【2021年民放連賞審査講評(特別表彰部門:青少年向け番組)】さまざまな困難を乗り越え、ともに希望を見いだす

加藤 理
【2021年民放連賞審査講評(特別表彰部門:青少年向け番組)】さまざまな困難を乗り越え、ともに希望を見いだす

8月23日中央審査【参加/17社=17本】
審査委員長=加藤 理(文教大学教授)
審査員=井上祐紀(児童精神科医、福島県立矢吹病院副院長)、やすみりえ (川柳作家)、山田洋子(日本PTA全国協議会副会長)


コロナ禍の中で、多くの青少年はさまざまなことを我慢し、多くのことを諦め、かけがえのない日々をこの状況と必死に折り合いをつけながら生活している。また、障害や性的マイノリティの問題、将来への不安などと向き合いながら懸命に生きている青少年も多い。今年応募された青少年向け番組の数々は、そうした苦悩に寄り添い、ともに希望を見いだしていこうとする内容のものが多かった。

最優秀=福井放送/FBCスペシャル 拝啓 連也様 ~マスク越しの闘病20年~(=写真) 難病を抱えて育つ子どもに寄り添い、10年間の取材を続けた渾身のドキュメンタリー。難病との闘いのなかで感染予防の生活を続けてきた菴連也(いほりれんや)さんの目に映るさまざまなことから、コロナ禍を生きる私たちに大切なことを気づかせてくれるだけでなく、連也さんの重みのある言葉から勇気を与えられる番組。連也さんへのディレクターの思いと愛情が画面を通して伝わり、両者の間に長年構築された信頼関係も、見ている私たちに人間と関わることの基本と大切なことを教えてくれる。コロナ禍の今だからこそ、連也さんを通して多くの視聴者に伝えたい、伝えられることがあるはずだ、という制作者の熱意と思いにも感銘を受ける。ディレクターの東海佳奈子さんによるナレーションも、連也さんに語りかけるような愛情と、落ち着きと温かみを感じさせてくれて聞いていてとても心地よい。作品の内容とともに、長年にわたる取材を結実させて渾身の作品を制作した制作者の姿勢も評価して最優秀賞とした。

優秀=テレビ金沢/となりのテレ金ちゃん 壁の学校 総集編 「壁の学校」が示すとおり、金沢の色壁に憧れて職人を目指す若者の姿を追いかけたドキュメンタリー。夢を追いかけるなかで味わう挫折や苦悩とどのように向き合い乗り越えていくのか。多くの青少年がぶつかるであろう「壁」との格闘を描いている。壁にぶつかっている青少年の励みになる力を持つ番組として、高く評価された。

優秀=関西テレビ放送/ザ・ドキュメント 学校の正解 ~コロナに揺れた教師の夏~ コロナ禍は子どもたちだけでなく、子どもを支援していく教師たちにも多くの困難を与えている。子どもたちを感染リスクから守りつつ学習の機会をどのように保障していくのか、そして学校とは何か、教師とはどのような存在なのか。そうした問いを抱えながら奮闘する教師たちの苦悩が丁寧に描かれている。この状況で自分たちを守ろうとする教師たちの苦悩を知ることは、他者の思いを知り、その状況を他者の目線で考えられるようになるきっかけを子どもたちに与えてくれる。ただし、放送時間帯が深夜であったことは残念だ。青少年、特に小中学生が視聴しやすい時間帯での放送を望みたい。

優秀=山口放送/KRYさわやかモーニングスペシャル 僕をみつけた ~水で描く未来~ 発達障害と診断された主人公の堀川玄太さんを通して、自分を見つけることの大切さや、認め合って支えあって生きていくことの大切さ、そして豊かさが描かれている。障害の有無でその人と向き合うのではなく、どんな人をも一人の人間として向き合うことの大切さも教えてくれる。コロナ禍の中で挫折しながらも創作活動を続けようとする姿は、この状況で苦しむ多くの視聴者に勇気を与えてくれる。

優秀=南海放送/書道ガールズ 証 ~蟻高書道部2020夏~ コロナ禍の中で学校行事やイベントが中止または延期を余儀なくされ、やろうとしていたことを断念せざるを得なかった高校生たちの苦悩に寄り添いながら描くことで、彼らの思いがストレートに伝わってくるドキュメンタリーとなっている。このような状況で諦めと絶望を抱きながら高校時代を過ごさざるを得ない多くの高校生たちが、自己を投影しながら視聴し、勇気と感動と強い共感を得られる作品になっている。番組の構成や編集も素晴らしく、ドキュメンタリー作品としての完成度も高く評価された。

受賞にはいたらなかったものの、科学番組や幼児向け番組が民放各局で長期にわたって放送されてきたことへも高い評価がなされた。採算面では厳しい幼児向け番組や、視聴者の関心を引くことに工夫が必要な科学番組を放送し続けることは、多くの困難を伴うと思われるが、放送の使命、民放の良心としてこれからも放送を続けていただきたい。また、深夜帯から青少年が視聴しやすい時間帯に移動した番組もあった。青少年の存在を意識しながら、さまざまな困難を乗り越えて番組を届けようとする各局の姿勢にあらためて敬意を表したい。


各部門の審査結果およびグランプリ候補番組はこちらから。

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