NYTがOpenAIとMSを提訴 AI学習への記事無断利用で FOXは独自のブロックチェーンで対抗

編集広報部

AI(人工知能)が情報を"学習"する際に利用されるメディアコンテンツの著作権をめぐって、いま米国で企業間の訴訟や交渉が繰り広げられている。

ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は2023年末、対話型の生成AI「ChatGPT」を手がけるOpenAIと、同社に出資するマイクロソフト(MS)を著作権侵害で訴えた。両社がNYTの公開記事を許可なくAIの学習に使用したと主張し、数十億ドル(数千億円)単位の損害賠償を求めている。NYTはかねてOpenAIへの法的措置をほのめかしてきた。一方、両社は協議を続けていたとも伝えられており、「寝耳に水」との声もある。メディア大手によるAI関連の著作権訴訟は初めてとあって、言語モデルのAI学習におけるニュースコンテンツの価値が法的にどう定義されるのかが注目される。

これに対してOpenAIは1月に公式ブログで声明を発表。「訴訟で引用された事例はデータを意図的に操作したもの」と反撃。あわせて、「AIモデルの記事学習はフェアユースの範囲内」と従来の主張を繰り返すとともに、NYTとは対話を続けたいとの意向を示している。

AI学習へのコンテンツ提供についてメディア業界で対応はさまざま。ドイツ系メディアのAlex SpringerやAP通信のように、学習に利用されたコンテンツへの対価交渉を進める企業もある。渦中のOpenAIも現在、CNN、FOX、Time誌とコンテンツ利用のライセンス契約で交渉中と伝えられている。さらに、AI開発を進めるAppleは米出版社コンディナストやNBCニュースなどに延べ5,000万ドルの長期ライセンス契約料を提示したとも報じられている。

こうした訴訟や交渉の動きを受け、1月に入って全米放送事業者連盟(NAB)のカーティス・ルジェット会長が米連邦議会の公聴会に出席。「放送局のニュースコンテンツを無断でAI学習に利用することは視聴者の放送業界への信頼を失墜させ、ローカルニュースへの投資効果を低減する」と訴えた。コンディナストほかメディア企業の経営陣も1月10日、米連邦議会にメディアコンテンツのAI利用への対価支払いを義務づける法案を迅速に通過させるよう要請している。

こうしたなか、独自の動きをみせているのがFOXコーポレーションで、自社で開発したブロックチェーンソース・プロトコル「Verify」を1月初旬に公開した。メディア各社が保有する膨大な知的財産(IP)がネット上でどれだけ利用されているかを追跡し、AI開発企業とのコンテンツ・ライセンスの交渉に役立てるという。メディア企業は「Verify」にコンテンツを登録することで、その配信元だと証明することができるとのこと。他社にもこのプロトコルの導入を働きかけ、いずれはVerifyをネット上の全メディアコンテンツのAI対策ツールにしたいとの野望があるようだ。ライバル他社が企業間合意や訴訟で解決を図るなか、テクノロジーを駆使したFOXのアプローチも注目される。

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