地方発、全国・世界へ――FM愛媛が切り拓くポッドキャストの可能性

編集広報部
地方発、全国・世界へ――FM愛媛が切り拓くポッドキャストの可能性

ポッドキャストが今ほど一般的でなかった2013年、エフエム愛媛(以下、FM愛媛)は一歩先んじてその世界に足を踏み入れた。以来10年以上にわたり、地元発の番組を全国に届け続けてきた同局。その中心にいるのが、FM愛媛の伊藤昇吾氏である。人気番組『和田ラヂヲの、聴くラヂヲ』『一平くんのゲコゲコ相談室 DX』などを手がけ、自身も「九官鳥」として番組出演している。そんな伊藤氏に番組制作の裏側から、ポッドキャストの魅力、そして今後の展望までを聞いた。

『和田ラヂヲの、聴くラヂヲ』とともに始まった挑戦

FM愛媛がポッドキャストに取り組み始めたのは20134月。きっかけは、愛媛在住の漫画家・和田ラヂヲ氏を起用した番組『和田ラヂヲの、聴くラヂヲ』の立ち上げだった。

「番組を始めるにあたって、愛媛以外にも発信できる方法はないかという話が出たんです。当時、TBSラジオがすでにポッドキャストを展開していて、私自身もリスナーとして魅力を感じていました。そこで、番組と同時にポッドキャストも始めることにしたのです」

番組は開始当初から反響を呼び、毎週1,000通を超える投稿が寄せられた。愛媛のローカル局としては異例の盛り上がりだった。番組の人気は県外にも波及し、2014年には大阪で初の公開録音イベントを開催。東京や福岡でも実施し、いずれもチケットは完売した。

「最初はイベントを"なぜ県外でやるのか"という声がありましたが、結果的に、県外のリスナーとの接点を持つ大きな機会になりました」

実は、この県外イベントもポッドキャストで発信していたことがきっかけで、大阪にある「Loft PlusOne West」のこけら落としのイベントとしてどうかと声をかけてもらい実現した。radiow3.jpg

<現在放送中の『和田ラヂヲの、聴くラヂヲ3』>

ディレクターが"声"で出演する理由

伊藤氏が手掛ける番組では、ディレクターでありながら、自身が出演している。多くのリスナーは"九官鳥さん"の方が馴染み深いかもしれない。テレビ番組や、ラジオ番組において、裏方が表に出ることは珍しくないが、番組を開始した時点では、FM愛媛では事例がなかった。

「番組を始めた当初は"なぜディレクターが喋るのか"という社内からの声もありましたが、パーソナリティとかディレクターとかいう肩書で判断するのではなく、ラジオの仕事をしている人間が喋ってもそれは自然な事じゃないか、という思いで始めました」

出演することで、番組の進行や編集にもメリットがあるという。

「ディレクターが出演すると、番組の流れをコントロールしやすく、その点でメリットがあります。話が脱線しそうな時に"そろそろ次へ"と促すことで、編集や進行が格段にスムーズになります。パーソナリティが自由に話すだけだと、話は面白くても前後の話から脱線している場合、編集が難しくなることもあります。裏方が出演することで番組全体の質が上がることもあると感じています」

また、出演することでパーソナリティを"守る"役割も果たしている。

「番組内で意見が分かれるような話題が出た時、私が逆の立場を取ることでバランスが取れる。パーソナリティの発言が一方的に受け取られないようにするためにも、裏方が声を出す意味はあると思っています」

番組の進化と広がるラインアップ

現在、伊藤氏が関わる番組は『ティモンディ前田の、イカラジオ』『マシンガンエチケット』『一平くんのゲコゲコ相談室DX』など多岐にわたる。中でも『ゲコゲコ相談室』は、全国からメールが殺到する人気番組となっている。

「否定も肯定もしない、正義を振りかざしたりもしない。聞くだけ。というか脱線しすぎて相談にこたえてるかどうかも怪しい。本気の方はお断り。そんな敷居の低すぎる相談番組です。カエルと鳥がパーソナリティという設定もあって、リスナーが気軽に悩みを打ち明けられる空気感があるのだと思います」

