"フェイクな時代"  正確な情報をどうつかみ、読み解いていくか ~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」⑨

塚田 祐之
"フェイクな時代"  正確な情報をどうつかみ、読み解いていくか ~塚田祐之の「続・メディアウォッチ」⑨

今年もあと1カ月あまり。2022年は長く歴史に刻み込まれる年になるに違いない。2月、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。"プーチンの戦争"と言われるように権威主義的国家のトップが仕掛けた他国への侵攻を、世界は止められないままだ。すでに9カ月近くがたつが事態打開に向けた動きが見えない中で、戦況はさらに泥沼化。市民を含む犠牲者がいまも増え続けている。影響は世界中に広がり、エネルギー、食料、物流......と物価の高騰が続いている。

新型コロナウイルスが確認されてからも3年近くがたつ。これまで何度も感染拡大の山を繰り返し、いままた"第8波"が懸念され、インフルエンザとの同時流行の恐れも警告されている。先行きが見えない"不透明な時代"が続くと、人々に不安が募る。こうした時に、噂や事実に基づかない誤った情報、不安をあおるようなデマや悪意ある情報など、人々を惑わし社会的に害のある"フェイク情報"が急速に拡散しやすい。災害発生時も同様だ。

インターネットを通じてSNSやユーチューブなどの動画サイトから、いつでも誰でもどこからでも、個人が自由に発信できる時代だ。膨大な情報の中には有益なものもあるが、真偽が不明な間違った情報も数多く流れている。事実に基づく正確な情報をどうつかみ、読み解き、伝えていくか。メディアはもとより、いま一人ひとりに求められている課題だ。

"プーチンの戦争"とフェイク情報

赤色で大きく「×印」が書かれたツイッター画像。スロベニア政府の公式ツイッター(@govSlovenia)が、ロシア外務省の投稿をリツイートし"誤り"と指摘した画像だ。

ロシア外務省は先月、「ウクライナが放射性物質をまき散らす"汚い爆弾(ダーティボム)"を製造している」として、その"根拠"として複数の画像をツイートした。この画像について、スロベニア政府は「2010年にスロベニアの放射性廃棄物を管理する政府機関で撮影された、一般的な用途で使われる煙感知器だ」と反論している。

ロシアはウクライナが汚い爆弾を使おうとしていると繰り返し主張。一方で、ウクライナは否定し、米国などが「戦争拡大の口実だ」と非難している中で、インターネットを通じたロシアの新たな情報戦が始まっている。

ロシアのウクライナ侵攻は、これまでの戦争報道を一変させた。現場映像の主役は、テレビ取材から市民が投稿する多数のSNS動画へと代わった。それだけに事細かに各地の悲惨な戦闘の実態や被害の状況を知ることができ、人々の暮らしのいまが伝えられている。

しかし、膨大な映像の中には市民に紛れて意図的な情報や画像が流されている。戦況を有利にしようと事実ではない映像も投稿されており、ウクライナのゼレンスキー大統領が投降を呼びかけるAI(人工知能)を使った"精巧な偽動画"まで現れた。

だれが何の目的で発信しているのか。ロシアの厳しい情報統制と活発なプロパガンダが続く中、正確な情報を見定め、事実を見極めるのは難しい作業だ。真相に迫るメディアの"プロの目"が問われ続けている。

新型コロナウイルス 
「新規感染者数」は、何のための情報か?

未知のウイルス、新型コロナの感染拡大が始まった2020年春。「こまめに水を飲むと予防効果がある」をはじめ根拠のない間違った情報や、憶測や意図的なデマによるフェイク情報が、SNSを中心にインターネット上で大量に流れた。

自分や家族がかからないためには、どうしたら良いか。人々は情報が正しいかどうかを確認する余裕もなく、「早く不安を解消したい」という思いに駆られ、自分が安心できそうな情報をネットで探し求め続けたのではないか。新型コロナに関してはこれまでに、事実に基づく正確な情報とともに、膨大なフェイク情報も流通している。

同時に、誤解されやすい情報もある。経験して初めて実感としてわかったことだ。新型コロナウイルスの感染拡大の"第7波"がピークにさしかかった7月末、私はPCR検査で「陽性」と判定された。きっかけは、少人数での会食だ。同席していた1人から2日後に「熱が出て検査を受けたらコロナに感染していた」というメールが届いた。私は特に体調の変化はなかったが、念のために東京都が無料で実施していた駅前PCR検査を受けたところ、その日の深夜にメールが届き「陽性」とわかった。

