福島放送『シェア!』 全59市町村の県民リポーターが地元の魅力伝える 「県民との距離の近さ」がポイント

松井 久貴
福島放送『シェア!』 全59市町村の県民リポーターが地元の魅力伝える 「県民との距離の近さ」がポイント

県内59市町村の"県民リポーター"が、自撮り動画で地元の魅力をリポートする「ふるさとシェア!」。福島放送の夕方ワイド番組『シェア!』(月―金、第1部=15481645、第2部=18151900)の看板コーナーです。県民リポーターを務めるのは、福島に住む一般の人々で、年齢は5歳から70代まで、職業も飲食店を営む人や農家のほか、保育士、英語教師、シンガーソングライターなど幅広く、100人以上が活躍しています。時には、地元出身の芸人・あばれる君が出演するコーナーのナビゲーターを務めたり、台風や地震の時に地元の様子を伝えたりと、番組に欠かせない存在です。

情報をシェアしてもらう

昨年、福島放送は開局40周年という節目を迎えました。特番やイベントなどさまざまな周年企画を実施しましたが、報道制作部員にとって一大イベントとなったのが、夕方ワイドでの新番組の立ち上げです。16時台の情報番組と、18時台の報道番組を合体させ、報道と制作が一丸となって作る新番組です。立ち上げメンバーで議論を重ね、コンセプトは「福島に住む全ての人と一緒に作る"超県民参加型テレビ"」。番組名は、「県民に情報をシェアする」と「県民に情報をシェアしてもらう」という意味を込めて、『シェア!』に決めました。番組の目玉として生まれたのが、県民リポーターです。

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<番組開始当初の県民リポーターのみなさん

県民リポーター誕生の背景には、福島県の面積が関係しています。福島県の面積の広さは、北海道と岩手県に次いで全国3位。県内でも、局から車で片道2時間以上かかるため、頻繁には取材できないエリアもあります。そこをカバーするために各市町村の住民に自撮り動画で旬の話題をリポートしてもらったら? ということになり、「ふるさとシェア!」というコーナーを企画しました。過去に取材した人たちにお声がけしたところ、趣旨に賛同して参加してくださる方が多く、番組開始時には60人の県民リポーターが集まりました。現在も番組内で随時募集しています。

"ハイパーローカル"なネタを提供

「ふるさとシェア!」では、県民リポーターの自撮り動画を毎日放送しています。地元のホットな話題であれば何でもOK。ネタ選びや編集はディレクターがフォローしますが、取材交渉や撮影は県民リポーターが行います。撮影するカメラは基本スマートフォン。ワイヤレスマイクなどはないので音質は悪いですし、カメラワークもプロのようにはいきません。しかし、地元の魅力を伝えたい一心で出演している県民リポーターの言葉は、確かな「熱量」を持っています。

また、われわれが見落としている"ハイパーローカル"なネタを提供してくれます。豪雪地帯の奥会津・柳津町の県民リポーターは、茹でた大豆を稲わらで包んで雪の中で発酵させる「雪納豆」を作る様子をリポート。雪納豆は、岩手県の伝統食として有名ですが、50年前は柳津町民も作っていたそうです。また、中通りの城下町・棚倉町の県民リポーターは、「お月見泥棒」をリポート。中秋の名月に飾られるお供え物を子どもたちが盗むという風習で、福島県では南部の一部の地域だけで受け継がれています。いずれのネタも、入社20年以上のベテランアナウンサーも「知らなかった」と驚いていました。ほかにも、5歳の県民リポーターが大人顔負けの食リポをしたり、ご当地ゆるキャラがリポーターを務め、なりきり声でアフレコする力作など、ユニークな動画が集まっています。

「ふるさとシェア!」雪納豆作りに挑戦する柳津町の県民リポーター.jpg

<雪納豆づくりに挑戦する柳津町の県民リポーター

負担を感じて「出演頻度を減らしてほしい」というリポーターもいますが、「自分も地元の魅力を知る勉強になる」「プロに編集してもらうと気分が上がる」など、好意的に務めてくれている方がほとんどです。中には、地元の情報通を県民リポーターとして紹介してくれる方もいます。

さまざまな属性活かし生の声届ける

県民リポーターが出演するのは「ふるさとシェア!」に限りません。あばれる君が県内の魅力を再発見するコーナー「あばれる君の熱血!まち自慢」では、地元の名物を自慢するナビゲーターとして登場。県内の絶品ラーメンを深堀りする「ふくしまSUPERら~めん道」では、県民リポーターとアナウンサーが地元のおいしい一杯を紹介します。

さらに、県民リポーターはニュースコーナーでも活躍しています。今年3月の最大震度6強を観測した福島県沖地震では、被災した県民リポーターと生電話をつなぎ、被害状況や困っていることなどを伝えてもらいました。8月30日に双葉町の帰還困難区域の一部が避難指示を解除された際は、双葉町の県民リポーターが生出演し、復興状況や今後の課題を話しました。

福島県沖地震の被害状況を、自ら撮影した動画で伝える県民リポーター.jpg

<県民リポーターが福島県沖地震の被害状況を自ら撮影

また、コロナ禍の行動制限中には温泉旅館を営む県民リポーターが苦しい胸中を明かし、ボージョレ・ヌーボーの解禁日には、ワインソムリエの県民リポーターが今年の出来栄えを教えてくれました。県民リポーターはさまざまな属性の県民が務めているので、その日のニュースに合わせて当事者の生の声を伝えられるのも強みだと思います。

視聴者との「双方向性」

より多くの県民に参加してもらうために、『シェア!』では番組公式LINEを活用して毎日3回程度、生放送中にクイズやアンケートを実施しています。天気コーナーで桜や紅葉の様子、冬用タイヤへの交換時期などについて質問すると、福島県は浜通り・中通り・会津で全く違う気候なので、面白いほど地域差が出ます。物価高のニュースの時は値上げで困るものを聞いたり、全国旅行支援が始まる時は旅行に行くかどうか聞いたり、視聴者との「双方向性」を意識した番組づくりをしています。

ローカル局は「地域密着」「地域活性化」「地域貢献」がキーワードです。それを実現するために「県民との距離の近さ」はポイントになると思います。これからも県民と密にコミュニケーションを取りながら「超県民参加型テレビ」を進化させていきたいと思います!

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