全国制作者フォーラム2023 3年ぶりの交流の場 思いぶつけ合う

編集広報部
全国制作者フォーラム2023 3年ぶりの交流の場 思いぶつけ合う

放送文化基金主催の「全国制作者フォーラム2023」が2月18日に東京・如水会館で開かれた。今年度内に5地区(北日本北信越愛知・岐阜・三重中・四国九州・沖縄で行われたフォーラムの締めくくりで、若手制作者ら約80人が参加。各地区から選ばれたミニ番組の上映やトークセッションを通じて、番組制作の実情と思いを共有した。全国制作者フォーラムの開催は2020年以来3年ぶり。

各地のミニ番組優秀作を上映

各地区3作品ずつ、合計15の受賞作品を、制作者自身の解説を交えて上映。主に夕方ニュースで放送された、5~10分程度の多彩な特集やリポートが並んだ。ゲストは笠井知己・中京テレビコンテンツ制作局副部長、佐野亜裕美・関西テレビドラマプロデューサー、山﨑裕侍・北海道放送報道局報道部デスク。コーディネーターの丹羽美之・東京大大学院教授と共に作品を講評した。

笠井氏は、ある作品の感想として「疑問が色々と浮かんだが、最後まで見ることができた」と述べたのに続けて、「小さな疑問は番組内で解消し、逆に大きな疑問はすっ飛ばしてよい」と構成する上での持論を展開。自身が統括するバラエティー『オモウマい店』を引き合いに、「編集を工夫して"不意打ち"を打ち出せば、より視聴者の心を動かせる」と語った。昨年秋放送のドラマ『エルピス』をプロデュースした佐野氏は、「"不意打ち"感の薄い編集では、出来過ぎた良いストーリーとしてまとまってしまう」とアドバイス。ドラマを通じて社会的な課題を伝える手法を自身が選択していることに触れ、「視聴者が"見て終わり"ではなく、自分で何ができるかを考えてくれるよう、もう一歩の踏み込みを」と提起した。数々の賞を受賞した『クマと民主主義』『ヤジと民主主義』などを手掛けた山﨑氏は、ドキュメンタリーに必要な要素として「魅力的な主人公」「知られざる事実」「映像の強さ」の3点を挙げ、これらが揃った参加作品を称賛した。一方、取材対象への事後インタビューが目立つ作品には、「瞬間の映像で現実を捉えるべき。インタビューは再現でしかなく、手抜きになってしまう」と苦言を呈した。

上映作品の中から各ゲストがお気に入りの一本を選定。次の4作品を表彰した。

笠井賞:NHK徳島放送局・吉岡朱里氏=とく6徳島「ひきこもり経験の若者 お遍路に挑む」
佐野賞:北海道放送・泉優紀子氏=今日ドキッ!「LGBTカップルの妊娠 小さな命のメッセージ」
山﨑賞:CBCテレビ・柳瀬晴貴氏=チャント!「悪魔の病と闘うウーバー配達員」
丹羽賞:NHK仙台放送局・助川虎之介氏=東北ココから「家族の"空白"を見つめて~高齢者施設 入居者と家族の周辺~」

制作者フォーラム(適宜トリミング) IMG_6197.png<イベント終盤にはゲストがお気に入りの作品を表彰した

ゲストによるトークセッション

後半は、「テレビ新時代~変わっていくこと、変わらないこと~」と題し、事前にゲストに寄せられた質問を軸にトークが行われた。『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』で脚本家・坂元裕二氏と組んだ佐野氏は、「坂元さんとは、『こういうものが見たい』『これは受け入れられない』と、感情で通じ合えるやりとりができる」と制作の背景を明かした。これに笠井氏は「共通言語のある仲間をどれだけ増やせるかは重要だ」と応じ、「『オモウマい店』の総合演出の2人は面白がるベースが根底で同じ。なので上手く回っている」と語った。山﨑氏もこれに賛同し、「ロケの際、台本は書かないが細かいメモは作る。カメラマンとよく話し合っておくのが大事で、撮るべきタイミングに『こう撮って』ととっさに対応できる」と実例を挙げた。

現場が抱える課題を問われ、笠井氏は「ADからプロデューサーへ、という一連のキャリアプランが崩れつつある時代。いかに若手に夢を見せることができるか」と指摘。佐野氏は、「面白くて良い作品は見てもらえる。局の垣根を超え、世界に通用する作品を集中的に作ってもよいのでは」と呼びかけた。「地方の現場で取材できることを大事にしたい」という山﨑氏は、「放送は多くの人が知るべきことにアクセスできる装置。社会的な成熟を減退させてはいけない」と危機感を語った。

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<トークイベントの模様。左から丹羽氏、笠井氏、佐野氏、山﨑氏

会場には、放送関係者や研究者のほかに学生の姿も。この春から制作プロダクション「メディア・ワン」で働く茨城大生の宮下楊子さんはフォーラムに初参加。「映像を作る際に意識すべきこと、特にメリハリの重要さを学んだ。常に意識していきたい」と、民放onlineの取材に感想を寄せた。イベント終了後は名刺交換の時間が設けられ、参加者同士が作品の感想を述べ合いながら交流を重ねた。

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