その頃から、急に熱が上がり始めたため、東京都の発熱相談センターに電話をかけ、徒歩で行ける病院2カ所を紹介してもらった。翌朝、すぐに電話を入れたが、いずれもすでに予約でいっぱい。今日も、明日も診察は難しいという返事だった。しかたがなく、家に籠って過ごすことにしたが、39度の熱と、のどの激痛に3日半見舞われ、長い不安な時間が続いた。

テレビでは連日午後4時45分、各局が競って「きょうの東京都の新規感染者数」をニュース速報で伝えていたが、私のように医師の診断が受けられない者は、この数には含まれない。東京都が税金を使って実施しているPCR検査で「陽性」と判定されたにもかかわらず、この情報は全く生かされないままだった。

同時に、医療機関の業務のひっ迫により、感染者の「全数把握見直しの議論」も始まっていたが、私のような場合は当然対象外だ。しかし、こうした状況に置かれた人々の数は少なくないと思われる。

テレビで1分1秒を争って速報する「新規感染者数」の細かな数字にどれほどの意味があるのか、との疑問を実感として抱かざるを得なかった。大事なのは、全体の感染状況の傾向をいち早くつかみ、具体的な対策に生かすことではないのか。

国や自治体のコロナ対策には、場当たり的なものが目立つ。3年近くが経過するいま、コロナ対策の全体を検証し、建前ではなく実態に即した有効な対策に集中すべき時期ではないか。そうでなければ、人々の不安が置き去りとなり、フェイク情報が流れやすい土壌が変わらない。

ネットとテレビ・新聞
メディアの信頼度は?

若い世代はインターネットが中心で、新聞やテレビを利用しなくなったといわれるが、「メディアの信頼度」は新聞やテレビが高く、ネットの2倍。これは、総務省情報通信政策研究所が8月に公表した「令和3年度 情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」の結果だ。平日に新聞を読む10代は1.1%20代は2.6%。ここまできたかと驚きをもって受け止めた。テレビは10代が56.7%20代が51.9%。一方でネットは10代が91.5%20代が96.5%と、ほとんどの人が利用している。

こうした利用状況だが、「メディアの信頼度」を聞くと、10代はテレビが70.2%、新聞が66.0%、一方ネットは31.2%20代は新聞が49.3%、テレビが46.0%、ネットは25.6%。利用率は低下しているものの、テレビ、新聞の信頼度は依然として高くネットの約2倍あることがわかった。この傾向は、10年間の調査を見てもほとんど変わっていない。全世代でみても、新聞が62.8%、テレビが60.3%、ネットが28.2%と、日本では6割を超える人々が新聞、テレビのマスメディアを信頼している。

一方でアメリカでは、マスメディアの信頼度が1976年の72%から、2021年には36%へと半減している。しかも支持政党別に見ると、バイデン大統領の民主党支持者は68%の信頼度があるが、トランプ前大統領の共和党支持者は11%にまで低下している(ギャラップ社調査)。この数字からも、アメリカ社会の"分断"の深さがうかがい知れる。

正確な情報をどうつかみ、読み解いていくか

インターネットを活用しながら、どうしたら事実に基づく正確な情報をつかむことができるのか。3つのポイントがあると思う。

一つは、必ず情報源を確認することだ。放送や新聞など、マスメディアの取材に基づく情報なのか。国や自治体、国際機関等の公的な情報なのか。企業や団体による発信なのか。それとも個人が発信したものなのか。誰がその情報に責任をもっているかを知ったうえで、情報を受け止めることが大切だ。

二点目は、同じような情報ばかりでなく、必ず違う情報や意見、考え方を確認することだ。ネット検索はビジネスモデル上、利用者が好みそうな情報を優先的に表示する。そのため、最初のいくつかの項目だけを読んで自分の考え方が正しいと思いこみがちだ。世の中にはさまざまな意見があることを忘れず、自分とは違う考え方を知り、冷静に考えることが大切だ。

三点目は、自分の尺度(スケール)を作ってみることも有効だ。デジタル化の影響もあると思うが、「はい」か「いいえ」の2分法で、「一つの答え」を素早く求める風潮が社会全体に広がっている。しかし、日本の世論の多くは「どちらとも言えない」が民意全体のバランスをとっていることが多い。自分の意見が世の中全体の意見の中でどのあたりにあるのか、スケールを作って、俯瞰してみることも大切だ。

その際、事実に基づいて真偽を見極める軸に、報道機関が提供する情報が有用だと思う。そのためには、放送、新聞メディアは、事実に基づく正確な情報を伝え続け、視聴者、聴取者、読者の「なぜ?」にきちんと答える、より深い取材・報道が不可欠だ。人々の信頼に応え続ける責任がある。

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