Netflixが減速、CNN+は1カ月で打ち切り ストリーミングが飽和状態に?~「21世紀メディアはどこへ向かう?」 ⑥

津山 恵子
Netflixが減速、CNN+は1カ月で打ち切り ストリーミングが飽和状態に?~「21世紀メディアはどこへ向かう?」 ⑥

写真:CNN+のFacebookから


1980年6月に創業者テッド・ターナーがCNNを開局した時以来の最も重要な事業」――。その重大事業であるサブスクリプション・ビデオ・オンデマンド(SVOD)「CNN+」は3月29日(現地時間)に始まった。しかし、わずか1カ月後の4月30日に終了することになった。

CNNは、24時間ケーブルニュース局のパイオニア。だが、この20年あまりは、保守系ケーブルニュース局FOX News ChannelFNC、1996年開局)とリベラル系のMSNBC96年開局)に、視聴者数で水をあけられている。さらに、若い人を中心にケーブルテレビ(CATV)を解約する「コードカッティング」が進んでいる。そのため、若い視聴者にリーチするために、CNN+を立ち上げる計画が浮上していた。

CNN+の料金は、月額6ドル、1年で60ドル。オリジナル番組がCMなしで視聴でき、毎日、生のニュース番組が8本配信される。さらに、ベストセラー『the four GAFA 4騎士が創り変えた世界』を著したニューヨーク大学スターン経営大学院教授スコット・ギャロウェイによるインタビュー番組のほか、アンダーセン・クーパー、クリスチャン・アマンプーアなど看板アンカー陣のオリジナル番組が日替わりで登場する。

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<番組一覧 CNN+公式Twitterから>

新会社の中で浮いた存在に

一方で、CNNの経営体制にも大きな変化が起きていた。CNNの親会社であるワーナーメディアをメディア大手ディスカバリーが合併し、今年4月8日、新会社「Warner Bros. Discovery」が誕生した。同時にCNNグローバルの会長兼最高経営責任者(CEO)に、メディア大手バイアコムCBSからクリス・リヒトが5月2日に就任予定だった(公式に5月2日に就任)。

ところが経済ニュース専門局CNBCによると、リヒトは4月21日、CNN+の従業員約400人とCNN従業員に対し、CNN+を4月30日に終了すると伝えた。CNBCが従業員の話として伝えた終了の理由は以下の3つだ。

・ディスカバリーとワーナーメディア幹部は、合併前に事業計画を話し合うことができなかった。ディスカバリー幹部は、CNN+の先行きに懸念を示していた。

・ワーナーメディア幹部は、CNN+会員が1年で200万人になると見込んでいた。しかし、初期の会員数が弱ぶくみだった。

・Warner Bros. Discoveryの新CEOとなったデビッド・ザスラフは、単独サービスではなく、バンドリング(関連する複数のサービスを組み合わせて提供する)などに集中するストリーミング戦略の構想を持っていた。

ザスラフのバンドリングの考えを補足すると、ワーナーメディアはCNNのほか、人気ドラマ局「HBO」を保有。ストリーミングサービスは「HBO Max」が人気だ。一方ディスカバリーは、「ディスカバリー・チャンネル」、「アニマル・プラネット」、「フード・ネットワーク」、「トラベル・チャンネル」などのケーブル局を運営。さらに、米国では2021年からストリーミングサービスの「Discovery+」を開始している。つまり、今回の合併で、巨大なケーブルネットワークテレビ企業が誕生し、ストリーミングで「HBO Max」「Discovery+」という成功したサービスがすでにあった。その中で、CNN+が単独で始まった。

前述したCNN+終了の理由を見ると、会員の伸び悩みに加え、合併した新会社が目指すシナジー効果の中で浮いた存在になっていたことが分かる。

激しい競争にさらされるNetflix

CNN+終了の発表は奇しくも、「Netflixショック」のわずか2日後だった。Netflixは4月19日、会員数が10年以上ぶりに20万人減少したと発表した。第1四半期(13月)決算の発表で、4ー6月期には会員がさらに200万人減るという見通しも示した。同社の株価は翌20日に35%暴落、過去1年以内に一時は700ドルを超えた優良株が現在、170ドル台で取引されている。

米国・英国での料金の値上げやロシアからの撤退、パスワードの共有対策など、Netflixは最近、複数の問題を抱えていた。軌道修正に苦しんでいることが決算内容からわかり、著名投資家らが一斉に同社株を売ったのだ。加えて、CNN+終了となり、ストリーミング全体の成長が「飽和状態」に陥ったという懸念が広がっている。

しかし今、OTTが飽和状態と断じていいかはまだ疑問の余地がある。巨人Netflixは、10年以上トップを走り、激しい競争にさらされていた。追い上げているのは、「アマゾン・プライム」「YouTubeTV」「hulu」「Disney+」「HBO Max」「Discovery+」 などだ。

