活気が戻りつつあるMIPCOM 2023②~ビジネスの変化、商談にも影響

稲木 せつ子
活気が戻りつつあるMIPCOM 2023②~ビジネスの変化、商談にも影響

世界最大級のコンテンツ見本市「MIPCOM2023」(仏カンヌで10月16―19日開催)は、久々に世界各地域からの参加者(約1万1,000人)で賑わった。地域別の特徴としては、欧米に次いで参加者が多かったのがアジア¹で、2度目の名誉国(カントリー・オブ・オナー)となった中国や韓国に加え、インド、台湾、シンガポールなどがそれぞれパビリオン²を設け、同地域発のコンテンツを積極的に売り込んだ。このほか、目立ったのは中東からの参加者増(合計で約220人)で、同地域からのバイヤー数は前年から5割増しの160人となった。イベント全体としても、バイヤーの数(3,500人)は前年に比べて1割ほど増えたという(写真㊤=アジアからの参加の多さは一目瞭然/© S. d'HALLOY / IMAGE&CO)。

活気を取り戻した現地では、近年のビジネス環境に対応した商取引の動きがより鮮明になってきた。国際見本市は、番組(フォーマットを含む)の販売から、いまやコンテンツを共同で開発し、制作するための商談の場へと移り変わってきている。前編 に続く後編では、取引内容がレベルアップしている現地での日本勢のがんばりと、コンテンツのトレンドを紹介する。

世界のコンテンツ市場への投資はほぼ横ばい

前編で、大手メディア会社のビジネス戦略トレンドが自社SVOD向け「コンテンツ囲い込み」から第三者へのライセンス販売を含めたコンテンツの「リーチの最大化」に変化していると紹介した。今回の見本市はこのトレンドが強く反映されたもので、現地の活況ぶりはライセンスビジネスの「ルネサンス」に起因するところが大きい。

大勢でMIPCOMに臨んだ日本勢にとって、見本市の活況をはじめ中東や中南米、アフリカからの参加増で、潜在的な取引市場(地域)が拡大したことは歓迎すべき進展だ。だが、コンテンツの売り込みが容易になったということではない。むしろ競争は激しくなっている。というのも、世界的に動画市場への投資は横ばいとなっているからだ。

3日目のイベントに登壇した英調査会社Omdiaのウェストコット上級主席アナリストによると7,000億㌦規模に達したグローバル動画市場で、無料・有料放送や動画配信事業者が2023年に投資した番組制作支出総額は前年から1%増の1,640億㌦だった³。このうち番組買い付けのための投資額は前年比で1%減(696億㌦)にとどまっている。実のところ投資額は横ばいでも、高インフレで制作コストが大幅に膨れ上がっており、ディズニーやワーナー・ブラザース・ディスカバリーは番組制作費を含むコスト削減を進めている(=実質的な制作予算縮小)という。

また、放送向けの広告投資がこれまでになく落ち込んでいるほか、欧州では大手公共放送の受信料が減額ないしは実質凍結状態にあり、コンテンツ買い付けをする局側の番組委託要件や買付要件がこれまでよりも厳しくなっていると話している。

さらに、Netflixなどの大手SVODを意識したハイエンド番組では、制作コストの不足分をプロデューサーや配給会社が独自で補填するようになってきており、ウェストコット氏は「独立映画の制作状況に近い形で番組が作られていること」が新たなトレンドだと付け加えた。共同制作においても、より複雑な共同出資(ファイナンス)が求められており、今回の参加者データをみると、銀行や自らの職務を「ファイナンスまたは投資担当」とする放送局やメディア会社からの参加者が250人ほどいた。

MIPCOMの参加者の成果は、番組のライセンスやフォーマット販売の販売実績のみならず、国際的な共同制作や共同出資の枠組みにどう参加できるのかが問われるようになっている。この変化に日本勢がどう対応していくのか――ここにチャレンジの機会がある。

