7月14日から15日にかけてドイツ西部で発生した大洪水の災害報道をめぐり、公共放送の「自治体頼みの報道姿勢」に批判が集まっている。
人的被害が集中したのはラインラント=プファルツ州アールヴァイラー郡で、14日深夜にライン川の支流が氾濫し130人以上が逃げ遅れて死亡。ドイツ気象庁は数日前から大洪水の危険性を自治体などに通達し、災害当日の夕方には警戒レベルを上げていたが、自治体のリスク評価が甘く、避難勧告が出たのは同日の23時30分だった。地元の公共放送SWRは、川の水位が危険なレベルに達していたにもかかわらず、報道態勢を強化しなかった。夜の定時ニュースでは被災地から短く中継を入れたのみで、放送エリアを流れる川の具体的な水かさ情報はなく、日中に取材した消防隊の活動や川の様子をうかがう市民の映像を繰り返し放送。スタジオのキャスターも、視聴者に向けて具体的な注意喚起や防災準備の呼び掛けを行わなかった。これらにより事態の深刻さが住民に伝わらず、避難勧告が洪水が発生した深夜に出されたことに加え、サイレンが水害で故障したため、住民が危険に気付かず逃げ遅れたとされている。
地元の検察当局は8月4日、リスク評価を誤った自治体の担当局に対して業務上過失致死傷の疑いで捜査を始めた。SWRは、何らかの理由で地元の緊急対策チームから夜の警告レベルの引き上げや緊急宣言の連絡を受けなかったと説明しているが、国の防災アプリで同じ情報が数回発信されており、事態を把握する方法はほかにもあったと考えられる。
さらに、隣接するノルトライン=ヴェストファーレン州の地域公共放送WDRも批判されている。家屋への大きな被害が出た同州ヴッパータールで、民間放送のヴッパータールラジオが番組を何度も中断して洪水情報を報道し続けたのと対照的に、WDRラジオは編成を変えずに特番を放送。被害が広がる深夜には局舎が浸水被害に遭い、停波した。WDRは自治体からの警報発信が遅かったと釈明し、情報更新は適宜行なっていたと主張したが、一部の非を認めている。一方、SWRからは自局の対応に関する弁明のコメント等は出されていない。