サガテレビ『どぶろっくの一物』 地方から全国へ~配信全盛期で感じたローカル番組の可能性

末次 達也
サガテレビ『どぶろっくの一物』 地方から全国へ~配信全盛期で感じたローカル番組の可能性

ダメ元の企画書が通った!

『どぶろっくの一物(いちもつ)』
信じられないかもしれませんが、サガテレビで毎週土曜日の夕方に放送している番組タイトルです。
時はさかのぼり、2022年1月――。

【企画書タイトル】 どぶろっくの地元!佐賀県で冠番組『どぶろっくの一物』

NGって言われるだろうな......」
ダメって言われたら書き直そう。正直、ダメ元です。全7ページの企画書を持って、上司のところへ行きました。企画書に目を通す数分間が、ロケの合間に突然発生する1時間休憩のように長く感じました。そして、読んだ上司が一言。
「面白いじゃん」
私はこの人に一生ついていこうと思いました。

数日後、企画書は局長会へ。私には想像できないほどのさまざまな苦労を乗り越えて、出世した方々が集まる会議。果たして、リスクしかない番組タイトルの企画書を受け入れてくれるのでしょうか。もし私が局長だったら、保身に走るので絶対にNGと答えます。 そして会議後、上司が一言。
「企画書通ったよ」
私はサガテレビという会社にほれてしまいました。

ここまでが『どぶろっくの一物』が生まれた当時の話です。本当は、このような番組タイトルを通すための苦労話を書いて、各局の皆さんの参考になればと思っていたのですが、当社の社風もあり、そこまでの苦労もなく実現することができました。本当に感謝しております。

配信に埋もれず、目立つ番組に

ここからは、制作フローの話になります。まず、なぜ挑戦的なタイトルをつけたのか。理由は、単純明快です。
「目立ちたかったから」
Netflix、Amazon Prime Video等の配信全盛期、ローカル局が制作する自社制作番組はすぐに埋もれると容易に想像できました。そして、攻めなければならないし、それは必然だと考えていました。

番組企画のフローとしましては、
 1.地元佐賀県出身のタレントで番組を作りたい
  → 個人的に大好きだった佐賀県基山町出身「どぶろっく」さんの起用
 2.どぶろっくさんといえば何?
  →「大きなイチモツをください」(『キングオブコント2019』優勝時のネタ)
  → 掛け合わせて『どぶろっくのイチモツ』
 3.変換
  イチモツ→一物→「一物」とは、一番の物・唯一の物の略で、一物を探す番組

以上が、『どぶろっくの一物』という目立たせるタイトルをつけて、ロケ番組として成立させるために考えたロジックになります。

そして、ローカル局制作の番組を目立たせる第一歩として、当社として初めてのTVer配信に挑戦しました。配信を始めて1年間(※2023年6月執筆時点)の感想ですが、収益面よりも認知度拡大ツールとして、TVerはローカル局の立場からしたら非常にありがたいプラットフォームだと感じています。 結果として、全国放送の番組プロデューサーに知っていただき、『マツコ&有吉 かりそめ天国』(テレビ朝日系列)『坂上&指原のつぶれない店』(TBS系列)など系列外にも関わらずさまざまな番組に取り上げていただきました。

さらに、一番大きかったのは、フジテレビ系列で2023年1月に始まった『ぽかぽか』。その中の「FNSおすすめジモTV」というコーナーで、系列内さまざまな番組がある中、トップバッターで『どぶろっくの一物』を取り上げてもらえたことです。おかげさまでTVerのお気に入り登録者数が、約1万人増えました。本当に感謝しております。

どぶろっくの一物①.jpg

「敷かれたレールを壊す」番組作り

ここからは、制作現場の話になります。 
基本的な収録スタイルは、どぶろっくさんに1泊2日で佐賀にお越しいただき、2日間で4本撮りをしています。「どこまで事前に仕込んでいるのですか?」とよく聞かれますが、基本的に決めているのは、スタート地点だけです。そこからは、街の皆さんに聞いた「どぶイチ(一物)」を数珠繋ぎで巡っていきます。事前にリサーチした強いネタを仕込むことも可能ですが、現場で一番面白いネタを拾えるように、余白の部分を多く残しています。
どぶろっくさんの臨機応変に対応できるロケの腕前。また、現場で即座に面白いに飛びつける優秀なディレクターと技術スタッフのおかげで、「敷かれたレールに沿った番組作り」を壊し、面白い最優先の番組制作ができています。 
そして、「愛」「熱量」「同じ笑いのベクトル」。『どぶろっくの一物』全スタッフで大事にしている方針です。 

「愛」:どぶろっくさんのことを私が一番好きだ!という想い
「熱量」:スタッフ全員で面白い番組をつくる!という熱いハート
「同じ笑いのベクトル」:笑うタイミング、沸点がスタッフ全員一緒

なんだか言葉にすると恥ずかしくもなりますが、胸に刻んでいる言葉です。開始当初は、「番組タイトル」に関して視聴者からお叱りの電話やメールが多く、社内の視聴者対応の皆さんには大変なご迷惑をおかけしました。本当に申し訳ありません。しかし、今ではクレーム等は一切なく、「取材に来てほしい」との要望や感謝のメールなどが届いています。寛大な視聴者の皆さまに感謝です。
また、メイン提供スポンサーも1社からのスタートでしたが、今では6社の提供スポンサーがついてくれました(※2023年6月執筆時点)。寛大なスポンサーの皆さまに感謝です。
そして今は、番組の力を活かしたビジネスに挑戦しています。営業部とアイデアを出しながら進めていて、2023年の秋に第一弾を実現できそうです。

どぶろっくの一物②.jpg

ローカル局の存在意義=視聴者の幸せ

最後に、私が想像している未来の話です。
ユーザーファーストで考えると、全番組のリアルタイム配信、そして、全番組をいつでもどこでも自由に見ることができる――そんな時代が必ず訪れます。ただ、既存のビジネスモデルで考えると、コンテンツ数の少ないローカル局は圧倒的に不利です。

では、ローカル局の存在意義とは何か。
当社で言うと、佐賀県唯一の民放として、佐賀の情報発信においては、どの放送局にも絶対に負けないということです。この強みが、今後ローカル局が生きていくヒントではないでしょうか。『どぶろっくの一物』が当社のフラッグシップとなり、AIにはできない、人の熱い心がこもった番組を"チームどぶイチ"全員で作っていきます。

視聴者の幸せを第一とした好循環のビジネスモデルに。皆さんに楽しんで頂けるエンタメを佐賀から発信していきます。

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