ロシアの動画配信サービス ウクライナ侵攻でダブルパンチ コンテンツと収益の両面から

編集広報部

ウクライナ侵攻が与えるロシアの市民生活への影響は、当初予想されたよりも少ないとも伝えられているが、長期化を受けて同国の動画配信サービスでは、人気のアメリカ製コンテンツがなくなる、広告収入減などの「皺寄せ」がきている。

3月、ディズニーなどアメリカの大手映画会社(いわゆるハリウッド・スタジオ)が、ロシア市場への新作供給をとりやめた際、同国の動画配信業界は、自分たちへの影響は少ないと事態を静観していた。配信事業で扱うコンテンツは、すでに"上映が終わった作品"となるためだ。また、米スタジオ側も、すでに供給契約を締結している古いコンテンツについては、契約を早期解消することなくロシアでの配信を認めていた。むしろ、Netflixなどの海外SVODが撤退した後に、ロシアの事業者がその穴を埋め、市場シェアを増やすだろうと言われていた。実際にロシアの事業者は今年上半期で利用シェアを増やし、収益もわずかながら増やしている。

だが、8月に入ってロシアの大手日刊紙「コメルサント」が、同国最大の動画配信サービス「キノポイスク(Kinopoisk)」のラインアップから、『ロード・オブ・ザ・リング』『インターステラー』『マスク』などの人気アメリカ映画や、米ドラマシリーズ『フレンズ』が消えたと報じた。

キノポイスクの広報は、「ワーナーブラザーズやディズニーのコンテンツなどにアクセスできなくなっている」ことを認め、コンテンツが消えた理由は「契約更新が困難なため」と説明したという。他の動画配信サービスでも同類の問題があるようで、国内3番手の「ウィンク(Wink)」は、より明確に「契約期間満了後に、契約更新が行われないシナリオも否定できない」と打ち明けている。

これは、ロシアへのコンテンツ供給を控えているアメリカとだけでなく、対ロ制裁を実施する欧州や日本など、「非友好的な国」のメディアとの取引でも起こっている。5月27日、石油やガスの支払いをルーブルで決済するよう求めたロシアの大統領令(3月発令)の対象品目が大幅に拡大されたためだ。

新たな大統領令によると、「ライセンス契約、サブライセンス契約、権利管理権限の移譲に関する契約および権利保持者に独占的権利が帰属する知的活動の成果物」等をロシアの債務者が利用することによる報酬の支払い(ライセンス料)も、決済を実行する口座である「O型特別ルーブル口座」を通じて行うと定められている。欧米企業にしてみれば、突然ロシアの銀行口座にルーブルで支払われても対応できないうえ、為替が安定していないことなどからも、契約更新が事実上不可能となっているようだ。

現地の大手配信サービスは、消え去ったコンテンツは手持ちのライブラリーのごく一部で、大きな影響はないとしている。しかし、今後、視聴できなくなる人気コンテンツが増えれば、海賊版サイトに利用者が流れ、合法的な動画市場は縮小すると危ぶまれている。すでに、2016年から21年の過去5年間で9倍に急成長したロシアの動画配信市場は、侵攻開始以降、減速している。上半期決算の比較で、昨年31%の成長を遂げた総収入が、今年は259億ルーブル(約602.3億円)と、前年同期より増えたものの、伸び率はわずか5%だった(露、テレコムデイリー調べ)。

AVOD市場においては、すでに総収入が前年よりも下回っている。これは欧米企業の撤退で広告需要が極端に減ったことが要因となっている。ロシアの大手広告会社・グループ4メディアは、今年の広告市場は38%縮小すると予測している。配信最大手のキノポイスクなど、ロシアではSVODAVODのハイブリッドサービスを提供する事業者が多くあり、コンテンツと収益の両面から影響を受けている。

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