民放ローカル局が取り組む動画サイト「のぞいてニッポン」の目的と狙い

安藤 聖泰
民放ローカル局が取り組む動画サイト「のぞいてニッポン」の目的と狙い

プラットフォームの提供やライブ配信イベントなどを手がけるLiveParkは、全国の民放ローカル局(テレビ13社)と楽天グループとの共同でコンソーシアム「のぞいてニッポン運営委員会」を設立し、民放ローカル局が制作したテレビ番組コンテンツの配信を通じて全国に地域の魅力を発信する動画サイト「のぞいてニッポン」を2023年7月14日に開設しました。この目的や狙いについて、機会をいただいたのでお話ししたいと思います。


テレビやネットの広告費の変化

生活者のメディア接触時間の変化は、特に若者のテレビ視聴時間の減少傾向などが広告主の広告配分に影響を与え、今後テレビ業界は動画配信を通じて「インターネット広告」をどう取り込むかが大きな課題となっています。
ただし、「インターネット広告」の中でもコロナ禍を経てみえてきたさらなる変化の兆しがあります。電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、「物販系ECプラットフォーム広告費」が年々増加しており、ここに今回着目しました。

ローカル局の課題

全国の民放ローカルテレビ局も前述の変化の波を受け、その経営課題だけではなく、今後のあり方自体が大きく問われる局面となっています。テレビ業界全体が抱える課題に加え、地域の人口減や地域経済の疲弊の影響も受ける「二重苦状態」を抱える局も少なくありません。
将来に目を向けると、大都市圏の地上波番組がVODやリアルタイム配信等を通じて全国で直接視聴できる環境が整いつつある中、ローカル局の重要な役割の一つである「全国ネットの番組を自局エリアの視聴者に届ける役割」に依存し続けることは、長期的には課題の一つになっています。
そんな中、多くのローカル局が動画配信に着手し始め、実際にいくつかの成功例も生まれつつあります。
一方で、ローカル局の番組の多くは全国規模の番組の中では埋もれやすく、視聴されにくい状況であることは明らかです。動画配信事業におけるビジネスモデルは、契約等によって多少の差はありますが、最終的には収益が「再生数」に比例しやすいモデルであることも、配信事業に対し積極的に取り組みにくい理由となってます。このため、少ない視聴者でも単価の高いビジネスモデルの構築が急務であるといえます。
そして、もう一つの課題はデータの利活用です。ローカル局は、最近まで視聴率は全てのローカル局の全てのエリアで計測できていたわけではなく、加えてコンテンツ接触から購買行動までの正確な行動データの計測などは非常に困難とされてきました。日常的にそのような取り組みを実施してきたわけではなく、全体的にノウハウが非常に少ないといえます。

ローカル局の価値

ローカル局は地域密着メディアとして地元住民の信頼を得ており、地元のニュースや情報番組、災害情報などのローカル局が提供する情報は、地域住民にとって必要不可欠であり、長年の実績により、地元での圧倒的ブランド力と発信力という強みは疑いようもありません。
ローカル局がこれらの強みを活かしながら自身の役割を再定義し、地域とともに成長するような新たなビジネスモデルを模索する中、今回のプロジェクトが生まれました。

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楽天と地方創生

LiveParkが楽天グループとさまざまな取り組みを開始したのが2019年後半。
両社がそれぞれの得意分野であるコンテンツとEコマースの連携や、楽天の持つ1億以上のIDやデータの利活用を中心に取り組みを進めてきました。特にコロナ禍を契機にEC利用者が急増したタイミングでもあり、ライブコマースなどの取り組みも活発化しました。
一方で、これら事業を推進しながらも、楽天との討論の中で頻繁に出てきたテーマは「地域課題の解決」でした。楽天市場に出店する数多くの地域事業者のほか、楽天トラベル等の各地の施設や観光事業者、国内トップの取り扱いとなっているふるさと納税など、楽天にとって地域の活性化は重要なテーマであるということが見えてきました。

「のぞいてニッポン」による課題解決

今回のスキームはLiveParkと楽天グループ、そして民放ローカル13局によるコンソーシアム型の運営による座組みとしました。これにより、前述したローカル局における多くの課題を解決できると考えています。

<サイト集客の課題を解決>
これまでローカル局の施策の多くが各局単位などによる小規模な展開であり、集客に苦戦する状況がありました。その理由は、1局でやっても「自局エリアのユーザーにしか告知がリーチしない」という点です。これについては今回、複数エリアの13局が連携しており、各局の放送波やウェブ、SNS、アプリの通知などを活用し、相互送客を行うところがポイントとなっています。そのうえで、楽天市場や楽天グループの各種サービスなどからの誘導やポイントキャンペーンなどと組み合わせた大量集客などにより、この課題をクリアできると考えています。

