第2回は「民放のエリアと収入の関係」です。前回は民放のエリア別人口には、べき乗則に従う大きな格差があることをお話ししました。放送エリア別の人口格差は、ミクロに見ればさまざまな要因が働いていますが、ごく大きくマクロで見れば自然の摂理にしたがっているとも言えます。
では、民放局の収入はどうやって決まっているのでしょうか? 民放の収入の大部分は現在でも広告収入です。(子会社・関連会社を除外して)放送局単体の収入で見れば、東阪名広域局で約80%程度、ローカルでは90%超が広告収入です。広告以外の収入には、放送事業では著作権使用料、番組販売収入など、非放送事業ではイベントや物販、不動産収入などがあります。キー局では映画やネット配信などもありますね。広告収入は、「どのくらいの人に広告が届くのか」をもとにその金額が決まります。ですから、放送エリア内の人口によって決まる部分が大きくなると考えられます。エリアの経済規模を示す県民総生産も広告収入と深く関係していますが、人口の方が総収入、タイム、スポットともに若干ですが相関が高いので、ここでは、もっぱら人口に着目して見ていくことにします。
なお、今回もテレビのエリアに基づいて、エリアとテレビの収入の関係を見ていきます。実はラジオのエリアと収入の関係はテレビよりもかなり複雑で、テレビ以上にわからないことが多いのです。ですが機会があれば、ラジオについてもチャレンジしてみます。
エリア別のスポット収入もべき乗則
図表2-1は、人口同様、まずはテレビの放送対象エリアをエリア内の全テレビ局のスポット収入合計の順位で並べたものです。(え? 人口ではエリア名があったのになんでこっちはないんだ! というギモンですか? 人口は国の統計で誰にでも公開されていますが、収入は会員社からもらった民放連オリジナルのデータですので、ランキング形式で全部表示するのはご容赦を......サラリーマンですので......)
<図表2-1. エリア別スポット出稿額(テレビ、2019年度)>
なぜスポットなのか? タイムのうち、ネットワークタイム収入の配分に当たっては、当該局のエリア人口・経済力、人口構成、視聴率などの要因が加味されるようですが、それ以外の歴史的、ネットワーク政策的な定性要因も加味されることがあるようです。また、ローカルタイム収入は自社制作番組の量と種類などに大きく影響されます。従って、純粋にエリア自体が稼ぐ力を見るにはスポット収入が最も適していると思います。ちなみに、テレビ社について、3大広域圏社を除く系列ローカル局の合計で見た場合、非放送事業収入も含む総収入合計のちょうど半分程度がスポット収入です(なお、提示したスポット収入は人口同様、コロナ禍前の2019年度のものです。その3年前、16年度のデータでも同様の分析を行いましたが、傾向は全く同じでした)。
図表2-1を見ると、勘の良い方はお気づきのとおり(しつこい!)、前回見た人口のランキングと同じく、見事なベキ分布に従っています。念のため、近似するべき乗の数式も表示しました。
図表2-2は人口同様、3大広域圏を除外して4位(スポットでは福岡)以下のエリアを並べたものです。これも人口同様、3エリアを外すだけで縦軸のスケールがちょうど10分の1になりました。エリア当たりの平均は99億5千万円ですが、当然、平均は意味を持ちませんので中央値を見ると約69億円(沖縄)です。なお、31位、32位で急に減っているのは、地元の(=県内で免許を受けた)地上波民放テレビが1局しかない1局地区であるためと考えられます。
<図表2-2. 3大広域圏を除いたエリア別スポット出稿額(同)>
人口1人当たりのスポットでもこんなに違う!
