放送局のサステナビリティ活動について

吉川 裕介
放送局のサステナビリティ活動について

2015年に国連サミットでSDGsが採択され、2030年という目標達成期限までちょうど折り返し点を迎えました。SDGsについての世の中の認知度も高まり、企業としてのサステナビリティに対する取り組みもどんどん加速しています。

サステナビリティ活動事例集の作成

民放連でも、これまで総務委員会(委員長=林尚樹・CBCテレビ取締役副会長)の下部組織である環境対策検討部会で、温室効果ガス削減の数値目標を盛り込んだ「環境行動目標」を策定したり、環境問題への意識を高めてもらうため、地球環境問題啓発スポットCMを制作してきました。私もその部会の委員を務めさせていただいていますが、2022年度からはサステナビリティ推進部会と名称を変え、持続可能な未来へ向けて新たにどんなことができるか検討を続けています。

その取り組みの一つが、昨年度に制作した「ラジオとテレビのサステナビリティ活動事例集」です。民放連のウェブサイトで公開されていますが、気候変動、環境保護、子育て・教育支援など、それぞれの地域性を生かしながら、会員各社が進めているサステナビリティ活動を集約したもので、各社の具体的な活動を知るよい手がかりになります。
今後どのようにサステナビリティ活動を進めていくかについては、多くの社が模索されているところかと思います。フジテレビでもいろいろ試行錯誤を繰り返しながら進めているところですが、僭越ながらこれからご紹介する私たちの取り組みを一つの事例としつつ、今後を考えるうえで、なんらかの参考にしていただければ幸いです。

フジテレビの取り組み

フジテレビのこれまでの歩みを振り返ってみますと、2006年にCSR推進室を設置、全社横断によるプロジェクトチームを作り、CSR活動をスタートさせました。ただ、当初はCSRに関して社内の理解もなかなか進まず、何をすればよいのか手探り状態でした。社屋周辺の清掃活動を実施したり、まずできることをやっていたように思います。いろいろなアイデアを出し合う中から、いくつかのプロジェクトがスタート。アナウンサーによる出前授業「あなせん」や食育出前授業、被災地支援活動などと、どんどん活動内容が広がっていきました。2018年には国連グローバル・コンパクト(署名は親会社フジ・メディア・ホールディングス)およびSDGメディア・コンパクトに署名、そして社会課題の解決を目指す人々を紹介するレギュラー番組『フューチャーランナーズ~17の未来~』(水、22・54-23・00放送)がスタートしました。

当社がSDGs推進キャンペーンをスタートさせたのは2021年でした。「楽しくアクション!SDGs」と銘打ち、フジテレビ、BSフジ、ニッポン放送の三波連動キャンペーンとして始まりました。年2回強化期間を定め、その間SDGsに関する特番を放送したり、レギュラーのニュース、情報番組等で集中的に企画を放送しています。またオリジナルのブランドマークも制定しました。始めた当初は、社内での連携は必ずしも十分ではありませんでしたが、関係部署との社内横断のオンラインミーティングを開き、協力要請や情報共有などを繰り返すことで、次第に定着してきたように思います。

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<「楽しくアクション!SDGs」アンバサダーのEXIT>

こうした中、今年前半の「楽しくアクション!SDGs」キャンペーンの中で、ある試みを行いました。ゼロカーボン番組です。3週連続で放送した特番のひとつ『EXITの未来を本気(マジ)で考えるⅢ~フューチャーランナーズSP~』(2023年1月28日放送)で初めてカーボンゼロを達成しました。サステナブルな番組作りを目指して、最初の段階から「環境に配慮した番組制作のための心がけ」と記した「グリーンメモ」を制作し、スタッフ・関係者全員と共有しました。移動の際はなるべく公共交通機関を利用する、ゴミになるものはなるべく使わない、マイボトルを持参するなど細かい取り決めをし、できるだけCO2を排出しないよう心がけました。そのうえで、イギリスのオンラインツール「アルバート」を使用して、番組制作で排出したCO2量を算出、それに見合った再生エネルギー由来のJ―クレジット*を購入し、実質的にオフセットを実現させました。
海外ではこうした試みはどんどん進行していますが、日本ではまだまだこれからかと思います。ただサステナビリティにおいて大変重要なテーマである地球環境の保全に向けて、今後放送業界で、カーボンゼロの取り組みは進んでいくのかもしれません。

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「気候キャンペーン」の実施

気候変動に関して言えば、昨年SDGメディア・コンパクトに加盟している多くの社が、国連広報センターと組んで、気候キャンペーン「1.5°Cの約束―いますぐ動こう、気温上昇を止めるために。」(=冒頭写真)を実施しました。世界の平均気温上昇を産業革命以前と比較して1.5°Cに抑えようというものです。140社を超える社が参加した世界初の大規模な気候関連のキャンペーンで、国連本部からも非常に高い評価を得ました。
各社でさまざまな取り組みを実施されたと思いますが、在京キー局5社とNHKは一緒になって共通動画を制作したほか、6局のキャスターが一堂に会した特別番組も放送しました。今年の秋も同様のキャンペーンを実施するべく、各局間で調整が行われています。
こうした動きはこれまではあまり考えられないことでしたが、共通の社会課題に対して、垣根を越えて、各社が一緒に取り組むという傾向は、今後ますます増えていきそうです。

サステナビリティについて言えば、こうした脱炭素や地球環境保全など環境分野以外にも、経済分野、社会分野での取り組みが求められます。
フジ・メディア・ホールディングスは、昨年サステナビリティ宣言を策定し、今年は重要課題・マテリアリティを定めました。「誰もがいきいきと暮らせる社会の実現」や「働きやすい職場環境の整備」など、5項目を掲げています。人権や労働環境、多様性、地域への貢献など、サステナビリティに関するテーマは多岐にわたっており、当社においても、これから進めなければならない課題が多く残されています。

放送局だからこそできる活動を

放送局のサステナビリティ活動を考えるにあたっては、私たちの強みは何なのかということをあらためて意識してみる必要があると思っています。
インターネットやSNSの普及で、多くの方々がそれらを通じて情報を取得したり、コンテンツを観る時代となりましたが、民放連研究所が昨年7月に公表した「テレビの広告効果に関する研究」でも、放送の持つ力は依然大きく、効果的な媒体であることが明らかになっています。本業である放送を通じて、あるいは放送局だからこそできる活動、イベント等を通じて、サステナビリティの諸課題について、伝えていくこと、考えていただく機会を提供することは極めて意味のあることだと思います。パートナーシップの輪を広げ、社会課題の解決という大きな目標に向けて進んでいくことは、テレビ、ラジオの重要な使命であると感じています。


(*)J―クレジット=温室効果ガスの排出削減量や、吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。省エネルギー設備の導入や、再生可能エネルギーの利用により、CO2を削減した企業や団体が国に申請し認証を受けると、発行された「J-クレジット」は他の企業や団体等に販売することができる。

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