引き続き、2023年3月に民放連研究所が実施した、放送のネット配信へのニーズに関する調査の結果です。今回は、地上波民放が行う見逃し配信に関する部分の調査結果を中心にご紹介します。
民放の見逃し配信利用経験者は半数に近づく
まず、地上波民放テレビが行う見逃し配信サービスの利用経験です。これにはTVerのほかに、民放テレビ各社の独自配信サービスが含まれますが、NHKプラス、NHKオンデマンド、各種SVODは含まれません。利用したことがある人は、ほぼ毎年増加していますが、その増加幅はそれほど大きくはなく、爆発的にではないですが、年々着実に拡大しているといったところです。もうすぐ半数を超えそうですね(図表4)。
<図表4.地上波民放テレビ見逃し配信の利用経験①>
図表5は、同じ設問の2023年調査を性・年齢別に集計したものです。男女ともに年齢が若くなるほど利用経験者が増えますが、それほど大きな増え方ではありません。女性の場合は20代と30代、30代と40代の間に割合大きなギャップがありますが、男性の場合は、上の年齢層になるほど徐々に経験者が少なくなる傾向です。このギャップの理由はよくわかりませんが、興味深いですね。20~30代男性はテレビ個人視聴率が最も低い層ですが、見逃し配信の利用経験率は、ほかの男性年齢層に比べて遜色ありません。見逃し配信はテレビ番組だけですから、これはやや意外です。リアルタイムでテレビをあまり見ない層でも視聴端末や時間の制約がなく、好きな番組だけを見られるオンデマンドなら見るという人は、少なからずいるということのようです。なお、ほぼ全ての年齢層で女性の方が利用経験率が高いのは予想通りでした。
<図表5.地上波民放テレビ見逃し配信の利用経験②(性年齢別集計、2023年調査)>
見逃し配信の性年齢構成は特に偏っているわけではない
図表5は各性年齢層ごとに"ある"、"ない"の比率を示していますが、性年齢層別の回答者数にはかなりの違いがあるので、全体の利用経験者の中での性年齢層別の構成比はわかりません。そこで、地上波民放見逃し配信視聴経験者の性年齢層別比率を、この調査結果の実数から推計してみたのが図表6です。右側に参考までにこの調査の回答者全体の性年齢構成を提示しました(この調査では日本全体の性年齢構成に合わせるように回答者を割り付けていますので、ほぼ日本全体での性年齢構成とお考えください)。全利用経験者の性年齢構成比が、右側の(ほぼ)日本全体の性年齢構成比よりも明らかに高そうな部分を赤で、明らかに低そうな部分を青で示しました。女性の20代、30代は見逃し配信経験者の比率が、日本全体での構成比よりも高く、逆に60代男性では低いことがわかります。全体として女性は多いですが、見逃し配信経験者の性年齢構成と日本全体の性年齢構成との差異はそれほど大きくはないと言えそうです。
これは地上波民放テレビの番組は、特定の層だけでなく幅広い層に見られるものであることに加え、既に見たように、リアルタイムではあまりテレビを見ない若年層も、オンデマンドならある程度はテレビ番組を見ていることによるもの、と考えることができそうに思いますが、いかがでしょうか?
