北米でパリオリンピックを独占中継したNBCユニバーサル(NBCU)の発表によると、視聴者数は前回2021年の東京大会から82%増え、配信視聴も記録的だった。現地からの連日にわたる生中継(米東部時間で14〜17時)と、プライムタイムの録画放送(同20〜23時)を合計した総視聴者数(Total Audience Delivery=TAD)の平均は3,060万人。東京大会の1,690万人を大きく上回った(ニールセンとAdobe Analytics調べ)。これは地上波NBCとUSAネットワークほかのケーブルチャンネル、配信プラットフォームの「ピーコック」を合わせたもの。NBCとUSAネットワークは大会開催中の2週にわたって地上波とケーブルそれぞれのプライムタイム枠で視聴者数トップの座を確保し続けた。
ピーコックでの配信時間は、大会期間中235億分(4億時間弱)。オリンピックの配信を始めた東京大会と、続く2022年冬季北京大会の2回分を合わせた168億分を40%も上回った。マルチビューや生成AIなどを駆使し、視聴者がそれぞれの興味やスケジュールにあわせて競技を選べる新機能が功を奏した。特に、今大会のために新設された「Gold Zone」の機能を使うと、時差のためライブ中継を見逃した多くの視聴者らがメダルのかかった試合をオンデマンドでほぼ全て観戦できたとして高く評価された。
さらに調査会社Antennaによると、大会期間中の7月25日から同31日、ピーコックの新規契約者数が280万人に達したという。期間中の1日平均は39万8,000人で、平常時の8週間平均と比較すると5.6倍。通常、配信サービスの新規契約が急増するのはNFL絡みがほとんどだが、今回はそれに近いインパクトがあったという。
パリ大会開催前のピーコックは契約者数3,000万程度といわれ、競合する大手配信サービスを追う立場。今もそれは変わらないが、東京大会を機にサービスを始めたピーコックが、3回目のオリンピック中継でようやく期待以上の結果を上げたことはNBCUにとって大きな成果だ。新たに獲得した契約者をいかに維持するかがこれからの課題といえよう。
この結果を出すためにNBCは相応の努力をしたとアドエージ誌は伝えている。大会中、エッフェル塔が見えるレストラン店舗を丸ごと借り上げ、そこをスタジオ中継の拠点にするなど、パリ市内中のあらゆるスポットを中継用に確保していたという(冒頭写真はパリ郊外のIBC〔国際放送センター〕地図。青丸で囲ったのがNBCのブース=編集広報部撮影)。
米国代表チームの活躍も視聴者数増加に寄与した。男子バスケットボールの米国代表チームがフランスを下し金メダルを獲得した試合は視聴者数1,950万人。1996年アトランタ大会での男子バスケ決勝戦2,580万人には及ばなかったが、それ以降で最高の視聴者数だ。体操女子とサッカー女子の試合も多くの視聴者数を集めた。
ニールセンが毎月発表している、メディア別のテレビ視聴シェア「The Gauge」の7月リポートも、「パリ大会がテレビ視聴を促した」と報告している。視聴されたコンテンツのトップ5と、トップ10のうち7つがいずれもオリンピック中継。例年、夏休みで野外活動が増える7月はテレビ視聴全体が低下する。しかも、7月はオリンピックが3日しか放送されていないにもかかわらず2.3%とわずかながら上昇した。特に、ピーコックでのパリオリンピック視聴が急増したことで配信視聴時間が33%増加。テレビ視聴全体の41.4%を占め、これまでの最高を記録した。
8月28日から9月8日まで開催されたパリパラリンピックも、NBCUが8月29日からリニアと配信で独占中継した。ピーコックでのライブ配信時間も記録的な1,500時間以上になると発表されている(8月23日現在)。オリンピックと同様、特設の「Gold Zone」で生配信だけでなく録画配信も行い、マルチビューイング機能も導入された。