では、スポット収入と人口の関係ではどうでしょうか? 図表2-3は、図表2-1のエリア別スポット収入をエリアの人口で割って1人当たりにしてみたものです。もし、スポット収入がもっぱら人口だけで決まるのなら、1人当たりならほぼ同じ水準になるはずです。ところが、1人当たりでも結構な違いがあります。最も多いエリア(関東広域圏)と最も少ないエリア(1局地区)では3.7倍の違いがあります。さすがに関東広域圏との比較は......ということで2位のエリア(福岡)との比較でも3.1倍です。ただ、1局地区は周辺県の多くの局の電波が入り込む特殊な条件下にありますので、2番目に少ないエリア(4局地区)と関東の対比では2.2倍の違い、福岡とでは1.9倍です。ちなみに1人当たりスポット出稿額が多いエリアで福岡に続く3位は、32エリアで人口が最も少ない高知、以下、100万人都市を抱える広島、宮城と続きます。
<図表2-3. 1人当たり年間エリア別スポット出稿額(同)>
これをもっとわかりやすく可視化したのが、図表2-4です。3大広域圏を入れると、ローカルエリアがグラフ上で見えなくなることと、関東広域圏は影響力が大きい"外れ値"なので、含めてプロットすると傾向線の傾きがかなり変化することから、北海道、福岡以下のローカルエリアだけプロットしました。赤の直線で示した傾向線(平均的な水準)からの乖離が比較的大きな地区だけ地区名を表示しました(該当地区の方、お許しください......)。スポットに関しては、福岡はローカルエリアでは抜きんでたエリアであることがわかります。エリアの出稿額は、人口がほぼ同規模の北海道の1.5倍を超えています(なお、同年度のタイムでは1.2倍弱の違いです)。他に平均的な水準を比較的大きく上回っているのは広島と宮城、逆に比較的大きく下回っているのは静岡と長野です。
<図表2-4. 3大広域圏を除いた人口とエリア別スポット出稿額の関係(同)>
単純ではないエリアとスポットの関係
この違いはどこからくるのでしょうか? スポットなので視聴率でしょうか? いいえ。視聴率の違いではありません。意外に思われるかも知れませんが、エリア別の年間平均視聴率と人口の影響を排除したスポット収入水準の間にはほとんど関係がみられないのです。同一エリア内での競合局間の視聴率の差異は局ごとのスポット収入配分に明らかに大きな影響を与えますが、エリア全体の広告投下量とエリア全体の視聴率の関係は薄いのです。エリア単位の視聴率がエリア投下量を決めるのなら、関東の1人当たりスポット出稿額は、全国で少なくとも断トツのトップにはならないはずですよね。では個々の局の営業努力はどうでしょうか? これは影響がありそうですが、定量的には分析できません(すみません......)。
私たち(民放連研究所)の分析では、(人口や県民所得の影響を排除した)エリア単位のスポット出稿額に影響を与える要因として、①エリア内の人口集中度、②エリア内の若年層、特にF1層の比率、③周辺地域からのストロー効果、が浮かび上がっています。①はエリア内の自治体のHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス:集中度を示す指数)や県庁所在地などを中心とする特定の3自治体程度への人口集中度との関係です。集中度が高いほど1人当たりスポット出稿額が多い傾向が見られます。②は人口構成上、F1層の比率が大きければ1人当たりのスポット出稿額は多くなります。③はここでは、ブロック内の中核都市が周辺エリアの需要を吸い上げる現象を指しています。
ただし、①、②とも統計上は有意ですが、比較的緩やかな相関です。一方③は、計量的な検証はできていないのですが、有力な要因だと考えています。例えば、福岡の1人当たりスポット水準の高さは、福岡市への高い人口の集中度、他のローカル地区より高いF1層の比率をもっても説明しきれません。宮城や広島(特に宮城ですが)も福岡ほどではありませんが同様の傾向です。これら100万人都市を抱える大規模エリアは、ブロックの中核として周辺エリアのスポット需要を吸い上げている可能性が考えられます。(ただし、特に福岡と広島については、他に思い浮かぶ要因もあります。そう、プロ野球です。ホークスとカープの存在がスポットにもプラスに働いているのでしょうか? これの検証は難しいですが......)
逆に、人口に比べてスポット出稿額が少ない静岡や長野については、両エリアともエリア内は一極集中ではなく、それほど規模に差がなく、地理的にもやや離れた(特に長野が当てはまりますが)複数の都市圏が存在していることに加え、関東あるいは中京などにスポット需要の一部が吸い上げられている可能性が考えられます。北海道については、広いエリアへの人口の偏在、隣接する他のエリアがないことなどがマイナスに寄与しているのかもしれませんが、札幌という200万人に迫る道内では圧倒的な中心都市があることを考えればこれだけでは弱い気がします。気候やエリアの産業構造が大きく影響している可能性が考えられます。
スポットも西高東低?
いずれにしても、スポット出稿額水準のエリアによる違いにはまだまだわからないことが多くあります。ここでお示しした分析も仮説の域を全く出ないものです。さらに広い分野のデータを集めて、もっと精緻な分析を行う必要があると考えています。
最後にひとつだけ、さらに不確かな仮説を提示してこの回を終えることにします。大まかに言って、人口当たりのあるいは県民所得当たりのテレビスポット出稿額の水準は西日本の方が東日本(関東と宮城は例外)よりも高い傾向が見受けられます。この原因を解明すれば何か役に立つ示唆が得られるような気もしています。
さて次回は、少し間が空きますが、「なぜテレビを持たないのか?」と題して、最近増えているとされるテレビを持たない人(世帯)について、その背景を調査結果をもとに見てみようと思います(もういいよ! とは言わないでくださいね......)。