U30~新しい風③ テレビ静岡・福島流星さん「被災者・被害者・遺族の取材って必要ですか?」【テレビ70年企画】

福島 流星
U30~新しい風③ テレビ静岡・福島流星さん「被災者・被害者・遺族の取材って必要ですか?」【テレビ70年企画】

テレビ放送が日本で産声を上げたのは1953年。2月1日にNHK、8月28日に日本テレビ放送網が本放送を開始しました。それから70年、カラー化やデジタル化などを経て、民放連加盟のテレビ局は地上127社、衛星13社の発展を遂げました。そこで、民放onlineは「テレビ70年」をさまざまな視点からシリーズで考えます。

30歳以下の若手テレビ局員に「テレビのこれから」を考えてもらう企画を展開します。第3回に登場するのは、テレビ静岡報道部の福島流星さん。ディレクターを務めた『母と妻と娘と―あなたが愛した伊豆山―』(2022年5月29日放送)が第26回日本放送作家協会・中部テレビ大賞優秀賞を受賞しました。福島さんには、被害者や被災者、遺族への取材について考えていただきました。


ジャーナリストに憧れた幼少時代

私は小学生の頃に読んだ「戦場ジャーナリスト」にまつわる本がきっかけで「記者」に憧れを持つようになりました。紛争とは無縁の国に住む小学生に、世界各地で起こっている"現実"を届ける仕事に強烈な魅力を感じました。

大学卒業後の2017年、縁あって地元の放送局・テレビ静岡に入社し報道部に配属されました。1年半ほど部署を離れた時期もありましたが、およそ6年にわたる記者生活を振り返ると、いわゆる被災者、被害者そして遺族への取材を数多く経験させていただいたと感じます。

「どういう気持ちか?ってアホすぎて...」

ここ数年、被害者や被災者、遺族を取材したニュースが配信されると、ネット上では「そっとしておくべきだ」という趣旨のコメントを目にします。2022年9月、静岡県に大きな爪痕を残した台風15号で、浸水被害にあったすし店を取材しました。女性すし職人の方に心情を尋ねると、それまで気丈に振る舞っていた女性が言葉に詰まりました。

その様子を映したネット記事が配信されると、コメント欄には「どういう気持ちか?ってアホすぎて...」「単細胞のアホがする質問やてww」「いくら仕事とはいえ あまりにも酷いわ。人の気持ちも考えんと」「口を慎めよ・・テレビ局は、モノ知らずしか人材いねぇのかよ。どあほうが!!」――厳しいご指摘をいただきました。人生で初めて"炎上"した瞬間かもしれません。

遺族と向き合う・熱海土石流

遺族の取材は生半可な気持ちでは務まりません。記者人生の中で最も多く、そして深く遺族を取材したのは2021年7月3日に静岡県熱海市の伊豆山地区で発生した土石流災害でした。土石流の要因は違法に造成された「盛り土」とされていて、結果的に28人の尊い命が奪われました。

災害ではなく人災によって、愛する母と妻、娘、それぞれの命を奪われた遺族に密着し、『母と妻と娘と―あなたが愛した伊豆山―』と題したドキュメンタリーを制作しました。主に取材を担当したのは土石流で母を亡くした瀬下雄史さん(52・発災当時)。遺族や被災者で作る「被害者の会」の会長でもあります。

母が土石流で命を落としてから50日後には病気を抱えていた父もこの世を去り、瀬下さんは突如として両親を失いました。しかし、つらいはずの瀬下さんは決して弱音は吐かず、毅然とした態度でマスコミの取材に応じ続けました。「なんて強い人なんだろう」そう感じるとともに、どこか遠い存在に感じました。

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<『母と妻と娘と―あなたが愛した伊豆山―』>

そっとしておいたら、気づけない

物理的な距離ではなく、心理的な距離を感じた取材対象者ほど、難しい取材はありません。しかし、遠い存在だった瀬下さんとの距離がグッと近づいた出来事がありました。それは瀬下さんの自宅にお邪魔したとき、小学生の一人娘に見せる瀬下さんの表情を見たときでした。世間に対して見せる表情とは全く異なる、温かくて優しい眼差しで娘さんを見つめていたのです。当然といえば当然と言われるかもしれませんが、瀬下さんはどこにでもいる心優しい普通のパパでした。

ですが、普通のパパだけではないことを、瀬下さんの妻が教えてくれました。「義母が亡くなって以降、夫は酒の量が増えて、呑んでも、呑んでも眠れないの」。瀬下さんは人知れず苦しんでいた一人の息子でした。どこにでもいる普通の家庭、普通の父親、普通の息子が突如として両親を失い、平穏な日常を奪われ、悪夢で連日うなされている、苦しんでいる。そっとしておいたら、決して知ることのなかった現実をすべての父親や息子に伝えたいと固く誓った瞬間でした。

全国に違法な盛り土が1000カ所以上あると言われています。あなたが住む地域、あなたの愛する家族が住む地域に違法な盛り土はありませんか? 「二度と同じ悲劇を繰り返さないために」瀬下さんは被害者の会会長として今も前を向き続けています。そっとしておくことは逃げることだと思います。自分事として考えてもらえるように、私はテレビ局の記者として、一人の父親として、遺族と向き合い続けます。

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<瀬下雄史さん=左から2人目>

「理解しようとしない」こと

なぜ被災者を、被害者を、そして遺族を、私たち記者は取材するのでしょうか。「マスゴミ」と呼ばれないために、取材を控えるべきでしょうか? 私はそうではないと信じています。すし店の女性職人は「心情に関する質問」のあと、「聞いてくれてありがとう。今までは気丈に振る舞っていたけれど、あの質問のおかげで、自分がやっぱり大変だと気づくことができました。想いを吐き出したことで気持ちが楽になりました」とおっしゃってくれました。

私は被災者や被害者、遺族を取材するときに心がけていることがあります。それは「理解しようとしない」ことです。私自身、自宅が雨で浸水したことも、特殊詐欺の被害にあったことも、身近な人を失った経験もありません。経験がないから、理解できないのです。「その気持ち、わかります」。その一言がどれだけ相手を傷つけるのか、怖すぎて言えません。

自分にできることは、そっとしておかず、逃げずに、寄り添い、話を聞かせていただくことだけです。そして相手の想いを、遠く離れた国に暮らす小学生にも届くように発信することだけです。テレビの未来ではなく、取材を受けていただいた人と、取材内容を見ていただいた人の未来が少しでも良くなるように、取材を続けていきたいと思います。

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