【海外メディア最新事情】2年ぶりのMIPCOM 仏・カンヌから現地リポート コロナ禍で配信サービスの影響力拡大 オンラインとリアルの共存が今後の課題

稲木 せつ子
【海外メディア最新事情】2年ぶりのMIPCOM 仏・カンヌから現地リポート コロナ禍で配信サービスの影響力拡大 オンラインとリアルの共存が今後の課題

「誰が参加しなかったかを報じるのではなく、成果に注目してほしい」と切り出したのは、世界最大級のコンテンツ見本市・MIPCOMを主催するRXグローバルの新ディレクター、ルーシー・スミス氏だ。今月11日から4日間、仏カンヌで開催された同見本市の総括記者会見での発言である。スミス氏は「5,000人の参加を見込んでいたが、実際に来場したのは4,500人だった」と続けた。これは、コロナ禍以前の延べ参加者数の3分の1。ただ、5,000人規模のイベントを連日開催したにもかかわらず、クラスター感染なく閉幕したのは立派な成果だ。

9月に予定されていた米NABショーの開催が直前に中止(来春に延期)となり、MIPCOMはコロナ禍で再開される初の大規模なメディア見本市となった。だが、ワクチン接種が進む欧州でも動員数は厳しい結果に。現地の雰囲気としては、参加者には常時マスク着用が義務付けられたが、ピリピリした感じはなく、皆が講演や試写でルールを守っていた。ただ、商談中に飲み物が出されていたこともあり、展示会場内では時々、マスク着用のアナウンスがあった。

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<商談の行われる会場の模様>

手際が良いと思ったのは毎朝の感染リスクチェックで、ワクチンパスポート(欧州ではQRコード共通)での確認後、係員が日替わりで色違いの腕バンドを装着してくれる。見本市では付近のホテルやレストランでの会合が多いため、会場を自由に出入りできるこの腕バンドは便利で、主催者の配慮を感じた。

出展数減で評価分かれる

参加者が大幅に減ったことから、今回は入口から離れた別棟がメインの展示場となった。出展は欧州大陸の放送局・制作会社が中心で、英米の大手企業の多くは出展を見送った。感染拡大が収まっていないアジア・中南米からの出展も減少し、個別ブースを出したのは38カ国145社。来場したバイヤーの数も1,200人と、2年前の4分の1にとどまった。

対面を重視する「リアル派」もいる。チリやアフリカからカンヌ入りしたバイヤーは「ウェブ会議では情熱が伝わらないし、人間関係が作れない」と出張を決めたという。日本から個別出展したのは東映アニメーションの現地事務所のみで、放送局はMIPCOMのオンラインプラットフォームを活用した。イベントの3週間前から集中的に商談を進めた在京局は、一定の手応えを得たようだ。

縮小開催については、2年ぶりに対面で商談や人脈づくりができることを歓迎し、主催者の決断を讃えた声もあれば、「面談数がこれまでの半分しかなかった」「対面での売り込みに来たが国際的なバイヤーがいない」など不満の声もあり、評価が分かれた。

リアルならではの手応えも

MIPCOMの会議で多くの参加者が強調したのは、動画配信サービスの影響力の拡大だ。コロナ禍で利用者が増えただけでなく、HBOやディズニーなど、SVOD(有料動画配信)市場がこの間に急拡大した。仏メディア調査会社のメディアメトリによると、過去1年間のドラマ制作はコロナ禍前よりも微増。牽引役は配信会社で、新番組の約半分が配信向けに作られていた。また、配信市場のグローバル化で制作国の国際化が進み、今年1~7月時点で、ネットフリックスの上位5作のほとんどが米英以外の国で制作されていた。

韓国の「イカゲーム」のグローバルヒットにみられるように、配信会社がドラマの「新しい潮流」を生み出す傾向も。英チャンネル4のマホーンCEOは「配信会社が番組のスケールを次々に大きくしており、(放送局は)強い圧力を感じている」と語っていた。アジア作品への関心が高まっても、放送局のヒット作だけが注目されるわけではない。リアリティ番組の新トレンドとして紹介された日本の番組が、Abema TVの「恋愛ドラマな恋がしたい」だったのは象徴的だった。

リアル開催ならではの手応えを感じたのは、MIPCOM BUYERS' AWARD for Japanese Dramaの発表会。早朝にもかかわらず会場は満員となり、ノミネートされた日本のドラマ10作品を全員が真剣に見ていた。惜しまれるのは、盛り上がったイベントをフォローする放送局員が日本から来られなかったこと。国際ドラマフェスティバルは同アウォードをPRするブースを出展し、10作品のカタログを展示。関心を示す来場者をウェブ取引にうまく誘導できたかなど、リアルとオンラインが効率良く共存する方法が、今後の課題だろう。

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<発表会で真剣に映像を見る参加者たち>

RXグローバルは、来春のMIPTVは開催日数を短縮してリアルとオンラインでハイブリッド開催し、1年後のMIPCOMは従来通りに開催するとしている。同社のスミス氏は、日本の参加社に「ぜひ戻ってきて欲しい」と語った。

現地取材をして、確かにリアル開催の強みも感じた。しかし、大規模見本市の復活はポストコロナ時代に即しているのだろうか。同社は、商談促進のため通年で番組プレビューや商談ができるオンラインサービス「MIP One」を12月に立ち上げると発表。試用期間の来春までは無料で、以降は有料となる。オンラインサービスの通年・有料化で、主催者も新たなビジネスモデルを模索しているようだ。MIPがDXを進めるのなら、これまでも課題とされていた取引相手のマッチングを、AIなどを駆使して最適化できるかが鍵となりそうだ。

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