アジアの注目株は中国・韓国・インド

日本の動きを報告する前に、気になるアジア勢の動きをまとめて報告したい。というのも、23年のグローバル番組制作投資額の半数あまりを占める北米に次いで存在感をみせているのがアジア・オセアニア地域(23%)で、欧州勢(15%)をしのいでいたからだ。データを紹介した前出のウェスコット氏は、アジアからの投資の大部分を中国が占めていると述べ、日本以外にもコンテンツ輸出大国の韓国やインドが大きなプレーヤーとなっていると解説した。

確かに中国はMIPCOM2023の名誉国になったこともあり、見本市での露出は高く、同国を代表するIT・ネットサービス企業「テンセント」の基調講演には大勢が詰めかけた。同社のオンライン事業を束ねる孫中淮CEOが紹介したドラマシリーズ『三体』や、AI技術を駆使して作られたアニメーションのクオリティは高く、国際的な聴衆に対してここ5―6年で中国の「映像表現力」が大きく進化したことを印象づけた。

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<中国語で基調講演したテンセントの孫中淮CEO/© S. d'HALLOY / IMAGE&CO>

一方、欧米主導の世界観に対抗する中国政府への意向を反映してか、人気歴史ドラマやアニメは中国の古典をベースにしたファンタジーものがほとんどで東洋色が強い。これらがグローバル市場でどこまでアピールできるのかは未知数だ。世界的なベストセラーとなったSF小説の実写ドラマ『三体』⁴は中国で大ヒットし、「ストーリーが面白くない」とされてきた中国コンテンツのイメージを刷新する可能性がある。ただし、ニューヨーク・タイムズ紙の批評は「脚本とキャストは月並み」で、戦闘シーンも今ひとつという手厳しいものだった。
とはいえ、中国とハリウッドとの共同制作⁵によるNetflix版『Three Body Problem(三体)』の今年3月からの全世界リリースを控えており、これが成功すればドラマの国際共同制作に中国が関わる機会は増えそうだ。

アジアのなかで最もコンテンツ販売実績がある韓国は同国のコンテンツを紹介するセッションを設けたが、最もインパクトがあったのは初日に公開されたフランスの調査会社メディアメトリのコンテンツ輸出トレンド分析ではないだろうか。英語以外の輸出ランキングで韓国はトルコに次ぐ2位と、フランスをしのいだ。さらに、NetflixなどのグローバルSVODへのオリジナル作品の提供シェアでは、韓国が米国に次いで2位となったようで、わざわざ新作2作が動画付きで紹介されている。

商談の環境も韓国は年々アップグレードされている。中国ほどではないが、政府主導の手厚い支援がある韓国は、海が見える屋外テラス付きの広々としたスぺースに過去最大規模のパビリオンを設営。韓国コンテンツ振興院(KOCCA)の仕切りのもと68の制作会社が出展した。12月26日のKOCCAの発表によると、「4日間で合計750件の輸出相談と4億6,834万㌦の輸出相談額を達成した」という。前年の2.5倍とのことだ。今回の特徴は同国の制作を支える中小規模の制作会社13社が参加した点だ。KOCCAは早くから国内の制作会社のレベルアップに力を入れているが、今回は、MOU(了解覚書)の締結支援をKOCCAが手助けするなど、1つ下のレベルにある会社の底上げを図っている。また、参加社の半数がアニメ制作会社で、ドラマや番組フォーマットの成功に続く成果を目指しているようだ。

前年から国を挙げてプレゼンに力を入れているインドも今後の注目株だ。インドは23年に中国を抜き人口が世界一となった。英語が公用語の1つで、北米、英国などに移民が多い同国のコンテンツは、インド国内の配信ビジネスブームも受けてボリウッド映画以外の良作ドラマが多く生まれている。アジア系の配給会社のベテランによると、東欧、バルト三国などで人気が高まっているとのこと。かつて、韓国ドラマもこの地域から欧州進出を始めていた経緯を考えると、インドの動きは興味深い。見本市のインド関連のセッションの1つは、同国との国際的な共同制作の促進に焦点があてられていた。