ディスカバリーと合併したワーナーメディアの親会社AT&Tは4月21日、第1四半期決算で、SVODの「HBO Max」の会員と有料ケーブルチャンネル「HBO」の契約者が世界で、前年同期より1,280万人増えて7,680万人になったと発表した。米国内では、440万人増の4,860万人。「HBO Max」の急成長が貢献し、サブスクリプション収入は前年同期比4.4%増の40億ドルにも達している。

Netflixは、会員が世界で2億2,000万人超とダントツだが、20万人減少。一方で「HBO Max」などは四半期に300万人増加したことになる。「Discovery+」も4月26日、会員数は伸びており、2,400万人を達成したと発表した。

もちろん、ロシアによるウクライナ侵攻や激しいインフレなどで景気が減速する可能性はある。その際、家計から削られるのはストリーミングなど娯楽費であることは簡単に想像がつく。

しかし、米国では、ビデオや番組を見るために、ストリーミングより割高なCATVや衛星放送に視聴者が戻ってくることはないだろう。

ニュース番組をストリーミングに入れた成功例

メディア大手NBC ユニバーサルの報道部門、NBCユニバーサル・ニューズ・グループの例を見てみよう。同グループは、ネットワークテレビ局NBCのニュース・報道番組、ケーブルニュース局「MSNBC」、経済専門ケーブルニュース局「CNBC」を運営している。NBCユニバーサルは2020年以降、ストリーミングの「Peacock」、「NBC News Now」を開始。ニューズ・グループはそこに、NBCの看板報道番組「ミート・ザ・プレス」や、ミレニアル世代を対象にした新番組を投入している。メディア大手で唯一、ニュース番組をストリーミングに入れて成功している。

NBCユニバーサル・ニューズ・グループ会長のシーザー・コンデは4月5日、政治ニュースサイト「Axios」の会議でストリーミングへの期待をこう語った。

「ストリーミングは、エンターテインメントの観点から、視聴者の層や新しい技術を開拓し、テレビ業界に変化を促した。今や、ニュース部門もその流れに乗れることが分かった。NBC News Nowでは、(ケーブルニュース局のように)生のニュースに常に接することができる。視聴者の世代もリニアより若いのが特徴だ」

同グループの場合、NBCのニュース番組とMSNBCCNBCのシナジー効果は大きい。例えばMSNBCを見ていると、ウクライナの戦場やワシントンのホワイトハウスから、NBCのベテラン記者が実況中継をし、安定感がある。ストリーミングにも同様に、3つの局の経営資源を投入することができる。さらにAxiosは、同グループがストリーミングのニュース番組のために昨年、200人超の従業員を加えたと報じている。

その後を追ったのがCNN+だったが、あえなく終了となった。CNBCによると、CNN+の幹部は、ニュースサイトでは世界で最も読まれており、利益を出し続けているCNN.com(月間ユニークビジター約2億人)を組み合わせ、今年9月には人気の「HBO Max」を加えていく計画だった。

Axiosが入手した資料によると、会員は1年後に200万人、2025年には1,500万人超を目指し営業損失をゼロにして、26年には2億ドルの営業利益を上げる見込みだった。CNN.comや「HBO Max」のバンドルに加え、米国外でのCNNのブランド価値を予測に加えていた。しかし、CNN内部でも「ニュースだけのストリーミングに金を出す視聴者がいるのだろうか」という声が上がっていたという。

CNN+の従業員は一時解雇か、CNNで再雇用されることになる。

Netflixは、広告を入れて安い月額利用料金にするサービスの導入を考えている。「HBO Max」が、広告なしで14.99ドル、広告ありで9.99ドルという2つのサービスがあり、成功しているためだ。

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<米国におけるテレビ視聴の割合 Netflix決算資料から>

Netflixが四半期決算の株主レターに入れた資料によると、米国におけるテレビ視聴時間のうちストリーミングが占める割合は、2021年5月の26%から今年2月には28.6%に増加した。Netflixのシェアも0.4ポイント増の6.4%となっている。「HBO Max」「Discovery+」「Peacock」などが入る「そのほかのSVOD」も1.5%上昇して9.5%と一番伸びている。

今後、ストリーミングの業界地図は、Netflixの不振で少しずつ塗り変わっていくだろう。「HBO Max」と「Discovery+」が今後、バンドル化されることも視野に入ってきた。ストリーミングでビデオや番組を見るという視聴方法が、テレビ視聴時間の中で増えていく傾向は変わりはないだろう。

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<ニューヨークのレストランにあるテレビ画面(筆者撮影)。
Rokuから複数のSVODに入るようになっていて、
客が希望した番組をそこから探している。>

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