NABのルジェット会長、業界向け講演で当面の課題語る

編集広報部

ラスベガスで4月13―17日に開催された米NABショーに先立つ3月28日、放送・通信業界紙のTV Techが主催する 「2024 TV Tech Summit」でNAB(全米放送事業者連盟)のカーティス・ルジェット会長がインタビュー形式で基調講演した。放送局所有規制のアップデート、次世代放送規格の普及、生成AIのローカルコミュニティへのインパクトなどで考えを述べた。

誤情報・偽情報のワクチンに

今年は大統領選挙の年ということもあり、ルジェット会長は全米のローカルテレビ局が視聴者に信頼できる正しい情報を提供することがこれまで以上に重要になっていると強調。「ソーシャルメディアにあふれる誤情報・偽情報に対してローカル局がいかにワクチンとなりうるかがカギ」とし、各局の継続的な努力が必要と述べた。ただし、旧態依然とした放送局所有規制がローカル局の足かせとなっているとも指摘し、早急な改正とアップデートが必要だと述べた。さらに、放送局がアルファベット社(Google)やMeta(Facebook)、AppleなどIT大手との競争力をつけ、公平な市場環境を整えるためにも、引き続き「ジャーナリズム競争・保護法案(Journalism Competition and Preservation Act:JCPA)」の立法化を議会に働きかけていくと話した。

なお、NABはローカルテレビ・ラジオ局に誤情報対策などのノウハウを伝授するための2024年選挙報道用のツールキットをオンラインでリリースしている。

生成AIの弊害を防ぐために

生成AIは記事の執筆など業界として利用できる部分もある半面、弊害も少なくない。ルジェット会長はAIによってローカル局の信頼度が下がることのないよう、問題を見極めながら適宜対応していくことが重要だと述べた。「AIを教育するためにローカルテレビ局のコンテンツが教材として使われている。その場合、テレビ局に相応の対価が支払われるようにしなければならない。そして、市民から信頼されるローカルテレビ局のキャスターやアンカーらがAIによって不当に再現されることがないよう、何らかの防御措置も講じる必要がある」と話した。

配信時代にローカル局に求められるもの

配信時代の今、MVPD(リニアケーブル/衛星テレビ)とvMVPD(配信経由でリニアのテレビチャンネルを提供するバンドルサービス)という手段を問わず、「重要なのは視聴者がローカル放送局にアクセスできることだ」とルジェット会長は断言。そのためには放送局も進化していなければならず、行政側も市場の変遷をしっかり見極める必要があり、NABはこれからも強く働きかけていくと話した。「この30年、マストキャリー原則の下で、MVPDとの契約を介しローカル局は大きく成長することができた。YouTube TV、Hulu TV PlusなどのvMVPDが同様のサービスを提供し始めてかれこれ10年。FCC(連邦通信委員会)はこれらvMVPDが地域住民のローカル局へのアクセスにどう影響しているかを詳細に検証し、判断を下していかなければならない」としている。

次世代放送規格ATSC 3.0とその未来

次世代テレビ放送規格のATSC 3.0が全米視聴者の80%の市場で受信可能となった現状をルジェット会長は「業界としての努力の賜物」とまずは称賛。そのうえで、「新規格への移行で本当に難しいのはこれから」と指摘。NABはこれまでの9カ月間、3つのグループで新規格移行に必要なものを話し合っているという。一つは、チューナーの普及など消費者目線でのインフラ整備。次に4K映像、イマーシブ(没入型)オーディオ、インタラクティビティ、ターゲット広告機能など真の意味での新規格の導入を完遂する必要があること。「放送局側と視聴者側の双方にとって有益なものでなくてはならない」とルジェット会長。そして三つ目は、ATSC 3.0への移行が完了した後に見直しが必要な規制の有無を検証している。

このほか、ルジェット会長はローカル各局が抱える人材確保や育成のため、採用キャンペーン「You Belong Here」を新たに始めたことを紹介。さらに多様な人材を受け入れ、その能力を発揮させるためのダイバーシティ&インクルージョン教育に関する人事担当幹部向けのフォーラムや、女性や有色人種の幹部職員へのMBAスタイルの研修などにも力を入れているという。このルジェット会長の基調講演を含め、TV Tech Summitの様子は専用サイト からオンデマンド視聴が可能だ(ただし、登録が必要)。

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