また、公用語だけでも20言語を超えるインドでは、ダビングや字幕のローカライズ技術が進んでいる。映画制作会社から多国語の動画配信サービスに事業拡大した「ウルトラメディア」(Ultra Media & Entertainment)は海外でインドのコンテンツを求めるプラットフォーム向けにローカライズや画質調整のプリ・ポストプロダクションサービスも始めたという。IT大国のインドらしい「パッケージ提案」で、バイヤー側のハードルは下がりそうだ。

あの手この手で海外進出を仕掛けるアジア勢だが、そのなかの1つとなる日本も近年最多の参加者数でイベントに臨んだ。特に、春のMIPTVに社長自らが制作担当のトップを連れて現地入りした朝日放送グループは、今回はホールディングスから海外ビジネス担当の役員・西出将之氏が参加。朝日放送テレビからは井口毅コンテンツプロデュース局長をはじめとする制作現場のプロデューサーなど「作り手」が見本市に参加した。同局は"MIPCOM BUYERS' AWARD for Japanese Drama"にも出品し、見本市初日に開催された受賞イベントで海外のバイヤーとも交流を深めている。これまでと異なる点は、海外販売を意識し、通常の数倍となる予算をかけて制作した作品を披露できたことだったそうだ。局のIP(知的財産)作りを意識し、オリジナルドラマ作品を蓄積しつつあり、見本市で渾身の作品をバイヤーに見せながら、手応えを探っているとのことだ。「作り手」を参加させた理由は、世界で流通されている動画コンテンツの最前線に直接触れてもらうことと、これまでリモート会議をしていた商談相手と直接会うことで、人間関係を深めていくことだという。日本の放送局と共同で何かしたいというアプローチは増えており、日本とのパートナーシップを求める声は強まっているという。

共同制作の経験を深める~フジテレビ

イベント初日の午前中に日本との共同制作をテーマにしたセッションに登壇したのは、フジテレビのビジネス推進局コンテンツビジネスセンターで同局発のIPコンテンツ作りを担う加藤裕将ゼネラルプロデューサーだった。ほぼ満席の会場で、日本では他国とは異なる撮影ルールがあることなどを紹介しながら、日本と共同制作する場合は国内の撮影ノウハウを持つ放送局などに頼るのが良いとアピール。また、フジテレビだけでなく、日本の放送局の多くが海外進出に熱心になっており、国際的なパートナーシップを模索していると語った。

そのうえで、同局初となる米制作会社との共同プロジェクトを紹介。パートナーは世界的なヒット『ウォーキング・デッド』を生み出したスカイバウンド・エンターテインメントで、同社がIPを持つ人気コミックシリーズ『ハート・アタック 』⁶の舞台を日本にしたバージョンを共同で実写ドラマ化し、24年内にシリーズを完成させるということだった。

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<日本との共同制作のこつを語るフジテレビの加藤裕将氏(中央)/セッションのVODから> 

加藤氏は、「共同制作」といっても最終的にはどちらかが制作することになり、以前、同局が出資側に回ったドイツとの共同制作では遠慮があったと振り返る。撮影開始前に双方の考えをしっかり打ち合わせることが重要で、共同制作のパートナーとして日本の放送でヒットする要件(日本の人気タレントの起用など)をもっと主張すべきだったと回想した。同氏によると「今回は米国側に出資してもらい、フジテレビが日本でドラマシリーズを制作 」し、スカイバウンド側はコンテンツのグローバル配給で貢献することになっている。「前とは逆の立場で国際大手との共同制作の経験を深めたい」と話していた。登壇後に話を聞いたところ、日本での脚本化にあたって週1回のウェブ会議以外にメールで相当の注文が来るそうだ。日本のテレビドラマ制作事情とは異なる経験や、大ヒット作の作り手との直接的なやりとりは大きな刺激になっているという。特に番組販売の成否が決まる第1話の完成度に徹底的にこだわるスカイバウンドのアプローチは大変参考になるとのことだった。

