番組の「法律監修」という仕事の意義と役割  実際の仕事内容を可視化してみた~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」⑤

國松 崇
番組の「法律監修」という仕事の意義と役割  実際の仕事内容を可視化してみた~「『現場で活かせる』法律講座シリーズ」⑤

1.はじめに...
「法律監修」という仕事があるのを知っていますか?

筆者は一般的な弁護士業の傍ら、しばしばドラマや映画などの「法律監修」を依頼されることがある。コンテンツの「法律監修」という仕事に関しては、これといって明確な定義もなく、また経験者などによって具体的な内容が明かされることも少ない。そこで、今後番組(コンテンツ)づくりを進めるうえで多少なりとも参考になることを期して、今回はこの「法律監修」という仕事の意義と役割について、少し詳しく紹介していきたい。

2.「法律監修」とは?...期待される役割

筆者のこれまでの経験などを踏まえて簡単にまとめると、「作品の中に出てくる法律が絡むさまざまな表現(※テロップ、セリフ、演技、小道具、ストーリー、など多岐にわたる)」が、実際の法律や法曹実務に適合しているかどうかをチェックする、というのが基本となる。一般的な疑問点に白黒をつけることで終わることもあれば、さらにそこから派生して、「では、こうしたらどうだろうか?」というように、自らセリフやストーリーラインに関わるアイデアを提供することが求められることもある。そのあたりはプロデューサーやディレクターの好みや采配によるところも大きいが、いずれにしても、弁護士としての知識や実務経験を活かして、作品の完成度をより高めるためのお手伝いをするのが「法律監修」というポジションの大きな役割となる(※具体的な仕事内容は後掲4を参照)。

3.法律監修の意義...
なぜ「法律監修」が必要なのか?

報道色の強いドキュメンタリー作品や、現実の事象を取り上げる情報系のバラエティ作品に関していえば、当然、視聴者に提供する情報に法律的な誤りがあってはならない。取材手法に違法な点はないか、伝えようとしている事実に客観的に裏付けはあるのか、ネガティブな情報を扱う場合の当事者への「当たり」は済ませているのか、といったことを丁寧にチェックし、ときには足りない部分を補強するようにアドバイスするのが中心的な仕事だ。こうした点に関する重大な見落としは、現実社会における法的リスクに直結するため、これらのジャンルに関する法律監修の役割は、どちらかといえば、コンプライアンスや考査部門に近くなる。ゆえに、その必要性についてもイメージがしやすい。

一方で、ドラマや映画などのフィクション作品においては、劇中に法律に適合しないシーンがあったところで、現実に法律違反が問われることはない。極端なことをいえば、「何をやってもいい」世界のはずである。そうであればなぜ法律監修が必要なのか、というと、その理由は一言でいえば「作品のリアリティを高める」点にあるといえる。分かりやすく簡単な一例を挙げて説明してみよう。

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このような警察の捜査は、日本の法律では完全に違法であるが、物語の結末だけみれば、結局本物の犯人が捕まったという点をもって、円満なエンディングだと言えなくもない。しかし、仮にこの脚本案で制作を進めた場合、果たして視聴者はどのような感想を持つだろうか。「いくら何でも、そんな無茶苦茶なことやっていいの?」ということが気になって(引っかかって)、視聴者はストーリーに集中できないのでは? あまりに現実感がなさすぎてハラハラしない(冷めてしまう)のでは? という疑問が浮かぶ人も多いだろう。この例でもう少し説明を加えると、刑事訴訟の世界には、「違法捜査で得た証拠は裁判で使用できないというルール(違法収集証拠排除法則)」があるため、この脚本案の盗撮・盗聴のデータ、あるいはこれを基に得られた自供などは、実際には裁判において証拠として使用することが許されない。そうすると、この事件では結局証拠が足りず、刑事裁判で有罪にできない可能性が出てくるわけだが、少しでもこのような知識がある人が作品をみると、「ぜんぜん円満に解決してないよ! 裁判はどうするつもりなの??」、「こんな違法捜査が明るみになったら大問題になるよ!」となってしまうということである。

そこで、このようなケースで法律監修の役割としては、そのような制度の存在やストーリーラインへの影響を制作サイドに共有しつつ、例えば、以下のようなアドバイスをすることが考えられる。

國松弁護士連載⑤ 図表2.jpg

このようにしてさまざまなアプローチを試み、「作品のリアリティを少しでも高める」ことで、視聴者の違和感を極力軽減し、より安心してストーリーに没入してもらう環境を整える――それがフィクション作品における法律監修の主たる役割であると筆者は考えている(単に「違法捜査です」と指摘して終わるのでは、あまり意味がないと考えている)。もっとも、あまり忠実に法律や実務を反映させてしまうと、残念ながら作品のエンターテインメント的要素は削られてしまう結果になりかねない。あくまでも視聴者の違和感を取り除き、フィクションの物語を際立たせることが目的であって、その範囲でのリアリティが求められているということ、そして、最終的な判断は作品に責任を持つ制作サイドに委ねるべき事柄であるということも理解しておくべきだろう。その意味では、制作現場のニーズにより適合した仕事をするためには、リアリティとエンターテインメントがきちんと両立するポイントを見極めるセンス――「ほどよい"バランス"感覚」を備えることも重要だろうと思われる。

4.具体的な法律監修の仕事のイメージ

主に筆者の経験から、主にドラマや映画などのフィクション作品に関する法律監修の仕事内容を整理してみると以下のようになる。すべての作品において、このような一気通貫的な依頼があるわけではなく、これらの一部分だけピンポイントで監修してほしいというオーダーもある。

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5.終わりに...
テレビ局が作る作品に求められる信頼性

以上が、筆者がこれまでの経験をもとに可視化した「法律監修」という仕事の役割や内容である。昨今は専門家によるSNS等による情報発信や、検索ツールの充実などの影響もあり、かつてに比べて、視聴者の目も肥えてきている。そのため、法律監修に限らず、さまざまな領域にわたって監修を付ける作品が増加傾向にあるといってよい。また、作品のジャンルについても、ドラマや映画といった主にフィクションで構成されるエンターテインメント作品だけでなく、冒頭述べたとおり、ドキュメンタリーや情報系バラエティ番組の監修依頼もかなり増えてきた印象がある。それは一重に、「テレビ局が作る番組に対する視聴者の信頼を守りたい」という制作陣の思いの表れだといえるのかも知れない。YouTubeを筆頭に、SNSなど情報メディアが多様化した現代社会のなかで、テレビ局が引き続き確かな情報発信のツールとして信頼性を保っていくうえで、今後もこうした傾向は強まっていくものと思われる。

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