米NBCU、パリオリンピックの配信でAIキャスターを起用

編集広報部
米NBCU、パリオリンピックの配信でAIキャスターを起用

北米でパリオリンピックの放送権を持つNBCユニバーサル(NBCU)が7月1日、詳細な放送計画を発表した。グループ全体で「過去最大規模」の放送を行うという。地上波のNBCは時差の関係で早朝から夕方にかけて生中継を行い、NBCと配信プラットフォームの「ピーコック」は連夜、プライムタイムに3時間を関連番組に割く。こちらは時差の関係で録画やダイジェストとなる。そのうえで、ピーコックはメダル競技全329種目と関連のイベントをライブ配信。その規模は5,000時間を超えるという。また、傘下のケーブルテレビ「USAネットワーク」は主に米国代表のチームスポーツをカバーし、NBCUの親会社コムキャストのケーブルテレビ契約者には4K・UHD画質でUSAネットワークと同時放送も行う。7月26日の開会式はNBCとピーコックの両方で生中継・配信するだけでなく、全米のIMAX映画館チェーンでもライブ上映(既報)する。

最新の技術とインタラクティブな機能を駆使し、あらゆるプラットフォームを通じて「これまでで最高のオリンピックを届けたい」(NBCスポーツのダリル・ジェファーソン上級副社長)と総力を上げる今年の米国向けオリンピック中継。ひときわ大きな話題を呼んでいるのが、ピーコックが導入するAI(人工知能)版「アル・マイケルズ」によるスポーツ解説だ。アル・マイケルズはアメフトの実況キャスターとして米国ではレジェンド的な存在。2006年から22年までNBCに在籍し、特にNFL「Sunday Night Football」の実況で全米のアメフトファンに親しまれた。現在はAmazon Prime VideoのNFL「Thursday Night Football」を担当している。1980年の冬季オリンピック・レークプラシッド大会(ニューヨーク州)でも実況を担当した。

ピーコックの今回の企画は、名づけて「Your Daily Olympic Recap on Peacock(ピーコックであなたの今日のオリピックを振り返る)」(冒頭写真はピーコックのプレスリリースから)。マイケルズのAI生成音声による10分間のハイライトだ。6月末にニューヨーク市で行われたプレス向けデモンストレーションによると、ピーコックで加入者がアプリを立ち上げると、画面右上にマイケルズの顔が現れ、AI版マイケルズが加入者の名前で語りかける。その後、AI音声で加入者の好みに応じてパーソナライズされた試合結果やイベント予告、選手のエピソードなどその日の解説をハイライトで提供するという。この新たなツールは7月27日の放送・配信分からPCのウェブブラウザ、iOS、iPadOSアプリで利用可能になるそうだ。

「最初は懐疑的だったが、同時にとても興味があった」とマイケルズは自分のキャリアをAI学習に提供することに合意したという。AI学習にはマイケルズがNBC時代に行った実況中継の音声が使われた。こうして生成されたAI版マイケルズのハイライト音声は、約700万通りにカスタマイズが可能という。ハイライトはNBCスポーツの編集者のチェックを経て配信される。

生成AI学習の材料として自身の声を提供したキャスターはマイケルズが初めてではないと言われるが、一方で、急速に進歩するAIがジャーナリズムの分野でどのように活用できるのか、あるいは第三者による学習の是非をめぐって報道機関側が神経をとがらせているだけに、その成否も注目されるところだ。

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