<図表6.地上波民放テレビ見逃し配信利用経験者の性年齢別構成比(2023年調査)>
利用者が増えてもあまり変化しない視聴時間量の構造
次に、地上波民放テレビ見逃し配信の利用時間量に関する設問を見てみましょう。この調査では、利用経験者に対して、見逃し配信の利用時間を「たまに(不定期)」「週あたり合計で1時間未満」「週あたり合計で1時間以上~3時間未満」「週あたり合計で3時間以上~6時間未満」「週あたり合計で6時間以上~20時間未満」「週あたり合計で20時間以上」「(ほとんど)利用していない」の7つの選択肢で聞いています。
これを"ヘビー"(「週あたり合計で6時間以上~20時間未満」+「週あたり合計で20時間以上」)、"ミドル"(「週あたり合計で1時間以上~3時間未満」+「週あたり合計で3時間以上~6時間未満」)、"ライト"(「たまに(不定期)」+「週あたり合計で1時間未満」)と"ほとんど利用していない"の4カテゴリーに統合して時系列で示したのが、図表7です。
<図表7.地上波民放テレビ見逃し配信の利用時間量(利用経験者のみ)>
"ほとんど利用していない"と"ライト"は2022年まで漸減し、2022-2023年はほぼ横ばいです。ミドルは2022年まで漸増で、2022-2023年は微減です。"ヘビー"は足元で横ばいでしょうか。全体の視聴時間量は2022年までは増えていたようですが、2023年にかけては余り変化が見られません。
前に見たように利用経験者の裾野は、年々少しずつですが拡大しており、利用時間量の構成も毎年少しずつ変化していると言えますが、それほど大きな変化は見られません。利用経験者全体の3分の1程度が週に1時間以上利用するミドル/ヘビーユーザーで、3分の2が1時間以下のライトユーザーと普段はほとんど利用しない人、という大きな構造に目立った変化はみられないようです。
SVODの利用時間量推移はセオリー通り
ちなみにSVODの契約者にも同じことを聞きましたので、その結果をご参考までに図表8にお示しします。前々回のこの連載でお示ししましたように、この調査ではSVODの契約率は2020年から2023年の間に33.7%から52.7%へと約20%増えました。同じ期間に契約者のSVOD利用時間量はヘビーユーザーの割合が漸減し、逆にミドルユーザーが漸増、ライトユーザー+ほとんど利用しない人はほぼ横ばいです。契約者数が増えればヘビーユーザーの含有率が低下し、ミドルユーザーが増えるというのはセオリー通りと言えます。
利用者数が増えているにもかかわらず、見逃し配信ユーザーの利用時間量の構成にSVODのように割合はっきりしたトレンドが見えないのは、見逃し配信サービスの内容、充実度自体が向上しているからなのかもしれませんが、SVODに比べると利用経験者の増え方が緩やかですので、確かなことを言うのは難しいです......。
<図表8.SVODの利用時間量(契約者のみ)>
"テレビ番組離れ"ではない?
最後に、ここでも20代のデータを確認しておきましょう。図表9は20代の地上波民放テレビ見逃し配信利用時間量を男女別に示したものです。ヘビー、ミドル、ライトとも全体とそれほど大きな差異はありませんが、ミドル、ヘビーは、男女ともに全体よりもやや多いかもしれません。これもリアルタイムの放送とは様相がかなり異なると言えます。
<図表9.20代の地上波民放テレビ見逃し配信利用時間量(2023年調査)>
いわゆる"若年層のテレビ離れ"は、"テレビ受信機離れ"と"テレビ番組離れ"に分解できると考えますが、"テレビ受信機離れ"が進行する一方で、"テレビ番組離れ"は、世の中で思われているほど進行していないのかもしれません。この点については、別の調査、ないしは来年のこの調査で詳しく調べてみる必要がありそうです。
タイパ志向に対応したコンテンツ提供が必要
いずれにしても、デバイスの制約と時間制約の両方から解放されるオンデマンド配信は、視聴者数の減少を、配信を含めてトータルで食い止めるための有効な手段であることは、論を待たないと思います。この連載でも繰り返しお話ししてきましたが、海外でも放送事業者のネット配信の中核は、現在でもライブ配信ではなく、間違いなくオンデマンド配信です。若年層を中心としたタイパ志向が強い人は、自分で選んだ、あるいはリコメンドされたコンテンツだけを効率よく視聴し、時間を無駄にすること(=面白くないコンテンツに当たること)を極端に嫌うとされています。それがリアルタイムのテレビ視聴率が減少し続けることにつながっていると考えられますが、オンデマンドならある程度見てもらえる可能性がありそうです。もっとも、そのためには、彼らが見たいと思う番組を的確にリコメンドする機能やソーシャルメディアなどを使った拡散が必要になるのでしょう。
今回はオンデマンドでしたが、次回からは、民放とNHKプラスに分けて、放送の同時配信のニーズに関する設問の結果をご紹介していきます。