【ラジオから提言!放送の未来】「農とラジオ」 ふたつの軸足で番組作る

三浦 宏之
【ラジオから提言!放送の未来】「農とラジオ」 ふたつの軸足で番組作る

放送の未来を第一線の放送人に語っていただくリレー企画(機関紙「民間放送」で2018年5月から不定期連載しています)。今回は、J-WAVEで「LOHAS SUNDAY」「RADIPEDIA」などの番組を手掛けたのち山口へ移住、現在は広島エフエムなどで番組制作に携わる、三浦宏之さん。


農家が農業以外の仕事を組み合わせて生計を立てることを半農半Xと言います。私の場合は半農半ラジオ。瀬戸内の島で米づくりをしながら、現在は広島エフエムで週3本の番組を制作しています。

東京での食と環境をテーマにした番組制作の経験から、自らの食に関わりたいという思いが生まれ、2013年に山口県周防大島町に移住、お百姓仕事をはじめました。農業収入だけでの生活は簡単ではなく、半農半XのXを探しはじめた時に仕事をもらったのがエフエム山口です。自宅から山口市のスタジオまで約100キロ、高速道路を使って約2時間。日本全国どこでも、放送局はその土地の県庁所在地などのいわゆる都市部にあって、自分のような田舎の中の田舎に暮らす人間が放送に携わるのは珍しいことです。しかし、圏域の多くの人と同じように、自然の近くで生活しているこの感覚を電波に乗せることの意義を感じ、遠距離でも通い続けました。

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<周防大島と本州を結ぶ橋>

そして、事件が起きたのは3年前の秋、米の収穫をはじめたころ。外国船籍の船が島と本州を結ぶ橋に衝突して水道管を破断、40日に及ぶ全島断水に見舞われました。島民の生活はもちろん、観光産業にも大きなダメージを与えました。その年末年始にエフエム山口で編成されたのが、周防大島の観光を応援する特別番組。観光情報を中心にした番組の制作をはじめるころ、企画書を見た社長から話がありました。「これなら山口のスタッフでも作れる。島に住んどる三浦君にしか作れん番組でなきゃつまらんよ」。この言葉をきっかけに、断水中の島民の暮らし、その喜怒哀楽に触れるインタビューを中心にした番組「Dance in the island~周防大島に生きる」を、同じく周防大島在住の僧侶兼農家で、銀杏BOYZ元ギタリストの中村明珍とともに制作しました。お百姓仕事の合間に「あの人のこの話が面白い!」などと話し合いながら、島の日常的な会話、だけど心のヒダに触れる言葉たちを記録し電波に乗せました。

19年1月の第1回から現在まで全5作を放送。その時々に注目したい話題と人を選んで制作を続けています。この島に暮らす人間だから聞ける言葉、普段着の声があります。地域の些細な出来事を取り上げて広く伝えることで、島に暮らす人はもちろん、ほかの地域の人も自分の身に置き換えて、地域の魅力を感じるきっかけ、考えるきっかけになると思っています。

この番組は、第3回放送から製作委員会方式を取り入れ、島に思いを寄せる人たちからの寄付を集めて放送しています。局の懐事情で無くなる心配をせずに続けていく方法として思いついたのが、自分たちがスポンサーになることでした。大きな企業の広告宣伝費に頼るのではなく、少しずつ多くの人に依存しながらの番組作りは、地方局だからこそできたことだとも思います。無償でもしたい仕事、(多少は)身銭を切っても作りたい番組です。


「Dance in the island~周防大島に生きる」の番組サイトはこちら

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