チューリップテレビがドキュメンタリーフェスティバルを開催 招待作品も交えた12本を上映

編集広報部
チューリップテレビがドキュメンタリーフェスティバルを開催 招待作品も交えた12本を上映

「ドキュメンタリーフェスティバル2023」が6月9日(金)―11日(日)、富山市の富山大学・黒田講堂で開かれた。主催のチューリップテレビが制作した『はりぼて』などに招待作品3作品を加えた映画5作品と、旧統一教会をめぐる調査報道『からくり~政治家、富山、旧統一教会~』(ギャラクシー賞「報道活動部門」で優秀賞受賞ほか)、新幹線のフロントガラス製造の職人に密着した『究曲』、富山県が計画する立山の観光開発の真相に迫った『沈黙の山』など、いずれも民放連賞などで入賞を果たした同社制作のテレビドキュメンタリー7作品の計12本が3日間にわたって上映された。各作品の上映後はディレクターらによる舞台あいさつと、来場者との質疑応答も行われた。チューリップテレビがこうしたドキュメンタリーの上映会をイベントとして実施するのは初めて。

招待作品は次の3本。東日本大震災で、全校児童の7割に相当する74人の児童(うち4人は行方不明)と10人の教職員が亡くなった宮城県石巻市の大川小学校の惨事がなぜ起きたのかを知りたいという親たちの10年にわたる記録映像をもとにした『生きる 大川小学校津波裁判を闘った人たち』(監督・寺田和弘)。東海テレビが自局の報道部内にカメラを向け、テレビ報道が抱える問題を描いた『さよならテレビ』(監督・圡方宏史)。『なぜ君は総理大臣になれないのか』(監督・大島新)は、小川淳也衆院議員の姿を17年にわたり追い、日本の政治のあり方を問うた。チューリップテレビからは、同社がスクープ報道した富山市議会議員による政務活動費の不正使用問題で14人が辞職した事件を追った『はりぼて』(監督・砂沢智史、五百旗頭幸男)、けがをして飛べなくなり富山に一羽取り残された白鳥の世話をする地元の男性の姿を描く『私は白鳥』(監督・槇谷茂博)の2本だ。いずれも、すでに劇場公開されている。

トークセッション「政治とメディア」

10日(土)には上映作の制作者によるトークセッションが行われた。大島新(映画監督)、阿武野勝彦(東海テレビ)、五百旗頭幸男(石川テレビ、元チューリップテレビ)、槇谷茂博(チューリップテレビ)の4氏が登壇、大島氏をコーディネーターに、「政治とメディア」をテーマに意見を交わした。

大島氏が、新田八朗富山県知事と旧統一教会の関係を追ったチューリップテレビの『からくり』の放送後、知事との関係はどうかと質問。槇谷氏は、知事から"偏向報道"との批判を受けたり、会見で逆質問されたりと緊張が続いたことを振り返り、「そのやり取りを正確に伝えることに徹した」と応じた。

続いて、大島氏が阿武野氏に、「物議をかもす作品を放送して会社の中で『やめろ』と言われないか」と質問。阿武野氏は「波風を立てるためにやっているのではなく、伝えるべきことがあるから作っている」と述べた。また、『さよならテレビ』(2020年1月公開、テレビ版は2018年9月放送)については「いまもハレーションの中にいる」と明かすとともに、「映画は公開後も各地で上映されるなど長期間、見る機会があるので、反響が会社に寄せられ、それによって作品の評価が変わっていく」と、テレビと映画の特性の違いをあげながら映画として世に問うことの意義を語った。

ローカル局によるドキュメンタリー映画の制作が増えていることにも話が及び、五百旗頭氏は「飽和状態でヒットするのは難しい」としながらも、見ている人を信じて自分の表現を試行錯誤していきたいと述べた。槇谷氏は、映画にすることで局として大事なものを培え、視聴者との接点が全国規模に広がる、とその意義を強調。『はりぼて』を見てチューリップテレビへの入社を希望した社員もいることを紹介した。

権力のウオッチドッグとしての報道機関の役割が理解されていないのではないか――大島氏はこう投げかけた。五百旗頭氏は、馳浩石川県知事が石川テレビのドキュメンタリー映画『裸のムラ』で自身や職員の肖像権が侵害されたと主張し、石川テレビ社長の記者会見への出席を求め、石川テレビがこれを拒否すると、定例記者会見を開かず、必要に応じて随時会見を開くとしていることを例示。知事のこうした行動を批判するメディアに対してバッシングが起きるのが現状としつつ、「石川県のメディアは他人事扱いせずに声を上げるべき」と述べた。槇谷氏も、会見に参加する記者はもっと質問をして住民への情報公開に対する権力側の姿勢をただすべきと呼応した。

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<左から大島新氏、阿武野勝彦氏、五百旗頭幸男氏、槇谷茂博氏>

政治家と旧統一教会との関係を追った『からくり』

チューリップテレビのドキュメンタリー『からくり~政治家、富山、旧統一教会~』(2022年12月30日放送)がフェスティバル最終日の11日(日)に上映された。上映後の質疑では、旧統一教会と政治家との関係や記者会見での県知事とチューリップテレビ記者とのやりとりなどについて質問が相次ぎ、この問題への関心の高さをうかがわせた。ディレクターを務めた松澤光聡氏は、「1990年代から統一教会を取材していた記者は教団の責任を追いきれなかったことに忸怩たる思いを抱いている。いまこそ、うやむやにせずに追及したい」と意気込みを語った。

初めてとなった今回のイベントのプロデューサーを務めた服部寿人同社取締役は全日程の最後にあいさつに立ち、「記者はひるんだり、迷ったりすることもあるが、市民の皆さんに背中を押してもらうことが力になる。今回のドキュメンタリーフェスティバルで作品を見てもらい、声をかけてもらい、励みになった。報道は、権力の監視が大事であり、調べて伝えることがいかに重要か再確認できた。これからも市民の皆さんとディスカッションする機会をつくりたい」と結んだ。

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