グローバル事業に必要なら海外拠点も~TBS

別の角度からアプローチを進めるのは、前出の"MIPCOM BUYERS' AWARD for Japanese Drama"でグランプリを受賞したTBSのグループだ。「放送事業も行うメディア会社」を目指す同局は、海外も舞台にした大型ドラマ『VIVANT』で海外バイヤーから高い評価を受けた。また、系列の独立コンテンツ制作部門「THE SEVEN」がSVOD向けのコンテンツを制作できるハイエンドスタジオを緑山に建設する(23年12月完成)など、他局に先駆けてグローバルビジネスを重視する方針を打ち出している。

TBSホールディングスでも組織改革が行われ、放送を含めたグループ内事業全体で国際戦略を考える司令塔としてグローバルビジネス局が23年7月に新設されている。このトップに就任した太田裕之局長がMIPCOMにも初参加し、対面で海外のビジネスパートナーにTBSグループの新体制を説明しながら、ビジネス拡大へのヒントを得ようとしていた。同氏は、放送にこだわらずマルチプラットフォームで展開できるIPを創造していきたいとし、ゲームや教育事業などグループ内のビジネスとの連携にも関心を持っているという。

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<グランプリの盾を手にするTBS HDの太田裕之氏(中央)/© P. HAIDAR / 360 MEDIA>

ちょうどMIPCOMの初日、IOC(国際オリンピック委員会)が同局のグローバルヒット『SASUKE(Ninja Warriors)』を基にした障害物レースを28年のロス五輪の正式種目(近代五種⁸の1つ)にすることを正式決定。同氏は、IOCからライセンス料が入るわけではないが、『SASUKE』の認知度がさらに高まることを歓迎していた。すでに英国ではテーマパークも作られており、このIP(知的財産権)が今後どこまで広がるのか楽しみだ。同氏は、より深い人脈作りと情報収集のために海外拠点を作る可能性を示唆。そのうえで、必要と考えればM&Aを通じて事業拡大をする覚悟(投資資金)もあると話していた。

TBSはMIPCOMで同局の制作技術力をアピールする努力もここ数年重ねており、今回は完成間近となった新スタジオの説明会を行ったほか、ソニーによる制作技術のトレンドを取り扱うセッション「CONTENT CREATION SUMMIT」で、『SASUKE』をメタバースで楽しむVRゲーム体験のデモやバーチャル制作の事例報告も行った。

さまざまな挑戦をしているTBSだが、これまでドラマに関しては海外向けの大きな成功事例がなかった。世界的ヒットとなった日本のドラマシリーズ『今際の国のアリス』(Netflix)をプロデュースした森井輝氏をTHE SEVENのCCO(チーフコンテンツオフィサー)に迎え、これからの展開⁹が期待される。

プラットフォームの拡大で求められるのは
"発見されやすい"コンテンツ

さて、番組フォーマットのトレンドだが、視聴ニーズが根強いデート番組でAI(人工知能)を使った番組が話題を呼んでいた。『Are They For Real?』は、参加者が選ぶお相手候補の中にAIで作られたディープフェイクが紛れ込んでいるというもので、最後に選んだ相手が実は人間でなかったという結末もありうるとか。同様に、フェイクか本物かわからない自称起業家の売り込みを聞いて、偽者を見抜くゲームショー『Snake Oil』も評判で、「フェイク」だと見破れるかどうかを問う番組がトレンドになっているようだ。

直近のヒット作をまねた作品も多く作られており、世界26カ国に展開されているBBCの『The Traitors』 に倣った番組フォーマットが多く生まれている。殺人ミステリーの謎解き『Suspects on the Set』(日本テレビ)や、賞金をめぐってより狡猾な人間のバトルが展開される『House of Villains(悪党たちの家)』などが注目されていた。

実のところ、MIPCOMのトレンド番組紹介で繰り返されたキーワードは「リブート」、つまり「前のバージョンを立ち上げ直したもの」だった。数年前にヒットして、まだ視聴者の記憶に残っているIP(フォーマットやキャラクターの知的財産)のスピンオフや焼き直しが世界各地で作られているという。前年もその傾向があったが、今回はヒットIPへの依存が強まっていると言える。