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<『一平くんのゲコゲコ相談室DX』おすすめは2023年10月16日OAから4週にわたって盛り上がったトイレのはなし>

ポッドキャストの魅力は、時間に縛られない自由な編集が可能な点にある。放送では30分に収める必要があるが、ポッドキャストでは1時間以上の内容も配信できる。実際、『マシンガンエチケット』などは、放送時間が30分なのに対してポッドキャストが1時間超で尺が異なる。

「放送は"濃縮版"、ポッドキャストは"完全版"という感覚です。時間を気にせず、面白い部分をそのまま届けられるのは大きな利点です」

番組の収録方法も進化している。例えば『ティモンディ前田の、イカラジオ』では、東京で収録する際は、事務所に事前に設置した機材をパーソナリティであるティモンディの前田裕太氏のマネージャーが操作し、伊藤氏がZoomでディレクションを行うというスタイルを確立している。

方言と"地元感"が生む魅力

全国向けのポッドキャストだからこそ、やはり番組自体の面白さが大切だと、伊藤氏は考えている。

番組がうまく回り始めたことをどのタイミングで感じるのか聞くと、「目に見える反応をくれる"熱心な100"がいれば、その後ろには1万人のリスナーがいると信じています。良い番組を発信し、良いリスナーと出会い、良いメッセージをもらうこと。その循環が番組を面白くし、続けていく原動力になるのです」と語る。

「例えば、番組オリジナルTシャツが300枚近く売れたり、番組で欲しいと話したカップ麺の応募券をリスナーらが送ってくれ、最終的に1,200枚近く集まったり。まるで"お布施"のように番組を支えてくれるリスナーの存在は、本当にありがたいです」

また手掛ける番組の魅力の一つは、リスナーとの距離の近さにある。愛媛在住の3人が話す『マシンガンエチケット』は、愛媛の方言が、自然にかつ色濃く出る番組としても知られている。東京から移住してきたリスナーが、方言の勉強のために聞いているという声が寄せられたこともあるという。

「愛媛の人の世間話を聞いているような感覚が、県外のリスナーにも心地よく響いているのかもしれません」

県外のリスナーが愛媛に来て番組で話した場所を訪れる"聖地巡礼"の報告はもちろん、実際に行きつけの店についてラジオで話しているため、リスナーとばったり出くわしてしまうときもあるそうだ。

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<『マシンガンエチケット』パンクロッカー・ガッツムネマソ( from BONKURA FEVERS)、松山の老舗BAR・ROPPONGIの店主・マイケル、九官鳥の3人 深夜のファミレスで隣の3人組の話を盗み聞くようなゆるさが人気>

災害時の支援、そして"日常"を届ける役割

印象に残っている出来事として、伊藤氏は2018年の西日本豪雨の際のエピソードを挙げる。愛媛も被害が大きく、パーソナリティからの呼びかけで支援物資を集め、現地に届けたという。

「番組の中で『助けに来てくれませんか?』というメールが届いて、パーソナリティが番組やSNSで呼びかけたところ、想像以上の物資が集まりました。県外のリスナーも協力してくれて、ラジオの力を実感しました」

一方で、日々の番組内で、災害や事件にあえて触れないという選択もしている。

「報道は報道に任せて、私たちは"日常"を届ける。そうすることで、リスナーが少しでも前向きな気持ちになれるような番組を目指しています」

全国・世界を見据えた番組づくり

伊藤氏は、ポッドキャストを「全国、そして世界に向けた土俵」と捉えている。

「ラジオは、愛媛で作っていても東京の番組に負けないクオリティのものが作れる。目に見えるセットなど、ある程度の予算が必要なテレビと違って、ラジオは予算が無くても人と音のアイデアを工夫することでいくらでも勝負できる。だからこそ、どこに出しても恥ずかしくない番組を作りたいと思っています」

FM愛媛のポッドキャストで、全国・世界に向けて番組を届けていく。

■エフエム愛媛のPodcast
https://www.joeufm.co.jp/podcast/

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