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<ただ動画を並べただけは見てもらえない課題を解決>
テレビ番組の動画配信サイトには「バラエティ」「ドラマ」「ニュース」「スポーツ」などのカテゴリーに分けて、より番組を視聴しやすくする工夫がされています。一方でローカル局の動画をただこのカテゴリーに分けて並べても、人気番組等に埋もれて視聴されることが難しいかもしれません。そこで今回のサイトでは、「県別」にウェブページを分けました。例えば、大分県のページにある情報は全て大分県のコンテンツ動画しかありません。
ローカル局の動画を視聴者が見る"きっかけ"がつかみにくいことは否めません。ご存じのとおり、動画配信の欠点は「視聴しなければ面白さがわからない」という点にあり、ローカル局の動画の多くは「一度見始めるとずっと見てしまう」優れたものです。
実際にLiveParkでは、今回各局からお預かりした動画をスタッフ各自が数百本以上視聴しています。スタッフ同士で「この動画は普通のグルメ取材と思わないで、リアクションが面白いよ」「実はこの番組の、2分32秒後以降の工場取材の部分が笑えます」などのやり取りをしているうちに、この見どころを紹介する役割が必要ではないかとの結論に至りました。
「のぞいてニッポンライター」略して「のぞポンライター」で構成された編集部を、LiveParkで運営し、彼らがひたすら「見どころ」をウェブサイト上やSNSなどで発信し続ける工夫をしよう!となりました。

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<再生数依存では厳しいローカル局コンテンツの課題解決を>
ここまでに紹介した施策により、視聴いただいたユーザーの皆さんはおそらく「地域の何か」に興味を持ったはずです。その時点で、地域の何かに関する広告は効果があります。地域に対する何らかの知識の獲得や好感、興味などは少なくとも向上すると私はみており、後述する実証実験のデータ分析により一定の効果が確認されています。
加えて、楽天の広告を活用するというのも今回のポイントです。一般的なウェブ広告に比べ楽天の広告はEコマースやトラベル予約に直結しています。仮に楽天内から誘導された既存の楽天ユーザーだった場合はなおさら、新規会員登録も必要なく、すぐにカートにつながる広告であり、広告単価も高いと聞いています。
そもそもローカル局の番組は、地域が絞られている一方で、その地域に興味を持った人に対して十分にターゲティングができているといえますし、その効果を活かせるものだと考えています。

<データ活用の課題を解決>
楽天グループは国内トップのID数を保有し、各種サービスを通じて、購買や宿の予約だけではなく、さまざまなデータと紐づいています。以前、今回のコンソーシアムに参加している愛媛県の南海放送と宮崎県のテレビ宮崎に協力いただき、アナウンサーに自局のエリアに街頭ロケに行ってもらい、地域の魅力を聞き出すという番組を制作、単発企画として配信しました。
その際、各局の動画を視聴した人の内訳は県外の人が9割以上。加えて、今までその県にふるさと納税などを行ったことがない人や、過去1年以内にふるさと納税の当該県の返礼品を一度も閲覧したことがない人たちが、この動画視聴後に閲覧したり、寄付をしたり、特にリンクすらなかった旅行予約をしている人が明らかに増加していることが計測できたのです。全てのユーザーにおいて、その視聴前後の態度変容が計測でき、そのデータを基にしたPDCAサイクルを回すことが可能であることが分かりました。

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ローンチ直後のセールス状況

現在は、ローカル局の強みを活かし、楽天と連携しながら地方自治体向けのセールスとともに、ふるさと納税等のプロモーションなどの契約を増やしているところです。
また、地域の地元企業や旅行会社と連携した展開なども準備中です。この繰り返しの中で、地域と連携し、地域に密着した情報発信を重ね、地域経済の活性化につながることを目指しています。

今後に向けて

「のぞいてニッポン」は、全国13の民放ローカル局からスタートしましたが、放送局や自治体からの問い合わせは増加しています。運営体制の制約から一気にエリアを広げられないという課題はありますが、近いうちにエリアを倍増させていく計画です。
参加局は、地方創生とともに自局の収益化を目指していますが、同時に「地元の魅力を全国に伝えたい」「この取り組みを通じて配信を意識した制作力を上げていきたい」という意向もあります。
広告収益や提携企業とのビジネスを通じて、地域経済の活性化を図ることも参加局の重要な狙いとなっていることが分かります。
「のぞいてニッポン」は、多くの人たちの理解をいただきながら、さらにエリアを広げ、地方創生を目指し、ローカル局の新たなビジネスモデル構築に挑戦していきます。各局にとって、この取り組みが大きな柱になることを願っています。
中長期的に持続可能な地域経済を実現するために、地域におけるローカル局の役割りや立場を確立し、地域のトップメディア企業として成長できることを共に目指していければと考えています。

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