この背景には、番組予算が削減される一方で制作コストが高騰しているという厳しい経営状況がある。固定ファンが存在する作品をリバイバルさせれば番組開発費を減らせる。ほかにリブート作品が好まれる理由として、視聴者の目に止まりやすいというメリットがある。このリポートの前編でFASTの台頭やYouTubeのチャンネル増加がコンテンツの供給過多を招き、自分のコンテンツをどう見つけてもらうかという、いわゆる「ディスカバリー」で誰もが大きな課題を抱えていることを伝えた。過去にヒットした番組やキャラクターを使った作品は、すでに一定のブランド力を持っていることから視聴者にもイメージが湧きやすいのである。

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<人気IPのスピンオフを紹介するK7メディアのデビッド・チャラメッラ氏
/セッションのVODから>

工夫のしどころは新鮮味をどう加えるか。MIPCOMで紹介されたのは『The Golden Bachelor』など視聴ターゲットをシニア層に絞ったものや、ゲーム番組の舞台をビーチに変えた『Deal or No Deal Island』など。ちなみに、これらはいずれもFASTプラットフォームでシングルIPチャンネルになっている人気番組だ。安直といえなくもないが、それほど放送局や制作会社はディスカバリー問題に苦労しているということではないだろうか。

ドラマもすでにファンがいるIPが好まれる傾向がある。世界の番組を調査し、MIPCOMで毎回トレンドを紹介しているウィット社の代表ヴァージニア・ムスラー氏によれば、話題作はリアルなものか、架空の世界かに二極化している。過去1年で小説をもとに作られたドラマは全体の12%、漫画は2.8%、そして映画のドラマ化は2.6%あり、いずれも前年よりも若干増えているそうだ。また、実際にあった出来事のドラマ化は全体の7.1%と小説に次ぐ人気で、とりわけTrue Crime=実際に起こった犯罪のドラマ化は昨年比で39%も増えているという。1つのジャンルになりつつあるTrue Crimeには固定のファンがいるうえに、脚本化しやすくIP作りにも適しているのではないかと思われる。

日本勢で唯一のアウォード受賞~日本テレビ

今回、MIPCOM期間中に日本から最も話題作りを仕掛けたのは日本テレビだった。初日から連日プレスリリースを出し、『3年A組(Home room)』と『マザー』および『ウーマン』のフォーマット販売¹⁰を発表したほか、BBCスタジオと共同でゲーム番組フォーマット『KOSOKOSO』を開発し、フォーマット販売でもパートナーシップを組むことをPRした。

また、FRAPA(Format Recognition and Protection Association/オランダに拠点を置く、テレビの番組フォーマットを知的財産として法的に保護することを目的とした団体)によるセッション「FRAPA FORMATS SUMMIT」でも、メディア調査会社K7 Mediaのトレンド紹介のなかで、前述した日本テレビのフォーマット『Suspects on the Set』が取り上げられるなど、見本市全体を取材した印象としても、日本勢のなかで同局の露出が一番多かった。

ハイライトは、英国最大手の業界誌TBIが主催する、革新的な番組やプラットフォームを対象にしたアウォード「Content Innovation Awards」での受賞だ。日本テレビのドラマ『ブラッシュアップライフ』が非英語の新作ドラマシリーズ部門で最優秀賞(Best New Scripted Series Non-English Language)を受賞。MIPCOMでは、NHKの『作りたい女と食べたい女』が「Diversify TV Awards」のLGBTQ+部門にノミネートされていたものの、惜しくも受賞を逃したため、『ブラッシュアップライフ』が日本勢で唯一¹⁰ の受賞となった。また、カナダの仏語圏ドラマアワード(Prix Gémeaux)で最優秀賞(連ドラ部門)を受賞した『Indéfendable』やドラマシリーズのフェスティバル「カンヌシリーズ2023」のノミネート作品『Childhood Dreams(子供の頃の夢)』(オランダ)など、欧米の大手制作会社が制作や配給を手がける力作が並ぶなかでの快挙だった。

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<受賞の喜びを語る日本テレビの西山美樹子氏/© Megret - Hautier / Image & Co>

