LGがATSC 3.0チューナー搭載から手を引く 気になる米次世代テレビの行方

編集広報部

韓国の大手家電メーカーでグローバル展開するLGエレクトロニクスは、2024年から米国市場向けのスマートテレビへのATSC 3.0チューナー搭載を中止する。特許問題がその理由で、同社は9月15日に米連邦通信委員会(FCC)に報告書を提出した。ソニーやサムスン電子も追随する可能性があると米各メディアは報じており、ATSC3.0普及への影響が懸念されている。

ATSC 3.0の規格を構成する技術の一つ「不均一コンスタレーション」(NUC)の特許権侵害でLGを訴えていたのは、メリーランド州のConstellation Design社。今年7月にLG側が敗訴し、Constellation社への損害賠償金として168万ドルの支払いが命じられた。LGはこれまでATSC 3.0チューナー搭載スマートテレビが1台売れるたびに特許料として同社に3ドルを支払っていた。しかし、判決の結果、6ドル75セントに跳ね上がることに。LGはFCCに提出した報告書で「コスト的に不可能で製造中止に踏み切った。LGは長年にわたりローカル放送局を支持し、次世代テレビ技術の市場でも先陣を切ってきただけに苦渋の決断だ」と無念さをにじませた。

ATSC 3.0はIPベースの地上波放送規格で、配信に近い機能が提供できる。しかし、配信サービスがインターネット経由で進化・発展していく一方、ATSC 3.0の消費者レベルでの認知・普及がほとんど進んでいないという側面も。 米国内での特許をめぐる状況が変われば、LGは再度参入する意思を示しているが、ATSC 3.0を推進するテレビ業界にとっては痛手。ATSC 3.0チューナー搭載のテレビ市場が25年には成熟するとの予測も不透明になってきた。

次世代テレビを推進する組織「ATSC」(Advanced Television Systems Committee)のマデレーン・ノーランド代表は放送・通信業界誌「TV Tech」のインタビューに「全米の放送局のATSC 3.0導入への姿勢は変わらない。LGの一件は不測の事態だが、新技術の普及過程ではありがちなこと。おのずと解決されていくのではないか。推進団体としても解決のために尽力する」(抜粋翻訳=編集部)とコメントしている。

TV Techはさらに、「Constellation社の訴状によると、不均一コンスタレーションの技術はATSC 3.0の土台となるものと記されている。これほどの基本的な分野で、なぜ今ごろこのような事態が発生するのか」とノーランド代表に質問をぶつけている。これに対して同代表は「ATSCのメンバーである企業・団体には、それぞれが有する関連の特許状況をガラス張りにするというルールがあるが、Constellation社はATSCメンバーではない」と即答を避けた。これから参入する放送局へのメッセージを求められると、「放送局側の前向きな姿勢は変わらない。まだ参入していない主要市場であるニューヨークとシカゴが近く参入予定だ」との立場を強調した。

このコメントが掲載された直後の10月16日、ニューヨーク市とその周辺でATSC3.0の放送が始まった。約700万のテレビ視聴世帯を擁する米国最大のテレビ市場で初めての導入だ。CBS系のWCBS、NBC系のWNBC、テレムンドの WNJU、 公共放送サービス(PBS)のWNET、WLIW、WMBQ-CDの6つのローカルチャンネルで次世代放送の視聴が可能になった。ATSC3.0を推進する企業の連合体「パールTV」も10月19日に「ATSC3.0チューナー搭載テレビは全米で毎日1万台が販売されており、今年末には全米で1,000万台超になる」との予測を発表。LGが手を引くことへの影響を最小限にとどめたい推進側の思惑がうかがわれる。

この問題でNAB(全米放送事業者連盟)は10月17日、米連邦通信委員会(FCC)に意見書を提出した。特許やライセンスをめぐる問題にFCCはなんら法的根拠に基づく権限も有しておらず、規制の対象ではない問題への介入は控えるべきであるというのがその主張だ。FCCが行き過ぎた規制に手を広げることにくぎを刺すもので、その前にATSC3.0の普及に向けて「送信側(放送局)と受信側(メーカーと視聴者)の双方で移行を加速するための追加的な方法を積極的に模索すべき」と強く求めている。

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