メディアがAI(人工知能)とどう向き合い、どう利用するのか――欧米の主要メディア各社がAIの利用に関する考え方を続々と表明し始めている。しかし、立場はそれぞれ。米アドウィーク誌 が8月10日付で報じたところによると、米大手のニューヨーク・タイムズ紙(NYT)がこのほどサービス利用規約に「AI対策」を盛り込み、AIの開発企業がNYTの記事・写真を許可なくAI学習用に活用することを禁じる条項を加えたという。NYTはその前段階として、対話型の生成AI「ChatGPT」を手がけるOpenAIがNYTのコンテンツを無断利用しているとして、告訴する構えを示していた。
一方、米AP通信はこれに先立つ7月、OpenAIとの技術提携を発表。ニュース報道における生成AI利用に向けて共同研究を進めるほか、AP記事の一部をOpenAIの学習材料として提供するなど、NYTとは真逆の方針を打ち出している。
大手報道機関のこうした動きを受け、米オンラインメディアAxios が8月22日付で、その他のメディア企業のAI方針を次のように紹介している。
▷英ザ・ガーディアン紙=6月、「生成AIは存在するというだけで、信頼性に欠ける」と断言。「ニュース報道におけるAI導入は、それを利用することによる明確なベネフィットが示され、かつ人間の監視の下で、編集責任者の許可が降りた場合に限り、利用することとする」と表明している。
▷米オンラインメディア「インサイダー」=今年初め、「生成AIを試験的に利用することはあるが、ChatGPTはジャーナリストではない」として、報道内容のオリジナリティや公正・正確さには各社が責任を持つべきだという姿勢を示した。
▷ロイター通信=最新テクノロジーの導入には柔軟な姿勢を残しつつ、記事の信頼性と責任性を重視することを、AI導入の原理であるとしている。
▷ニューズ・コーポレーション=直近の収支報告で投資家らに対し、「AIの未来に向けて重要な役割を果たすべく、すでに働きかけを始めている」といった内容を報告している(後述)。
このように、AIとの向き合いに関して各社の方針は一枚岩ではない。こうしたなか、ニーマン・ラボ(Nieman Journalism Lab/ジャーナリズム研究を手がけるハーバード大学内ニーマン財団の一機関)は第三者の立場で、各社の考え方を比較しながらメディアへの「AIガイドライン」作成のためのガイドライン を発表するなどしている。
また、ウォール・ストリート・ジャーナルを傘下に持つニューズ・コーポレーションなどが中心となって、メディア企業による連合体を結成しようとの動きもある。AIの学習目的におけるコンテンツ利用に課金する枠組みを構築しようというのが目標だ。しかし、今回の件で新聞最大手のNYTは参加しない方針を固めたとも伝えられている。
NYTは8月24日付で「米政府はこれまで車やラジオ・テレビ(といった新技術)を(さまざまな面から)規制しているが、AIはいつになったら規制するのか?」との見出しで、政府に迅速な対応を促す記事を掲載している。 米国を代表する新聞社のこれらの動きとともに、AIと報道活動に関する議論の高まりが注目される。