埼玉県を拠点とするラジオ局 FM NACK5(以下、NACK5)は、2025年春、若年層に向けた新たな音声コンテンツブランド「NACK5 NEXT」を立ち上げた。ポッドキャスト配信限定の番組(聴取は無料)を、ラジオのタイムテーブルのように平日毎日17時に配信。地上波ラジオでは届きにくかった10代・20代の学生をターゲットに、ジャンルを横断する5つの番組を展開している。その背景には、ラジオ局としての挑戦と、音声メディアの未来を見据えた戦略がある。
若者に届く時間と声を探して
「NACK5 NEXT」の配信時間は平日17時。これは学生の"下校時間"に合わせた設定だ。Spotifyなどの利用データによると、10代・20代の利用者が多い時間帯であることが示されており、ラジオ局として次世代である若年層にアプローチするためにも、この時間帯にこだわった。
「NACK5の地上波ラジオは40代・50代のリスナーが中心。ラジオを聴いていない若年層にNACK5を届けるには、彼らの生活リズムに合わせた時間に配信する必要があると考え、ポッドキャストを活用することにした」と語るのは、本ブランド全般を担当するNACK5デジタルコンテンツ部の金井勇樹課長(=冒頭写真㊨)。実際、月曜日配信の『ナユタの伸びしろ!』では、22歳以下のリスナーが全体の半数を占めるなど、狙い通りの成果を挙げている。
<2024年5月から配信を開始した『ナユタの伸びしろ!』も「NACK5 NEXT」の一員に>
多様なジャンルで広がる世界
「NACK5 NEXT」では、月曜から金曜までジャンルの異なるパーソナリティが日替わりで登場する。月曜日はお笑いコンビ「ナユタ」、火曜日はアイドルグループ「WATWING」の髙橋颯、水曜日はVTuberの加伊那、木曜日はダンスボーカルグループ「ELSEE」のAKARI、金曜日は現役女子高生でインフルエンサーとして人気を集めるひまひまが担当。
いずれのパーソナリティも、今回が初の冠番組。「NACK5 NEXT」は、こうした新しい才能を発掘・育成する場として、ラジオスターの登竜門となることを目指している。パーソナリティとリスナーが共に成長していく──そんな新しい場所として「NACK5 NEXT」はデザインされた。
また、営業的な視点からも「聴取数だけを目指してお笑い芸人の番組に絞ると、ターゲットが限定されてしまう。多様なパーソナリティをそろえることで、より多くの若者が足を運んでくれるイベントの展開が期待できる」と金井課長は語る。ジャンルを分けることで幅広い層にリーチし、公開収録やイベントでの展開も視野に入れている。
若手スタッフがつくる"今"のラジオ
制作陣も20代が中心。最年少は24歳のディレクターで、30代前半までの若手スタッフが番組を支えている。地上波ラジオの制作現場では年齢層が高くなりがちな中、「NACK5 NEXT」は若者の感性に寄り添った番組づくりを実現している。
「『ひまひまの放課後キラハピFRIDAY!』では、小学生から、ひまひまさんと同年代の女子高生・男子高生を中心にメッセージが届く。地上波ラジオのリスナー層とは異なる10代から20代前半の若い人たちに聴いてもらっている」と語るのは、番組全般を担当するNACK5デジタルコンテンツ部の内藤興大さん(=冒頭写真㊧)。
<『ひまひまの放課後キラハピFRIDAY!』は毎週金曜日の配信>
ラジオ局だからこそできること
ポッドキャストは誰でも配信できるメディアだが、「NACK5 NEXT」はラジオ局ならではの強みを活かしている。すべての番組はスタジオで収録され、ディレクター・作家・エンジニアがそろった体制で制作。リスナーからのメッセージも積極的に取り入れ、双方向性を重視している。音質や構成にもこだわり、ラジオらしさを残しつつ、ポッドキャストに最適化されたトーク中心の番組構成となっている。
「ラジオ局は月曜から金曜まで生放送番組を帯で展開し、一体感を持って各曜日をリスナーに届けている。ポッドキャストでも差別化を図るため、ラジオ局らしい帯番組として展開するのが面白いと思った」と内藤さん。だからこそ、各番組のエンディングでは「明日のNACK5 NEXTは」と、次の曜日のパーソナリティにつなぐ形で締めている。
地上波と連動 スペシャルウィーク
もう一つのユニークな取り組みが、地上波ラジオのレーティング週(ビデオリサーチによるラジオ個人聴取率調査の対象期間)に合わせた「スペシャルウィーク」(=画像㊤)の開催。ポッドキャストにはレーティング期間はないが、地上波ラジオと同じ時期に特別企画を実施することで、地上波ラジオを知ってもらうきっかけを作っている。
初のスペシャルウィークとなった8月25日週には、"おひなさま"こと長浜広奈(『ナユタの伸びしろ!』に出演)、7ORDERの長妻怜央(『髙橋颯のはしごだか』に出演)など、話題の人物がゲストとして出演した。
さらに、2025年10月からは、地上波ラジオの新番組『えびしゃの「ばくばく」』(土曜 24:30~28:45)内で、「NACK5 NEXT」の切り抜きコーナーが放送される。これにより、地上波リスナーがポッドキャストにも興味を持つきっかけを作る。
音声メディアの未来へ
「NACK5 NEXT」は、NACK5がポッドキャストに本格参入した初の番組ブランドとして、ラジオ局の可能性を広げようとしている。今後は収益化やイベント展開も視野に入れ、若者にとっての"ラジオの入り口"としての役割を果たしていく。
「NACK5を知らなくても、NACK5 NEXTは知っている──そんなブランドに育てていきたい」と語る内藤さんの言葉には、ラジオの未来を担う意志が込められている。
■Nack5 Nextの詳細は以下のウェブサイトから。各番組の聴取も可能だ。
https://www.nack5.co.jp/nack5-next/