンパクト」に加盟してしまおう、というものだった。メディア・コンパクトへの加盟は、企業としてSDGsの達成に貢献していくことを外に向けて宣言するものだが、私としては、会社の中の人たちに"その気になってもらうためのツール"という意味合いも大きかった。加盟はテレビだけでなく、ラジオ、BSも含めたグループ全体で取り組むために「TBSホールディングス」として行った。

その後、世の中の流れも相まって経営層の理解が進み、20年の春にプロジェクトチームが結成され、夏には社長室に「SDGs企画部」もできて、TBSが本格的にSDGsに取り組む環境が整った。そして20年11月に始まったのがTBSテレビ・TBSラジオ・BS-TBSの合同キャンペーン「地球を笑顔にするWEEK」。報道・情報だけでなくバラエティ番組も参加して、1週間集中的にSDGsについて発信するというこの試みは「世界でも例を見ない意欲的なキャンペーン」(国連関係者)と評価され、国連のグテーレス事務総長の単独インタビューも実現した。21年には春と秋2回のキャンペーンに加え、子どもたちにSDGsについて学んでもらうオンラインやリアルのイベントなど、放送を超えてさまざまな形で広がっている。

全国ネットワークでSDGsの推進に貢献

TBSの全国ネットワークであるJNN系列では、19年11月に毎日放送(MBS)、20年9月にCBCテレビとRKB毎日放送、12月に南日本放送(MBC)が各エリアの同業他社に先んじてSDGメディア・コンパクトに加盟した。21年に入って他のJNN各社が続き、11月12日をもって日本のテレビネットワークとして初めて全28社の加盟が完了した。強調しておきたいのは、これはTBSから働きかけたのではなく、それぞれが独自の判断で加盟した結果だということだ。

「地球を笑顔にするWEEK」の際だけでなく、JNN各局では日常的にローカル番組でSDGs関連の企画を展開しているが、それ以外にもさまざまな取り組みが行われている。例えばMBSでは"地産地消"の取り組みとして地元のワイナリーの休耕畑を利用したワインづくりを行って、売上の一部を都市緑化に寄付している(ちなみにこの"MBSの畑"のワインは、なんと19年の大阪G20サミットで首脳の乾杯に使われたそうだ)。RKBでは毎月100kgあまり出る社内食堂の生ごみをすべてコンポストを使って堆肥に変え、社屋のテラスで野菜を栽培し、社員食堂で提供している。各社の取り組みを見ていると、それぞれの地域の特性を活かしたものも多くて面白いし、いろんな可能性を感じさせる。

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<迫力のある飾りや衣装が大好評だった「ニッポンの夏祭り in 赤坂」>

今年の夏には、TBSが赤坂でオープンしていた期間限定のSDGs展示スペース「地球を笑顔にするHOUSE」で、JNN各社の協力を得て「ニッポンの夏祭り in 赤坂」というイベントを約1カ月間にわたって実施した。コロナ禍で全国の夏祭りが軒並み延期・縮小となる中、子どもたちに日本の伝統文化に触れてもらおうという企画で、青森ねぶた祭、仙台七夕まつり、阿波おどり(徳島)、よさこい祭り(高知)、沖縄全島エイサーまつりという日本を代表する5つの夏祭りの飾りや衣装、映像などを展示したほか、全国から子どもたちが参加して「金魚ねぶたづくり」のワークショップも行った。

今後もネットワークを活かして全国で連携した取り組みができたら面白いのではないかと考えを巡らせている。

SDGs達成のカギは"地方"にあり!

実は貧困や社会的格差、環境問題などSDGsが掲げる社会課題の多くは、"過剰な都市化"と深くかかわっている。もちろん発展途上国でより顕著なのだが、日本にとっても他人ごとではない。地方の企業が活性化し、雇用が生まれ、都市から地方への人の流れが作れれば、さまざまな問題が解決できる。つまり、SDGsの目標を達成していくうえで、「地方創生」は欠かせないのだ。それを推進していくためのカギとなるのが、地方メディアと企業のパートナーシップだと考えている。例えばJNN系列のCBCでは"知財マッチングプロジェクト"と銘打って、優れているのに埋もれた企業や大学の知的財産を、それを活かせるアイディアで地元の中小企業とマッチングし、新たなビジネスモデルを創り出すことにチャレンジしている。どんな化学反応が起きて、どんなものが生まれるのだろうと、ワクワクさせてくれる取り組みだ。

私はSDGsの17の目標の中でメディアが最も得意とするのは、17番の「パートナーシップで目標を達成しよう」だと考えている。近年若者のテレビ離れが進んでいると言われるが、知らなかったり関心を持っていなかったりする人も含め、広く多くの人に現状を伝え、行動を促すという意味では、テレビはSDGsに最も向いているメディアだと実感している。

TBSではSDGsの達成期限とされる2030年までキャンペーンを続けることにしているが、1社だけで出来ることは限られている。全国のJNNの仲間たちや、同業他社の皆さんと連携しながら、政府、自治体、企業、視聴者をも巻き込んで、未来の世代に少しでも良い地球を残すためのムーブメントを生み出していきたい。

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