実は、同局の西山美樹子グローバルビジネス局担当局次長は「Content Innovation Award」の審査員を務めていたが、審査を担当したのはフォーマットやリアリティ番組が中心だったため、発表直前まで「『ブラッシュアップライフ』の受賞はないと思っていた」とのこと。とはいえ、同局の23年イチ押しコンテンツで、早くからしっかりした番組紹介ビデオ(トレーラー)を制作して売り込みをかけており、アジア圏ではいくつかの賞を受賞している。このなかにはベストトレーラー賞も含まれており、MIPCOMにおいてもその効果がみられた。"MIPCOM BUYERS' AWARD for Japanese Drama"においても同作品のトレーラーが一際目立ち、イベントに来ていたバイヤーの反応がすこぶる良かったからだ。イベント後、日本テレビのブースにもかなりの問い合わせがあったそうだ。

どの局も字幕をつけた番組予告をトレーラーに流用することが定石だったが、西山氏は「見てもらうための動画と買ってもらうための動画は違う」と言う。制作現場は、放送を見てもらうことしか想定していないので、作り分けることが大切だと強調していた。同局は10年以上前から制作現場の若手を見本市に参加させているが、今回は「海外の作品(トレーラー)は画力(えぢから)が強い」という感想が出たという。コンテンツを販売するためには何が求められるのか――。これは番組販売に関わる人間だけでなく、作り手にも意識してもらう必要がある視点だろう。
『ブラッシュアップライフ』は12月からNetflixで全話配信されているが、欧州では今のところ配信されていない。今回のアウォード受賞をきっかけに、オリジナル作品としての販売をアジア以外の地域でも期待したい。


*¹  イベント参加データは、主催者RXフランス発表のもの。参加者数では、上位を北米や欧州主要国が占めるなか、韓国は国別ランキングでトルコ、スペインに次ぐ8位と、アジアから最も参加者が多い国となった。
*²  アジア以外からも、カナダやスペイン、トルコ、ブラジル、イランなど31カ国がパビリオン出展。
*³  1,640億ドルの内訳は、オリジナル番組への支出が940億ドル、番組の買い付けが696億ドル。
*⁴  日本でもWOWOWがテンセントの『三体』を23年10月に放送、全話配信も行った。
*⁵  Netflixは英語版制作のために小説の映像化権をもつYOOZOOグループと別契約を結び『ゲーム・オブ・スローンズ』のクリエイターであるデヴィッド・ベニオフらが共同制作者となっている。
*⁶ 『ハート・アタック』はパンデミック後の世界が舞台のSF作品で、異なる背景を持つ若い男女2人の出
会い、不条理な世界の中で自由を求める戦いなどを通じて育まれる愛情を描いている。
*⁷ フジテレビは10月26日、『ハート・アタック』の制作をフジテレビとROBOT(Netflixオリジナルシリーズ『今際の国のアリス』の製作会社)が担当すると発表。
*⁸ 「近代五種」は水泳、フェンシング、馬術、レーザーラン(射撃とランニング)の5種目で争う競技。このうち馬術については競技環境整備の問題や安全面が課題となっていたことから、IOCは23年10月の総会で『Ninja Warrior』を基に考案された障害物レースを馬術に代わる新しい種目として採用することを正式承認した。
*⁹ すでに、森井輝氏(THE SEVEN)がNetflixと共同制作した『幽遊白書』が配信開始直後にNetflix上で非英語コンテンツのグローバル1位に達するなどの成果が出ているが、欧米主要国では第3週目にはトップ10から外れてしまった。THE SEVENがプロデュースすることになる『今際の国のアリス』のシリーズ3の奮闘が期待されるところだ。
*¹⁰ 『マザー』と『ウーマン』の取引は、同作品のトルコ版をアラビア語にリメイクするためのライセンス販売。
*¹¹ 新作ドラマ部門で最優秀賞を受賞した『ザ・スウォーム』は国際コンソーシアム方式の制作で、Hulu Japanが受賞者の中に名を連ねている。

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